第二十八話 創立記念祭で(後編)
「いらっしゃいませー♪」
いよいよ始まった創立記念祭。一般の人も出入りが自由な為にメイド喫茶は混雑していた。
主にその客は九割が男性。そしてその狙いは栞と尊にあった。
何でもメイド喫茶で話をして、仲良くなり電話番号まで聞こうと企んでいるらしい。まあ、それを阻止する為に穂澄がいるわけで現在も進行形で頑張っているのだが。
「はぁはぁ、栞ちゃん。可愛いよ。」
明らかに変態チックな男子生徒。
しかし栞はなれない接客で気付いていない。
「・・・・・・お待たせしました。以上でよろしいですか?」
いつもは学校であまり見せないらしい笑顔も今日は接客と言う訳で全開にして振りまいている。
「はぁはぁ、栞ちゃん!」
と、ここで1人の男子生徒が栞の背後に近づき栞に触れようとしてきた。
バシッ!
が、大きな音と共にその手は叩き落とされる。
「いっつぅ!?」
男子生徒は手を叩かれた事でその場に手を押さえながら蹲る。
目の前には栞と男子生徒の間にわってはいる穂澄がいた。手にはプラスチックの30cm物差しが握られていた。
どうやらそれで叩いたらしい。確かに物差しと言っても思いっきり叩きつけられれば蹲るほどのダメージは与えられるであろう。
「失礼ですか。当店ではメイドさんへのおさわりは禁止です。一応学生ですので。」
穂澄はそう言い蹲っている男子生徒を教室の外に追い出した。
この間、僅か五秒たらず。もちろん接客に夢中な栞は男子生徒が後ろにいたことすら気付いていない。
「な、何するんだ!あと少しだったのに。」
「お客様。入口の所に貼り紙が貼ってあります。それにご入店の際に注意事項も言いました。知らないとは言わせませんよ。」
穂澄が一睨み利かせて物差しで貼り紙を差す。
壱、メイドさんへのおさわり、口説きは禁止。
弐、食事等などが終わったら混雑を避けるため早めに退席する。
参、カメラなどは持ち込み禁止、廊下からの撮影も禁止。
四、これらの事が護れぬ場合、護らなかった場合。強制的に退席していただきます。
確かに貼り紙にはそう書いてあった。そして男子生徒のポケットにはその来店の際に渡した張り紙がしっかりと丸めて入っていた。
「と、言う訳で。さようなら〜」
穂澄は勝ち誇った笑みを浮かべそのままがっくりとうな垂れる男子生徒の前から姿を消した。
「はい、今ので十七人目ですね。」
穂澄は隣のクラス。つまりメイド喫茶の料理などを出す準備室に戻っていた。
そこには栞たちのクラスの女子達が楽しそうになにやら書いていた。
「解りました。栞、十七人目と。」
1人の女子生徒がチョークで『正』の字を書いていく。どうやら規則違反で退席させられた男の数らしい。
「えっと、今は栞が、十七人。尊が、二十四人。へぇ、結構差がついたね。」
「ええ〜私は絶対栞の方が多いと思ったのにぃ〜」
そんな事を話している女子生徒たちの近くには大量のマッチの棒が置かれていた。
―――もしかして・・・
「何してるんですか?」
「「トトカルチョ」」
2人の女子生徒は同時に言った。やはりそうか、さっきから退席させた人数とその相手が目星をつけた相手を数えておいて欲しいといわれたのは。
今更ながら気付く穂澄。まあ、自分の金ではないので別に良いのだが。
ピピピッピピピッ
と、ここで準備室に機械音がなる。穂澄はすぐさま自分のポケットからおもちゃの通信機を取り出す。
まあ、この距離ならおもちゃでも十分なようだ。
「こちら、ドラゴン1、どうした。」
『こちら、ドラゴン5。怪しい動きをする客を発見。直ちに現場に急行せよ。』
この際、怪しいコードネームの事は放っておこう。とり合えず、穂澄はおもちゃの通信機をそのままポケットにしまうとそのままメイド喫茶の方へ歩を進める。
だが、歩を進めるといっても、準備室の扉を開け、数歩歩けばメイド喫茶だ。穂澄は2人に危害が及ばないように足早に扉に手をかける。
ガンッ!
