第四十四話 計画・実は好きだった
「さてさて、穂澄くん。そろそろ本題に入りましょうか?」
食堂の椅子を引いて、軽く座り笑みを浮べる灯真。
栞たちを寝かせてから、心配になって真琴の部屋に行ってみたら、案の定、灯真が『一人』で出て来た。灯真の肩越しにはベッドに寝かされた真琴がいて、目は瞑っていた。どうやら、説得は出来なかったようだ。
俺は栞に叩かれた場所を押さえながら、向かえ側にあたる椅子に腰を掛ける。
「竣夜から、話は聞いているはずですから、単刀直入に言いましょう。成松に来ていただけますか?」
「……」
違和感が抜けない。
灯真は、何か急いでいるのか、何故態々またここに戻ってきた? 荷物になるものは全て捨てて、出て行ったはずなのに
「私は、ただの高校生ですよ? それも取って付けた様な敬語と、偶然持っていたスキルで何とか仕事をこなしている借金まみれのガキです」
「わかっています」
…………肯定されちゃった。
自分で言ったのになんだが複雑な気分……。
「穂澄くんは、何か、勘違いをしていませんか? 俺は傲慢で、自分勝手で、愛しかった人でさえ平気で踏みにじる男ですよ」
「じゃあ、何で俺を助けたんですか? 借金まみれで、親からも捨てられた俺を……自分が居なくなったときの為に、俺を残して、安心させようと……お嬢様達の為に――」
「――本当に、愉快な人ですね。穂澄くん」
「えっ?」
灯真は笑みを崩さない。ただ、平然と、シナリオ通りに進んでいるかの様にスラスラと喋る。
「俺は、確かにお嬢様達の支えを穂澄くんにやってもらう為に、穂澄くんを櫻坂に呼びました。ただ、それがどうしたんですか?」
「どうしたって……」
「こうは、考えなかったんですか? 『精神的支えになっている。穂澄くんを成松へ来させて、お嬢様達を骨抜きにする。』とね。お嬢様達の親が、現在海外支部にいる時点で、日本の支部の全決定権は竣夜にあります。竣夜はなんだかんだでお嬢様達が可愛いんですよ、お嬢様達が崩れれば、竣夜も崩れる。これが十年越しで考えた俺の計画です」
――声を出す事が出来なかった。
初めてあった瞬間から、灯真さんの計画は始まっていた。
そう考えると、体が震えた。今まで、過ごしてきた灯真の笑顔は全て仮面で作られたものだったんだ。
「……さあ、答えを聞きましょうか? 穂澄くん」
灯真の目が、妖しく光る。俺は、そのまま言葉を発する事が出来ず、ただただ灯真を見つめたまま、椅子に座る事しか出来なかった……
「むぅ……」
私は目を覚ました。
栞お嬢様も尊お嬢様も、昨日は夜遅くまで起きていられたが、流石に睡魔に負けて、徹夜は出来なかったようだ。
私はベッドから体を起こして、とり合えず、メイド服に着替える。
時刻はまだ、四時半。人が起きている時間ではないが、時期的に空はもう、朝日で滲んでいた。
私はお嬢様達を起こさない様に、ゆっくりと階段を降りて、一階の食堂へ向かう。
「穂澄?」
そこには、穂澄がいた。
目の下にクマができている所を見ると、寝ていないのであろう。
ただ、灯真さんはいない。
真琴さんは説得できなかった事は、昨日の夜に、穂澄と灯真さんが、食堂に入っていくのを見ていたのでわかっていたが、今、穂澄。一人だけが、ここにいるのは予想外であった。
何より、理解できなかったのが穂澄の横に置かれた、大きな荷物。
「水穂か……」
穂澄はバツの悪そうな顔をして、私を見る。
まるで、誰にも会いたくなかったような顔をして、ふぅと小さな溜息を付く。
「穂澄? どうしたの。灯真さんは?」
「一足先に成松に戻ったよ」
「一足先に……?」
私は、何故かその言葉に違和感を感じた。
いや、その穂澄の言い回しを聞けば、誰でも違和感を感じるであろう。
「……もしかして、穂澄。あんた……」
「ああ、俺は成松に行く」
「何で!? お嬢様達はどうするの! 学院は!? 執事は!?」
平然と言う穂澄の態度に、私は許せなかった。
だから、お嬢様達が、起きてしまう事を配慮せずに大声を上げてしまった。
「学院も執事も辞める。お嬢様達は……水穂がいるし、それで大変だったら家政婦でも雇えばいい」
「っ!?」
パァンッ
乾いた音が、食堂に響く。
