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第三十八話 言いたい事(後編)

「穂澄さんの事が好きです。」


如何すれば良いかわからなかった。

自分の胸の中で泣いている少女を抱きしめるべきか、それとも突き放すべきか。確かに彼女は可愛い。多分・・・自分でも心の中では嬉しいのであろう。

心臓の音が痛いほどに強くなってくるのを感じ、少女にこの音を聞かれるのは恥ずかしかった。

少女の顔は見えない。少し乱れた黒髪が顔を覆い、泣いているのかも解らない状態であった。


「あ、あの・・・・・・尊お嬢様?」


「・・・っ」


声を掛けると少女は顔を更に自分の顔にうずめ、服を掴んで来る。


「お嬢様・・・」


俺が少女の肩に手を置くと少女はその肩をビクッと揺らし、そして服を掴む手により一層の力が入る。


「ごめん・・・な・・さい。」


振り絞った声。


「見ないでください。突き放さないでください。もう・・・迷って入られないんです。」


途切れ途切れ、尊はゆっくりとそう言う。まるで自分に言い聞かせるように、何かを決心したように。


「好きなんです、穂澄さんが。いつからかは私にも良くわかりませんが、もしかしたら始めてあった時から、それとも一緒に学院に通い始めてからかもしれません。離したくない。私を見ていて欲しいんです。」


「・・・・・・で、でも、お嬢様。私は―――むぐっ!?」


次の瞬間。穂澄は勇気を振り絞って尊の肩に力を入れて突き放そうとした。そして顔をのぞこうとした穂澄に尊は―――逆に体に力を入れて穂澄を押し倒し、油断したその唇にキスをした。

穂澄は驚き目を見開き尊の顔を見ると尊は目を力強く瞑りながら顔を真っ赤にしていた。前に酒の力を借りて一度キスしたことが会ったが、尊自身はそれを覚えていないであろう。

しかし、今しているキスは尊の意思で酒も誰の力も借りていない。そう考えるともう一度突き放せるほどの力を持ってはいるものの、力が入れることが出来なかった。


「・・・んふっ・・・んん〜・・・・・・ぷはっ!」


尊は暫くキスをすると唇を離し硬く閉ざしていた目を開いた。しかし顔はまだ息がかかるほどの距離にあり、尊は少しとろんとした顔をしていた。


「お嬢様・・・私は―――」


ジー


「「?」」


穂澄は荒い息を吐きながら尊に何か言おうとした。と、その時、明らかに人工的な、そして機械的な音が2人の耳に届き二人は揃ってソファーの横を向く。


「・・・・・・いいよぉ、いいよぉ。さぁ、穂澄。次はそのままの表情で尊の胸に手を伸ばしてモミモミッとヤっちゃって!」


隣にはビデオカメラ片手にハァハァしている栞がいた。


「お、お嬢様!い、いつからそこに!?」


「・・・・・・・・・い、いつからそこにって・・・『好きなんです、穂澄さんが。いつからかは私にも良くわかりませんが〜〜〜〜etc』らへんから。」


「そ、そんなところからっ!?も、もしかして、水穂もっ!?」


「・・・・・・水穂は今メイド服に着替えてくるって言ってた。ランジェリーショップは今日休みだったから早めに帰ってきたの。それより、穂澄。いくら着替えるって言ってもさっさと退かないと水穂が来ちゃうよ。」


栞はニヤリと悪戯な笑みを浮かべ、穂澄を見る。

もしこの状況で水穂が来たらいくら穂澄が弁解しようと、明らかに穂澄の敵の栞が今撮っているビデオを水穂に渡すであろう。そんな事になったらここ一ヶ月ほどでやっと普通に話を出来る様になっていた状態が崩れ、またいろいろと厳しい目で見られる事になるであろう。

