第三話 誘惑されて
「穂澄くん。朝です。」
肩を揺すられ眼を開ける穂澄。目の前には機能と同じ笑顔の灯真がいた。
「そうか、俺は執事になったのか・・・・・・」
上半身を起こして額に手をあてて溜息をつく。
「そんな顔をお嬢様たちには向けないようにしてくださいね。」
灯真はそう言い穂澄に服を渡す。
黒いスーツにも似た服。執事服である。灯真とは異なり少し軽装備であった。
その事を聞いて見ると
「穂澄くんには外などでのお世話をしてもらいますので軽装備になっています。」
灯真に言われた通りに着替えるとサイズも合っていて良かった。
「私は尊お嬢様の方を起こしてきますので穂澄くんは栞お嬢様を頼みます。これがこの家の配置です。」
渡された紙には一階から三階の部屋の配置が書いてあった。栞の部屋は穂澄の部屋から見て二つ隣にあった。
穂澄は跳ねている髪を整えて、部屋を出る。
改めてみるとさすが櫻坂家と言うか、廊下の天井の高さや装飾品は一流ホテルとなんら代わりが無い。
廊下を歩いているだけで自分が金持ちになった気分になる。
栞の部屋の前に来た穂澄はまず大きく深呼吸をしてから部屋にノックをする。
「穂澄です。栞お嬢様、起きてください。」
なるべく執事っぽく言う。しかし返事が無い。
「入って良いのかな・・・?」
少し躊躇いもしたが部屋の前で立ち尽くして射ては仕事にならない。それに灯真に任された最初の仕事という事もあり、失敗はなるべく避けたかった穂澄はもう一度深呼吸して部屋のドアを開けた。
部屋の中はいかにも女子高校生という感じの部屋だった。部屋の作りは穂澄の所と大差はないが壁紙が薄いピンク色になっていて同系色のカーテンまである。
その部屋の奥にカーテンが着いている洋風のベッドがあった。穂澄は近づきながら目を凝らしてみると静かな寝息を立てた栞が寝ていた。
「栞お嬢様、朝です。」
ベッドに着けてあったカーテンを軽く引いて顔を覗かせる。
「お嬢様、起きてください。」
しかし栞は目を覚まそうとはしない。
穂澄はカーテンの内側に入ると栞の肩を持ち軽く揺する。
「お嬢様、起きてください!」
「うっ・・・ん〜・・・・・・」
今度は強めに起こそうとする。栞は眉を少し歪め唸る。
しかしそのまま寝息を立ててしまう。
「何で起きないんだろう?ここまで来ると逆にこっちが困るぞ。」
穂澄は焦れたのか最終手段を使う。
栞が強く握っている布団を剥ぎ取り、栞の上半身だけ起こす。
「朝ですよ、お嬢様。」
「ん・・・・・・ぅんん〜・・・・・・?」
無理矢理起こされた事で何が起きたか良く理解しないまま栞が起きた。
栞は顔を動かさず目だけを動かして辺りを見回す。
そうしていたら穂澄と目が合った。
「おはようございます。」
「!・・・・・・おはよう穂澄。」
少し驚いた様子だったが直ぐに挨拶を返す栞。
ベッドに足を下ろし立ち上がる栞。
「・・・・・・穂澄。」
栞がまだ寝むそうな顔をしながら穂澄を見る。
「・・・・・・服、取って。」
栞が指を指した先には壁に掛けられた洋服があった。
シンプルなデザインのワンピース。今は正月だが幸い今日は暖かいのでワンピース一枚でも十分過ごせるであろう。
穂澄は言われた通りに服を取ると直ぐに栞に手渡す。
「・・・・・・ありがと、穂澄。」
栞はそう言うとパジャマの前ボタンを外し始める。
「えっ!?お嬢様。待ってください!」
もちろん穂澄は全力で止める。
いきなりの事で少し思考が止まっていたが直ぐにフル回転させ、栞の手を掴む。
しかしそのせいで手で押さえられていたパジャマはスルリと肌を移動し、白い肌が露出する。
「!!!!!!す、すみません!???」
顔を真っ赤に染め後ろを向く穂澄。
忘れようとするのだが頭から白い肌が離れようとしない。
穂澄は忘れようと頭をかいていると腰に柔らかい物が当たっているのに気付く。
後ろを振り向くと栞が穂澄の腰に手を回して抱きついている。
「お、おおおお嬢様どうしたのですか!??」
思いっきり声が裏返る。
白い肌どころか今すぐにでも押し倒しそうな勢いである。
栞は脇の隙間から顔を出して穂澄を見る。
「・・・・・・欲情した?」
―――はめられた。
栞は悪戯な笑みを浮べて腰から手を離すと穂澄の前に出る。
いつの間にか着替えている栞はパジャマを穂澄に渡すと、
「・・・・・・尊たちが待ってる、行こ。」
二人は尊たちが待っている食堂に向かった。
食堂では座って待っている尊と隣に立っている灯真がいた。
尊は栞と同じくワンピースを着ていていろは水色。尊のイメージと合っていた。
「栞お嬢様。こちらにお座りください」
尊の隣にいた灯真はいつの間にか栞の隣に居りテーブルの椅子を引いて栞を待っていた。
栞も自然に灯真が引いた椅子に座る。
「あの、穂澄さん。」
何をすればわからず立っていた穂澄に尊が声を掛ける。
補澄は尊を見ると尊は悪戯な笑みを浮べて穂澄を見ていた。その様子は流石姉妹と言うか、栞に凄く似ていた。
「栞に何か言われませんでしたか。」
「えっ?」
―――変な事言われたと言うかされたと言うのかな?あれは
「栞は新しい執事さんを・・・・・・あの、何て言うか・・・誘惑して誑かすんですよ。それで無いとは思いますが穂澄さんが栞に何かされてないかと思いまして。」
―――やられましたとも、腰に手を回されてギュッて抱きしめられました!
そう言おうと思ったが尊の心配そうな顔を見てしまった穂澄はそう言える訳でもなく。
心の中でそう叫び、口では
「いえ、そのような事は」
「そうですか。すみませんでした穂澄さん。」
ほっとした様な顔をする尊。その隣で含んだ笑みを見せる栞。
―――何か良いよなこう言うところ。
ここ数年荒れた家しか見ていなかった穂澄にはこの風景はとても良かった事であろう・・・・・・
その後二人が食べ終えた後、穂澄は灯真と食事をしている時。
「後で庭に行って下さい。」
「えっ?何故ですか?」
「会っておかないといけない人がいるので、それでは」
灯真は悪戯な笑みを浮べながら行ってしまった・・・・・・
遅れてすみません。
春休み終わったのに宿題わんさかです。
今後も少し遅れるかもしれません。。。