怒りが、考えより先に体を動かした。穂澄の頬を、思いっきり叩いた。
だが、穂澄の顔は変わらない。痛そうな顔もしなければ、怒った顔もしない。
そんな、顔が私の怒りを更に煽る。
「何でっ! 自分で考えて、自分で思って、自分で決めて! それで、満足なの!? 勝手に自己満足に浸って、勝手にピリオドをうったような事思って!」
「関係ない。例えそれが、自己満足でも、俺には俺の考えがある。水穂、お前は俺のことが嫌いじゃないのか? なら良いじゃないか、俺が居なくなれば、お嬢様達を独り占めできるぞ?」
「関係ないだって……? 何言ってるの? そんな事ない、関係大有りよ!」
穂澄は表情を表に出さない。
「私は、確かにお嬢様達が好きよ! それこそ、百合って言われても納得しそうなぐらい好きよ! だけど…………だけど! それと同じぐらい。穂澄の事が大好きなのよ!」
「……えっ?」
やっと穂澄の顔が変わる。
私も自分の顔が赤くなって、それこそ発火するのではないかと思うぐらい。頭の中が、ぐらぐらしてきた。
しかし、ここまで来て引く事なんて出来ない。
「やっと気付いたの? 私は穂澄が好きなのよ! それこそ、最初は大嫌いだったわよ。闇討ちをかける計画だって練った事だってあるわ。だけど、日が経つに連れて、私の心の中に入ってきて……っ!? 何言ってるのよ私! 穂澄っ、責任取りなさいよ!」
「い、いや……無理だから、既成事実とか、そう言うのならまだしも、明らかな押し付けだし、ここで責任を取るって言ったら、絶対死亡フラグだしっ」
良し、いつもの穂澄に戻ってきた。
このまま行けば、とめられるかもしれない。
だが、私が思っていたほど、灯真さんは詰めが甘い人ではなかった。
「駄目ですよ。水穂さん」
いつの間にか現れていた灯真さんは穂澄と私の間に入ってくる。
そして、戻りかけていた空気は、あっという間に張り詰めたものへと再び変わってしまう。
「穂澄くん。時間です。行きましょう」
「えっ……あっ、はい」
穂澄は灯真の言葉につられて荷物に手を掛ける。
「っ!? 待ちなさい。穂澄」
私は 灯真さんの制止を振り切って、穂澄に駆け寄り、荷物を持った腕を掴む。
「離してくれ、水穂」
「嫌よ、女の子にあそこまで言わせておいて、逃げるなんて許さない」
「動機がズレ始めてる気がするんだが?」
「気のせいよっ!?」
穂澄は私の手にそっと、開いていた手を添えてくる。
「えっ?」
私は一瞬、驚いて、腕を掴んでいた力が弱まる。
次の瞬間。視界が揺れた。
「いたっ!?」
腕を捻られ、私は簡単に掴まってしまう。
今までの私ではこんな無様な結果はありえないが、一瞬の迷いを穂澄に付かれたのが敗因だった。
私は唇を噛みながら、何とか振りほどこうと、動き回る。
「ごめんな、水穂」
「謝るぐらいなら――」
「――止まれないんだ、もう」
「えっ?」
穂澄は静かに私の耳元でそう言うと、捻っていた腕を、力任せに投げる。
私は当然、バランスを崩し、食堂の床に倒れ、その間に穂澄は灯真の後を追い、邸の玄関へと向かう。
「くっ!? 待ちなさい! 待って!」
私は直ぐに追う。
ただ、無常にも穂澄は止まらない。
「待って! 待ってってばぁ!」
私は手を伸ばす。
あと少し、あと少しで穂澄の背中に手が届く。
だが、叶わなかった。
バタンッと言う重苦しい音と共に、玄関のドアは閉まり、穂澄の背中を掴もうとしていた、私の手は空を切り、玄関のドアにドンッとぶつかる。
「……待ちなさいっていってるのに…………なんで止まってくれないの?」
玄関を開いて、追う事は出来た。
ただ、しなかった。出来なかった。
私は玄関で座り込んで、一筋の涙をそっと零した……
どうも、作者です。。。
現在、暦は七月中旬。俗に言う夏休みです。
まあ、私は来週からですが……orz
そんな話を友達としていると、某進学校に通う友達の友達は『俺、夏休みないよ(笑)』
笑えねぇー……
どうやら、世間一般で夏休みと言われる時期。その学校では普通授業があるそうです。
ちなみに私は補講どころか補習すらありません。
ビバ! 普通高校!
さて、関係ない話をしましたが、読者様の感想&評価まってます。
投稿、頑張ります。。。