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第四十三話 好きだからこそ

「灯真さん? 何で私たちが怒っているか、わかりますよね?」


「はい。家の事ですね、わかります」


 荒縄で縛られ床に芋虫の様に転がっている灯真を俺たち5人は上から仁王立ちの状態で見下ろしていた。ただ、こんな状態でも灯真の顔には笑みが零れ、余裕が感じられる。


「灯真・・・・・・これはどう言う事なの?」


 真琴は転がっている灯真の目線にあわせてあの指輪を見せる。


「そのままの意味だよ・・・・・・真琴」


 すると、先ほどまで笑みが零れていた灯真の顔が一瞬にして厳しいものになり真琴を威圧する。

 真琴はその灯真の冷たい表情を見て自分の表情を曇らせる。

 ビシィッ!


「痛ッ!」


「・・・・・・調子のんな、バイクで引き摺るぞ」


 どこから引っ張り出してきたかもわからない革の鞭を持ち、黒のボンデージを身に纏った栞が真剣な顔の灯真に一喝を入れる。


「栞? や、やりすぎじゃないかな?」


「そ、そうですよ。栞お嬢様! 少しはしたないですよ」


「尊、水穂。少し黙ってて。躾のなってない執事に喝を入れるのは雇い主の務めよ」


 ビシィッ!


「あたっ!? 何で私も叩くんですか!?」


 遠めで苦笑いをしていた俺に何故か革の鞭が飛んできて、肩に革の鞭がクリーンヒットする。


「・・・・・・いや、穂澄もこの頃調子乗ってるし」


 どうやら叩いたのは良かったが、反応が残念だったのか? それとも転がっている相手を叩くのに罪悪感を覚えたのか? わからないがとにかく灯真の方へ向いていた栞の鞭と身体がこちらに向き鞭を振り上げる。


「えっ? ちょま――」


「YHEEEEEE!!!!」


「いーーーやーーーーーー!!!」


 訳のわからない叫び声を上げながら俺は鞭を持った悪女から必死に逃げ惑う。




「と、とりあえず。縄を解いてあげましょうか?」


「あっ、良いよ。私が話をつけるから、良いよね? 灯真」


「よしなに、真琴」


 襲われる俺を後目に2人は含んだ笑みをしたまま見つめあっていた。








「こうやって2人一緒に真琴の部屋に入るのはいつぶりだろうね?」


「・・・・・・生々しいからその言い回しは辞めろ」


 私は縄を解いて灯真を私の部屋に連れ込んだ。縄を解いても逃げる様子も無い灯真は私の後ろについて部屋に入ってくる。

 まあ、その前に理由も無くこの邸に再び顔を出す事、事態灯真にしては不可解だ。多分何かしたいことがあったのであろう。


「それで、話は?」


 相変らず含んだ笑みは変わらない。

 違和感を感じながらも私は無言のまま灯真に椅子を差し出し座らせ、私も迎えに椅子を持ってきて座る。


「何で、この邸を出たの?」


「・・・・・・いきなり本題から?」


「茶化すのは辞めろ!」


 自分でも驚くぐらいの声が出た。下に居るみんなに聞かれては居ないかと少しドキドキする。


「・・・・・・わかった、話すよ」


 灯真も例外なくビックリした様だ、椅子に座りなおしてしっかりと私のほうに目を向ける。


「俺は、今度こそ成松に認められる為に戻ったんだ」


「認められる?」


 一瞬、私と灯真の関係の事かと、胸を高鳴らすが、そうでない事は直ぐに察しがついた。


「俺を突き落とした成松を認めさせて今度こそ、胸を張って成松のトップに立とうと思ってここを出た。そして、俺が認められるには櫻坂を潰す事が条件だとも言われた」


「櫻坂を!?」


 いくら犬猿の仲と言っても今までもそこまで露骨な嫌がらせをしてこなかったのは会社の事をしていない自分でも少しは知っていた。しかし、何故か今になってそれを灯真に任せると言う事は成松も本気なのであろう。


「その条件が出されたのが3年前、俺はそこから執事として、竣夜の補佐として櫻坂に時限爆弾をしかけさせてもらった」


「3年も前って・・・・・・」


 3年前と言っても思い出すのはありふれた日常だけで何等、灯真の様子に変わったところはなかった。私は今になって灯真の本当の姿を何も知らない事に思い知らされる。


「じゃあ、私を櫻坂に残したのは何で! 少なくとも灯真はあの指輪を少し前までは持っていた。少なくとも・・・・・・私のことを考えてくれていたはずだよね」


 灯真は私がこの邸に入ってからいつも私に気を使っていてくれた。

 庭仕事に使う器具を新調してくれたり、夜遅くまで頼まれた仕事をしている私に夜食を作ってくれたり・・・・・・


「そうだな――」


「――えっ? きゃ――!?」


 短い悲鳴と共に私は灯真に腕を掴まれ、ベッドに放りこまれる。


「確かに、俺はお前を思っていた。それは・・・・・・今でも変わらない」


 吐息が掛かる数センチの距離で灯真が私の顔を見つめながらそう言う。

 私は暴れるが腕を押さえつけられていて抜ける事は出来ない。なにより、相手は灯真と言えど男だ。いつも力仕事をしているとは言え私は女で元の体力が違う。

 こんな所で自分が女だと言うことを実感させられ、私は顔を真っ赤にしながら足をバタバタと振り回す。


「と、とととと灯真ぁ! あんた、何をしようとしてるのよ! 退きなさいよぉ!」


「すっかり女言葉に戻ったな、『僕は』辞めたのか? 俺がいなくなって吹っ切れたのか、それとも予想外の事態で被っていた皮が剥がれ始めたのか?」


「――っ!?」


 私は言い返せない。足を動かすのを辞め灯真と目を合わせないようにモジモジと身体を離しながら俯く。


「ごめんな、真琴」


「えっ?」


 思いもよらぬ言葉を掛けられ私は反射的に灯真の顔を見ようとすると

 チュッ


「えっ?」


「好きだ、今でも・・・・・・だから・・・・・・・・・・・・ゴメンな」


 ドスッ


「――っ?」


 一瞬の痛みと共に私の意識は飛ぶ。


「当て身で人って本当に気を失うんだな」


 灯真はそう言ってベッドから立ち上がり、気を失った真琴に毛布をかけると



 そのまま振り向かず、ゆっくりと部屋を後にした・・・・・・

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