そう、考え始めた穂澄は一気に顔を青くすると尊を乗せたままの体を一気に起こす。


「きゃっ!?」


尊は短い悲鳴をあげ反射的に穂澄の体に抱きつく。

と、それに一瞬。ほんの一瞬。栞の顔が歪んだ。


「す、すみません。尊お嬢様。この話は・・・・・・今日、夜にしてください。」


一応尊を気遣ってか。穂澄はさっさと、自分の部屋に戻ってしまった。

そして残されたのは尊と栞。


「「・・・・・・・・・」」


2人の間に沈黙が続く。と・・・


パタンッ

栞がビデオカメラを閉じて、片膝をついて録画していた状態から立ち上がり、ソファーに座っていた尊を見下ろす。

尊も口を開きはしなかったが栞を見上げていた。


「渡さないよ。穂澄だけは・・・」


静かに言う栞。その顔は先ほどの悪戯な笑みは微塵も感じられない。

いつものような溜めのある喋り方ではないという事はやはり本気なのであろう。


「私も渡さない。やっと・・・やっと自分の気持ちがわかったんだから・・・・・・」


2人は静かに、そして激しく火花を散らしていた。









「・・・・・・水穂、如何しよう。」


二人が一回で火花を散らしていた頃、穂澄は水穂の部屋を訪れていた。

水穂はすでにメイド服を着ておりベッドに腰を掛けながらさっきから下を見ている穂澄をジッと見つめていた。


「如何したの?言いたい事があるなら言いなさいよ。私が聞いてあげるから。」


「・・・怒らない?」


「別に怒らないわよ?」


穂澄は上目使いで水穂を見る。水穂は一瞬ドキッとしたが、まあ今はそれより穂澄のこの落ち込みようの方が気になっていたのでそっちを優先した。


「・・・尊お嬢様に『好きだ』って言われた。」


「・・・へぇ、それはそれは・・・・・・・・・・・・えっ?」


「その後無理やり押し倒されて、その・・・キスされた。」


「ええっ!?」


水穂はびっくりして一瞬、何が何だかわからなくなった。

ドッキリとかフィクションですとか言われるかとも思ったが、穂澄の表情は相変わらず暗い。


「俺は・・・逃げてきちゃった。何も言わずに・・・お嬢様を傷つけていたら如何しよう・・・?」


更にどんよりとした空気を纏い終いにはテーブルに『の』の字を書き始めてしまった。


「・・・っ!」


パアァァンッ!

一瞬何が起こったかわからなかった。それは数秒経っても同じ事でわかったことは自分の頬に痛みがあると言う事。

そう、穂澄は水穂に叩かれたのだ。

穂澄は叩かれた左頬を押さえながら瑞穂の顔を見る。

水穂は起こっている様子ではなかった。どちらかと言うと悲しい。そういう感じの顔をしていた。


「穂澄。」


「・・・何?」


重い声。先ほどとは比べ物にならないくらい水穂の声は真剣そのものであった。

穂澄は覚悟はしていた。どちらかと言うと怒ってくれた方が楽な気がしていたから、その方が諦めも決心もつく。櫻坂の執事を辞めて出て行くという決心が・・・

しかし、水穂の態度は違っていた。

たたかれた事により蹲っていた穂澄と同じ目線になるように腰を屈め穂澄の目を真っ直ぐと見る。


「お前が悩んで如何する?穂澄。お前は尊お嬢様に選ばれたんだ。」


「選ばれた?」


「そう、学院の男子生徒でもなく、灯真さんでもなく、穂澄を選んだんだ。それを何で悩む?お前は、胸を張って自分の気持ちを伝えればいいんだよ。」


「・・・・・・」


その言葉が無性に心に響いた。暗く沈んでいた心は今の水穂の言葉によって救われ、怒られるより何倍もの光を与えてくれた。

水穂はそのまま、無言で穂澄を立たせる。穂澄も押さえていた左手を退かしスッと立ち上がった。


「桂 穂澄!」


「・・はいっ!」


いきなりフルネームで呼ばれ穂澄は肩を跳ねさせるが直ぐに返事をする。


「胸を張って自分の気持ちを伝えてきな!」


水穂は笑って穂澄の頭を撫でる。

と、一瞬穂澄の視界に別の人が写る。


―――美捺母さん?


それは故人の母か?一瞬のことでよくわからなかったが穂澄には頭を撫でている少女が母親に見えたのだ。

穂澄は少しの間呆然としていたが、直ぐにその顔に微笑が写る。


「ありがとう、水穂。」



穂澄はそう言うと水穂の部屋を出て行った・・・・・・


これなんて小説?

・・・どうも竣慎です。

すいやせん。何故か今回は書きなれていないシリアスな展開になってしまいました。

自分でも書いている間はムズ痒くてしょうがなかったのですが、書き直す気力などもちろんなく、かき続け出来たのがこの三十八話・・・まあ、いっか?

すいません・・・評価&感想待ってます。。。

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