何かに当たった音がする。
いや、それより扉が開かない。
「あれっ?クソっ!こちら、ドラゴン1、ドラゴン8。どうなっている。」
『こちらドラゴン8。準備室の扉は体格の良い男子生徒五人ほどに押さえつけられている模様。相手はその間に防衛目標に近づく模様。』
「チッ!二手に分かれたか!考えたな・・・」
一体、ドラゴンは何人いるんだと言いたい。が、今はそれどころでない。とにかく此処を出なくてはいけない。
―――現時点で動けるドラゴンは5と8、9だけ、しかし3人とも女子生徒だ。屈強な男子生徒を押しのけて扉を開ける力などない。
穂澄は特進クラス上位の頭を無駄にフル回転させながら打開策を考えていた。
と、ここで後ろから息を掛けられる。
「うわっ!?」
穂澄は背筋がゾクゾクッとするのを感じ瞬時に飛びのいた。そして後ろを見るとそこには霧音が立っていた。
「ふっふっふ、私の出番のようね。」
霧音は頭に包帯片方の手は吊っており足は依然車椅子。って、言うかさっさと入院してください。
「な、なにをするんですか?」
「あなたが私をいたぶればあなたの心の奥底に秘められたSな穂澄!訳してS澄が覚醒し―――」
「―――要するに嬲って欲しいだけでしょう。あなたは!」
「それより、ドアを蹴破った方が早くないかな?」
いつの間にか居た奉里がそう進言する。しかし普通、そんな事をしたら怒られ―――
「良し!それ採用!!」
―――採用しちゃうんだ・・・・・・
穂澄は奉里の案を採用にそのまま廊下側とは正反対の窓際まで下がり一気に走り出す。そして
「究極!ゲシュ○ン○ト・キックッッッ!!」
屈強な男達を跳ね除けドアを吹き飛ばした。そしてそのまま間髪入れずメイド喫茶の中に入り込み、息を荒げ今にも襲い掛かりそうな男子生徒を成敗したそうだ・・・・・・
その後・・・ドアをとび蹴りでひん曲げた事により教師にきっちりと説教され、その後も恐れを知らぬ男どもの退治をし、そして創立記念祭は幕を閉じた・・・・・・
「穂澄さん!私しっかりと接客で来てましたか?」
「ええ。完璧でした。」
「・・・・・・私は?」
「栞お嬢様は何度かお客様に紅茶ぶちまけてましたよね?」
「うっ!」
痛い所を付かれ栞は黙り込む。
創立記念祭は大成功で終わり、穂澄の方も2人に気付かれず何とか男たちから護りきったのだ。
そして現在は帰宅して尊の部屋で雑談会をしていた所であった。
「ほらっ!穂澄さんも立ってないで座っていいよ。」
「えっ?ですが。」
いつもは椅子などに座るが今日は2人ともベッドの端に腰掛けていた。流石にベッドの端に座るのは不味いと思ったのか?穂澄はそのまま立っていたのだ。
「・・・・・・私たちが良いって言ってるの。」
「なら、失礼します。」
穂澄はそう言ってベッドの端に腰を落ち着けた。
「それにしても、今日は穂澄さんは何をしていたのですか?」
「・・・・・・確かに接客はしてなかった。」
獣と化していた男どもを退治していたなどとは言えず、穂澄は数秒考えてしまう。
「え、えっと、裏方の仕事をしていました。紅茶入れたり。テーブル拭いたり。それにメイド喫茶なのにメイドさんが接客しなければ意味が無いじゃないですか。」
2人は納得の表情を浮かべ頷いた。どうやら怪しまれずに済んだらしい。
「・・・・・・あっ!」
「どうされました?」
「・・・・・・メイド服、部屋に置きっぱなし。皺になる前にクローゼットに閉まってくる。」
栞はそう言ってベッドの端から降りるとトコトコと足早に尊の部屋から出て行ってしまった。
残されたのは穂澄と尊。
そして数秒の沈黙。穂澄は如何したかと尊を見ると目が合い、しかしすぐに尊は逸らしてしまった。
―――あわわぁ〜!?どうしよう。栞がいたから気にしなかったけどいきなり二人っきりになっちゃうと緊張するよぉ〜
心の中では叫びながら、表にはその表情を出さないように気をつける。
まあ、穂澄ほど鈍感な青年だったら気付かないと思うが・・・・・・
「ほ、穂澄さん。今日は疲れましたね。栞もいなくなったことだし。私たちも寝ましょうか。」
―――わぁっ!?ばかばか!!折角穂澄さんと2人っきりなのに、そんな事言って。これでそうですね。って言われて出て行っちゃったら如何しよう。呼び止めるのも不自然だし・・・・・・
頭の中で更にパニックになる尊。
コツンッ
と、なにやら肩に何かが乗っかってきた。
それは・・・・・・穂澄の頭であった。
「えっ!?ほ、穂澄さん!」
尊は驚いて穂澄の顔を覗こうとするが肩に頭を乗せられている状態では髪の毛が邪魔で見えない。そのため、今の穂澄の表情は読み取れない。
―――だ、大胆だよぉ!やっぱり竣夜兄様が言ってたみたいに男の人はみんな狼なのかな!?もしかして栞がいなくなるのを待ってたんじゃないのかな!?
「・・・・・・グー」
「えっ?」
不意に聞こえた寝息。尊がびっくりして耳を済ませると、確かに聞こえる。
「ほ、穂澄さん?穂澄さーん?」
「・・・・・・グー」
返事はない。どうやら本当に眠っているみたいであった。
―――何だ。寝てるのか。びっくりしたぁ!そうだよね。穂澄さんいつも私たちのために働いてくれてるんだもんね。
ポテンッ
と、穂澄の頭がずれて丁度尊の膝の上に落ちてきた。俗に言う膝枕だ。
いつもの尊なら嫌がっていたであろう。しかし尊は嫌がらず、むしろ笑みを零していた。そして・・・
「いつもありがとう。穂澄さん。」
目に掛かっている髪を撫でながら尊は良し良し、と穂澄を撫でてやった・・・・・・
どうも、作者です。
明日、と言うより、もう今日ですが、兄が帰ってきます。どうやら就職の内定が決まったらしく一週間ほどの帰省・・・
と言う訳で明日は休みで兄のこともあるので今日は徹也中・・・
貯め書きもこの間にできればと思います。
ではでは投稿頑張ります。。。