第二十七話 創立記念祭で(中編)
「それで実際、本番では何をするんですか?」
創立記念祭を明日と控えた前夜。
穂澄もこの三日間特進クラスをほったらかしにしてまでメイド喫茶を手伝っていたが具体的な事はせずに教室の飾り付けや予算の確認などメイド喫茶の内容などはこれぽっちも教えてもらっていない。
「内緒です。」
「・・・・・・うん、内緒。」
さっきからずっとこの調子である。何度聞いても二人の少女達はクスクス含み笑いをして決して内容を教えようとはしない。
昼間、作業をしているとき、他の生徒に聞いてもそうであった。奉里は目を逸らし少し苦笑いをし霧音に限っては教えてほしかったら私を罵れなど言ってくる。
そんな趣味はないため断ったがどうしても気になってしょうがない。
それに当日は2人の警護をしながらメイド喫茶を運営しなければならないのだ。本当は学校を休んで欲しいぐらいである。
「穂澄さんはいつも通りに執事服を着て私たちの手伝いをしてくれれば良いよ。」
「・・・・・・穂澄はいつも通りに。」
そう言って満面の笑みを浮かべてくる2人。
現在、尊の部屋で明日のメイド服を穂澄が繕っている所である。
穂澄は裁縫から料理、家事一般は得意である。何故得意になったかと言うと、母、美捺はおっとりとした性格と言うか人より初動に誤差があると言うか。とにかく料理をしたら鍋を焦がし掃除をしたら掃除機のコードに絡まりなどなど。とにかく家事一般は何も出来ない母親であった。と言う訳で穂澄がほとんどしていたのである。
それに加えて美捺が死んだ後は父親は泥酔し姉の凛は真希菜の治療費を稼ぐべく朝から晩まで仕事。となるとやはり残った穂澄が家事をする事になる。
などと言う事情で穂澄は家事一般が得意なのである。
「「「・・・・・・・・・」」」
三人の間で沈黙が続く。最初は2人とも穂澄がこんな事まで出来るのかと興味の目で見ていたがそろそろ十分近く経つ。尊はともかく栞はベッドの上で跳ねたり椅子の上で穂澄を見ながらウズウズしていた。
「・・・・・・ほすみ〜。まだ着れない?」
「まだですよ。それに今日は後、お風呂入って寝るだけじゃないですか。メイド服は明日にしてください。」
栞は穂澄の後ろでブーブー言っているが穂澄は針に神経を集中している為何も言わない。
尊は創立記念祭の準備で疲れたのかいつの間にかベッドの上でスヤスヤと寝息を立てていた。
「・・・・・・ほすみ〜、暇!」
「すみません。今は手が離せないので真琴さんにでも遊んでもらってください。」
「・・・・・・真琴は今日は検査入院。」
ああ、そうであった。誕生日パーティーの後、酒の事で真琴は灯真に背骨をゴリゴリッとやられていたのだ。
今日は以上が無いか泊り込みで検査すると言っていたので今は居ないわけだ。
「じゃあ、灯真さ―――」
「―――・・・・・・灯真はお買物。読みたい本があるらしい。」
そうだった。さっき、少し出ますので寝ててくださって良いですよと言われたばかりである。
「それじゃあ、何か自分で遊ぶ物を探してください。」
「・・・・・・え〜」
栞は再びブーブー言っていたがふと、そのブーイングも止む。どうやら飽きて何か探し始めたかと穂澄も裁縫に集中する。が、現実は違う。
栞は悪戯な笑みを浮べながら穂澄の背中をジーと見ていた。そして
「・・・・・・ほーすみ〜」
ダイブ!
「うわっ!?」
当然予想していない穂澄の体は揺れる。そして背中にぶら下がってくる栞を落とさない様に慌ててバランスを取る。と、
プスッ
「あっ」
「えっ?」
栞が珍しく普通に声をあげ穂澄はその方を向く。と手には針が深々と刺さっていた。
「あっ!・・・・・・つぅ!?」
その怪我を見た瞬間。穂澄は手に激痛が駆け抜けた。人差し指と中指の付け根の肉の部分に針は刺さりよく見ると少し貫通していた。
「・・・・・・穂澄!ごめんなさい。大丈夫!?」
栞は血相を変えて穂澄の背中から降りて正面に回りこむ。
「だ、大丈夫ですので、心配しないでください。」
穂澄の頬に一筋汗が通る。笑顔は少し引きつっておりどうやら相当無理をしているのであろう。そのまま穂澄は痛む手に力を入れ。もう一方の手で針を抜いた。
血は一滴ずつではあるが止まる様子はない。
「・・・・・・あっ・・・うぅ・・・」
栞はこんな事になるなど思いもしなかったので顔を青ざめ言葉を失っている。
穂澄は素早くハンカチを取り出し手首にきつく縛り付ける。そしてティッシュで血を素早くふき取る。
「ふう、良かった。カーペットを血で汚したから灯真さんに怒られちゃいますよ。」
心配している栞に穂澄は苦笑いを浮べる。が栞の表情は明るくならない。むしろ怒らない穂澄の優しさが心に響き目尻に涙を溜めてしまっている。
「・・・・・・うぅ・・・ぐす。ゴメンね穂澄。ゴメンね。」
「栞お嬢様。こっち向いてください。」
「えっ?」
ムニッ
穂澄は栞の頬を両手で軽く引っ張る。
「笑った顔が一番良いですよ。じゃあ私は包帯巻いてきますので。」
笑いながら言い聞かせるように言う穂澄。
穂澄は栞の頭を撫でると血を落とさないように注意を払いながら部屋を後にした。
残された栞は1人。
「穂澄、ありがと。」
小さくそう言った・・・・・・
どうも、作者です。
評価が高くなっているので出来るだけ早く投稿していますが絶対☆指名ZERO×2CUBEの方も書きたくなってきています。
どちらもバランスを取って投稿できると良いですが出来ればZERO×2CUBEの方も評&感想ください。
投稿頑張ります。。。