第三十二話 メイドさん探し
「・・・・・・メイド、欲しくね?」
その一言が始まりだった。栞と尊、そして穂澄と言う顔触れで遊んでいる時であった。ふいに栞が言った。
理由はこんな大きな屋敷にメイドさんがいないなんておかしい!らしい・・・・・・一理ある気もしなくはないが別に執事2人でこの三ヶ月やりくりして来たのだ今更いらないであろう。
そう思いながら穂澄は栞たちに頼まれ灯真にメイドさんを雇う許可を貰いに来ていた。
まあ、穂澄としても思いつきで出て来た案が灯真に通用するわけがない。と思いながら歩いていたのだ。
「そうですね。それじゃあ雇いますか。」
「雇うんですか!?」
人生は自分の考えどおりには行かない。まさに穂澄は今そう思う。
「いや、確かに穂澄くんが来る前までは私1人でやりくりしてましたし別に必要と言う訳ではないですが居て困る事はありません。この際雇いましょう。」
「で、でも誰を雇うんですか?」
「う〜ん・・・・・・・・・それじゃあ、秋水の所に行って下さい。紹介してもらうように電話しておきますから。」
灯真は暫く悩んだ後、秋水の名前を出す。
ちなみにあとから聞いた話であるが灯真と秋水は高校時代の同級生だったらしい。
「わかりました。それでは行って来ます。」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけて下さいね。」
穂澄はそのまま栞と尊を連れて、秋水の病院へと足を速めた・・・・・・
「それで秋水さんの家は何処なんですか?」
昨日とは違い暖かな太陽の下3人は街中を歩いていた。
「秋水さんの家は街の外れの方にあるのでそろそろ・・・・・・あっ!ありました。」
穂澄が指を指した方には確かに『叶医院』と書いてある看板があった。
あまり大きくは無いが丁寧で何より治療費が安いと言う理由で街の人たちには結構人気の病院であった。
病院の前には白髪の白衣姿と言うまさに白装束の人が居た。
秋水だ。多分秋水1人居れば街中の待ち合わせにも楽になる。と言うぐらい目立っていた。
穂澄たちが秋水に気がつくと向こうも気がついたのか駆け足で寄って来た。
「おう、3人とも良く来たな。じゃあ俺は午後から診察入ってるからさっさと済ませるぞ。付いて来い。」
秋水はタバコを銜えると病院の隣の路地に入って行った。3人は付いて来いといわれたのでとり合えず付いて行くが日が全く入ってないので足元が見えにくい。
「ああ、足もと気をつけろよ、時々猫が居るから踏ん付けると引っ掻いて来るぞ。」
秋水にそう言われ最善の注意を払い路地を抜けるとそこには・・・・・・
「弓道場?」
があった。
秋水はタバコを銜えたまま靴を脱ぎ弓道場の中に入っていく。穂澄たちも慌てて靴を脱ぐと弓道場の中に足を運んだ。
中は意外と広く日も差し込んでいた。と、奥の練習場に誰か居た。
凛とした表情で穂澄ほどではないが長身の少女。腰ほどまである髪を一つ結びにして降ろしている姿は何処か凛に似ていた。
「お〜い、水穂。こっち来てくれ。」
秋水が声を掛けるとその少女は気付いたかのこっちに駆け足で寄って来る。
「アイツは俺の妹で叶水穂。アイツならメイドになるんじゃないか?」
秋水が離していると、不意に口に銜えられていたタバコが取り上げられる。
「あっ!」
「『あっ!』じゃない!!弓道場は禁煙!!何度言ったら解るの、兄さん!」
どうやら何度も注意されているらしいが秋水は全く反省の色を見せない。
「水穂、櫻坂姉妹だ。挨拶しろ。」
「えっ!?櫻坂姉妹って・・・」
水穂はふいに栞たちの方を見ると顔を真っ赤に染める。
先ほどまでも秋水に怒っている剣幕は今はもう感じられない。
「あ、ああああの!わ、私叶水穂と言います。来月から櫻坂学院に入学する事になっていてお二人にあえて光栄です!?よ、よよよろしくお願いします。」
思いっきり口ごもっているがとり合えず挨拶を済ませると安心したのか一息つく。
「ああ、それと、こっちは穂澄くんだ。」
「・・・・・・穂澄?あの、桂穂澄か!?」
安心していた水穂の顔が一瞬にして強張りこちらを睨んできた。
―――初対面だよな・・・・・・
穂澄はその睨む目に押されながらも心の中では冷静に考える。確かに秋水とは真希菜の事もあり、もう5年以上の付き合いになる。しかし秋水に妹がいたなどと言う話は今聞いたばかりで会った事すら記憶にない。だが水穂ははっきりと桂穂澄と言っている以上人違いと言う事ではないし、そうすると穂澄が関係していない所での繋がりがあるのか・・・・・・?
