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第四十六話 悔い

 穂澄は灯真の後ろについて行きながら、辺りを見回す。

 先ほど通った観音開きの扉から想像は出来たが、灯真に着いて行った場所は和一色に統一された屋敷であった。見渡せるほどある庭には松や池もある。それだけではない。和服を着た女中さん達がさきほどから何人も穂澄の隣を通っていた。

 ただそれでも穂澄の緊張を和らげるものはなかった。


「それが、お前が言っていたガキか?」


 不意に後ろから声を掛けられてバッと、過剰に反応してしまうが、そこにいたのは大雑把な雰囲気を醸し出しているながらも誰が見ても高そうなスーツを着こなす男性がいた。

 灯真もその声に反応してゆっくりと振り向く。


「相変らず神出鬼没ですね。久留間さん」


 久留間さんと呼ばれた男性は、薄く笑いながら、穂澄の横を通って灯真との距離を詰める。


「未練を残すなって言った筈だったがな?」


 胸倉を掴んで灯真に凄む男性。ただ灯真はそれをものともせずに軽くあしらう。


「穂澄くんは『未練』なんかじゃありません。私の計画に必要な人ですよ」


 男性は眉間に皺を寄せて凄い形相で穂澄を睨むが、すぐに灯真の胸倉を掴むと、屋敷の奥へ行ってしまう。


「ふう、痛かった」


「灯真さん……今の人は?」


 灯真は首もとのネクタイを軽く緩めて溜息を付く。多分胸倉を掴まれた時に絞まったのであろう。


「えっ? ああ、あの人は久留間龍介くるまりゅうすけさん。成松の遠縁の方です。ただ実質私が成松のトップにならなければ、彼がトップになるでしょうね」


 灯真はそう言いながらも、縁側を歩き続ける。穂澄は言葉を出そうとしたが、灯真はこれ以上喋るつもりはないのだろうと思い。口を紡ぐ。


「さて、気を落としている最中で申し訳ありませんが、妹さんがあの部屋にいますので、逢ってあげてください」


 灯真が指を差した先には庭の真ん中にポツンと建っているはなれがあった。

 俺は灯真さんに会釈をして、小走りではなれへと向かう。


「真希菜?」


 障子をゆっくりと開けて中を覗くと、そこには凛と、静かに寝息をたてている真希菜がいた。


「穂澄っ」


 穂澄がはなれに入ると、目尻に涙を溜めた凛が穂澄の胸の中に飛び込んできた。

 顔色が悪い。

 それが穂澄が姉に抱いた最初の印象だった。多分、真希菜の看病でろくに寝ていないのだろう。


「姉さん。少し寝た方が良い。俺も来たから、少し休んでいてくれないか?」


「でも……真希菜が…………」


「大丈夫、その為に俺が来たんだから」


 凛は小さく頷くと、真希菜の隣に横になる。

 と、1分も経たない内に小さな寝息をたてて凛が意識を落とす。

 穂澄は、小さく溜息を付きながら、執事服のタイを緩めて、凛とは反対側に行き、真希菜の横に座る。

 布団の中で寝息をたてている真希菜は見た目、何処も悪そうではなかった。ただそれは見た目だけで、内面は酷く痛んでいた。

 長い髪が掛かる顔を優しく撫でて、真希菜の顔を見つめる。


「ごめんな、一人にして……」


 俺は、目尻に溜まりかけた涙をそっと拭いて、真希菜のおでこを再度撫でた……






「――はい。……はい。そうです。こちらとしては、強行手段に出るしかありません。」


 相手が電話を切る事を確認してから、竣夜は乱暴にデスクへ受話器を投げる。


 数日前。穂澄が櫻坂を出て行った。

 それは灯真の要求どおりで、本当ならそこで終わるはずだったが、予想通り櫻坂と契約をしていた会社は成松に移り始めた。

 口約束でしかなかった為、守られるとは思っていなかったが、灯真の計画にしては少し強引な所があって、何処か、『らしく』なかった。

 優秀な灯真は準備を怠らない。ただ強引な企画の中には必ず穴がある。それが例え灯真が計画した物だとしてもだ。

 俺が、その穴を見つければ俺の勝ち。その穴を隠し通せば灯真の勝ちだ。


「鍵はドナルドか……」


 ドナルドは今、俺の前にはいない。前に頼んだ情報収集の件で暫く外に出ているのだ。あいつの情報が俺の切り札になるだろう。


「俺はどうなっても、いいが……あの邸だけは守らないとな…………」


 俺の脳裏には栞と尊の表情が浮かぶ。

 櫻坂の社長の椅子に悔いは無い……が、あの邸を潰すのには悔いが残る。

 あそこは俺が育った場所でもあるし、今現在。栞と尊が育っている場所でもある。それにあの二人を悲しませたくはない。

 ……いや、別にシスコンとかじゃないからな…………


「ドウモ、オ待タセシマシタ!」


 入ってきたのは、ドナルド。両手いっぱいに資料を抱えて入って来た。


「ああ、悪かったな。……で、どうだ?」


「言ワレタ通リ。グレーゾーンヲ大量ニ使イマシタガ、コノ通リ、無事デシタ」


「いやそうじゃなくて、情報だ」


「oh,sorry.コレガ資料デス」


 ドンッと大きな音をたててデスクの上に置かれる資料。厚さで言うと五十cmぐらいだろうか?


「徹夜だな……」


「徹夜デ終ワルンデスカ?」


「無理だな……」


 俺は、小さく溜息を付く。

 ただそれは苦ではなかった。

 会社をかけた灯真との戦い。スリル満点だ……




 俺は、そのまま顔のニヤケが止まらないまま、資料に手を伸ばしていった……


どうも、作者です。

何かシリアス展開になってしまってんですけど、如何したら良いんでしょうか? まあ、自分はこう言うのも好きですし、一応納得しているつもり(自己満足)なので、書き直しとかはしないんですが、とにかく早く完結させるように頑張ります。

感想&評価待ってます

投稿頑張ります。。。

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