穂澄はそんな事を考えていると水穂がなにやら言葉を続ける。
「私はお前が嫌いだ!」
「えっ?」
流石に初対面の少女に嫌いと言われれば誰でも同じような反応をするであろう。
水穂の言い分を聞くため暫く穂澄は黙っておく事にした。
「櫻坂姉妹に近づき誘惑し、それだけでは飽き足らず四六時中付きまといまるで執事の様に振舞うその姿!許すまじ!桂穂澄。私と勝負しろ!!私が勝ったらもう二度と櫻坂姉妹に近づくな!!!」
―――思いっきり八つ当たりじゃん!?
そう言いたかったけれど目が怖くていえない。
それに私が勝ったら二度と櫻坂姉妹に近づくなって穂澄には何のメリットもないし・・・
「そ、それで私が勝ったら何か貰えるんですか?」
「なっ!?貴様は何処までも強欲なのだな!よしわかった。もしお前が勝ったら私が貴様の言う事を三つ聞いてやろう。」
お前から貴様に格上げされていることはまあ、放っておこう。
それにしても安易な発言をした穂澄が馬鹿だったのか逆に水穂を怒らせてしまったような気がする。
「勝負は弓道三本勝負!着替えて来い!」
投げ渡されたのは胴着。良く見ると水穂も着ていた。
どうやら穂澄には拒否権はないらしく。
前を向けば水穂が睨んでいて、秋水は呆れている。
後ろを向けば尊があたふたしていて栞が『面白くなってきたな』的な笑みを浮かべている。
穂澄は小さく溜息をつき更衣室で胴着に着替え始めたのであった・・・・・・
穂澄は着替え終わり試しに弓を射って見る事にした。
結果は的には届かずどれも直ぐ前で落ちてしまう。
「ふ、ふふふふ、これで私の勝利も近づいて来たな!いいだろう。貴様は一本でも的のど真ん中を射ったら勝ちにしてやろう。」
高笑いを上げながら水穂は余裕の笑みを浮かべていた。
と言うか的にも届いてないのに三回でど真ん中を射抜けるはずがない。
「穂澄。」
と、不意に秋水が後ろに立っていた。
「何ですか?秋水さん。」
穂澄は今、勝つことよりも負けた後どう水穂を言い含めるかを考えていた為後ろに立たれている事に気がつかなかった。
「背筋は伸ばして一本の棒が刺さってるようなイメージで立って目線と垂直になるように弓をひけ。おまえは運が良いからな。出来るぞ。」
秋水のなにやら余裕の笑み。何か勝算があるのか、その顔を見ると段々と穂澄もヤル気が出てきた。
「それじゃあ、射って貰おうか?」
「わかった。」
神経を集中させ・・・背中には棒が刺さっているようなイメージで、そして目線と垂直になるように・・・・・・射れ!
瞬間。穂澄は射った。もちろん、弓道など始めてやった。素人がどんなに頑張っても的に届くはずがない。水穂はそう思ってこの戦いを挑んできたのだから・・・そして矢は・・・・・・
ストンッ
的に当たった。秋水が近くに行き、何処に当たったか確認する。
「あ〜あ、水穂!真ん中に当たってるわ。」
「「えっ!え〜!?」」
水穂だけではなく穂澄も驚いた。
自分としては的に当たるかさえ不安だったのにまさか本当に真ん中に当たるなんて・・・・・・
と言う訳で穂澄はめでたく勝利を収め穂澄は水穂に『メイドになれ』と言ったらしい・・・・・・
どうも作者です。
覚醒して投稿しまくった九月も終わり十月に入ってしまいました。覚醒し続けたままならこのまま十月中に完結できるんですが、何と、兄が帰ってきてパソコンを占領中・・・
こうして兄の居ない時間に投稿するしかない為遅れるカモ・・・・・・
まあ、頑張ります。。。