第二話 契約書を渡されて
「―――きてください。」
声が聞こえる。
その声は段々大きくなり近づいてくる。
そして
「起きてください!」
「うわぁっ!」
その声が耳元で響いて俺は飛び起きた。
「ここは何処だ?」
まだ活動し切れていない頭をフル回転させ考える。
確か帰ってきたらヤクザが家にいて、3000万円の借用書を渡されて。
離島の南国パラダイスへレッツゴー♪
それで暴れた俺は殴られて、今ここに。
「ここは離島の南国か!」
「いえ、ここは国内ですよ。」
「えっ?」
答えが返ってくるとは思いもしなかったのでびっくりした。
そしてその答えがした方を向くと。
「お目覚めですか?」
執事とヤクザがいた。
流石に執事とヤクザのツーショットは違和感がある。
ヤクザは先ほど会った方の片割れ。
まあそれは置いといて、気になるのは執事だ。黒髪の執事。執事服を着ていて満面の笑みをこちらに向けている。
年は穂澄と余り大差は無さそうであった。
しかし良く考えると今はそれ所ではなかった。
「待ってくれ。俺は3000万も出せるほど金は持っていないし、返す技術も持ち合わせていない。だから元の場所に戻してくれ。」
「あーそれは残念だったなぁ。おまえはもう売却済みや。がんばって3000万返してせや。」
必死の弁解も虚しく穂澄は売却済みだったらしい。
その時穂澄の頭に一つの名案が浮かんだ。
「決めた。逃げるぞ!」
執事さんとヤクザに背を向けると脱兎のごとく逃げ出した。
後ろで声が聞こえているがそんな事は気にしない。
俺は逃げるんだ。親父の借金の肩代わりで南国パラダイスへ行くのはいやだ。
行きよいよくドアノブを握りしめ回す・・・が、
「桂穂澄。ここは内側から鍵をかける部屋やから俺が持ってる鍵を使わないと出れんぞ。」
そう言ってヤクザは穂澄に向かって鍵を見せ付ける。
穂澄は落胆した。ヤクザ相手に借金をして、逃亡をしようとするが失敗。このままで南国ではなくもっとヤバイ所に連れて行かれるような気がした。
「それでな。事情が変わってなおまえの買取主は―――」
「いやだ。せめて南国にして。密輸は嫌だ!」
「・・・・・・さっきから何言ってるか知らんが、まあええ、買い取り主は櫻坂の所の奴や。」
「・・・・・・・・・」
今なんと言った?櫻坂のところの奴。
穂澄が知っている範囲では櫻坂と言うのは電子部品の会社で品質は世界トップクラスの会社。何よりも自分が通っている学院が櫻坂が経営しているのである。
落ち着いてよく見てみると穂澄たちがいる場所は客間で穂澄の家が丸ごと入るような広さであった。
天井は見上げるほどになっており上には大きなシャンデリアが飾られている。
「それじゃあな、仕事の内容はこいつから聞け。」
ヤクザはそう言うと出て行ってしまった。
残されたのは穂澄と執事。
「それでは仕事の内容を説明します。」
「あ、はい。」
執事が改まってこちらを向くので穂澄も反射的に執事の方を向いてしまう。
「私は辻灯真と言います。こちらでは櫻坂のお嬢様方の執事をさせていただいております。」
「はぁ。」
話が急すぎて上手く納得できない。
「この度新しく執事を雇う事になりまして、そこに」
「俺が来たってことか?」
灯真がニッコリと笑う。どうやら正解らしい。
その後櫻坂と契約する為の書類。執事服の寸法あわせなどなどを終えた後。
「後は、穂澄くんの家は借金の形として取られてしまったのでここに住んでください。部屋の場所は後ほど教えますので。」
鍵を渡され。代わりに書類を手渡す。
書類には借金の肩代わりをする代わりに櫻坂家で執事として働くこと。
櫻坂家の人には決して危害を加えることが無いよう。
雇い主はお嬢様、○○様と言うこと(注、男の場合)
雇い主を最優先に考える事。などか書かれていて、穂澄は最後の空欄にサインをした。
「原則として契約書に書かれている事は絶対です。逆に言えば契約書に違反しなければクビにはなりませんので覚えていてください。」
机の上の書類をまとめると灯真は立ち上がり『少々お待ちください』とだけ言い残して部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・」
辺りは静まり返っている。窓が少し開いているが車の音もしない。
「俺はこれからどうなるんだ?」
借金のことを考えると何かへこんでしまう。南国へは行かない事になったらしいが何故見ず知らずの男の借金を櫻坂が支払ったのか?
その事で裏が無いとは考えられなかった。
「お待たせしました。」
灯真が出て行ったときのままの笑顔で戻ってきた。
この笑顔の裏にも何が潜んでいるのか・・・・・・
そんなことを考えると灯真の笑顔が仮面に見えてきたのは穂澄だけであろうか?
そんなことを考えていると灯真の後ろから人が出てくる。
「あなたが新しい執事さん?」
「・・・・・・微妙」
瓜二つの少女。背は穂澄の頭三つ分ぐらい低く、二人とも黒い髪を下ろしている。
年齢的にはずっと下のように見えた。
「雇い主・・・?」
目を灯真に向けると灯真は頷く。
この二人が雇い主とわかり穂澄が発した第一声は、
「中学生?」
「いえ、今は高校一年生です。」
「・・・・・・15歳。」
二人が間髪いれずに答える。どうやらよく言われるらしい。
しかし改めてこの少女達が雇い主であると少し拍子抜けである。
雇い主といえば何か威圧感がある中年男性とかを想像していたので少し気が緩んだのか。
穂澄はソファーに再度座り込む。
「気分が悪いのですか?」
間髪いれずに聞く灯真の姿はまさに執事っぽかった。
って言うか何の知識も持たない高校生が執事になれるのか?と言う方が疑問だ。
「では、紹介します。我々の雇い主である櫻坂尊お嬢様と櫻坂栞お嬢様です。」
丁寧に話す方が尊でその言葉に付け足して話していたのが栞らしい。
見た目的にはどうやって区別するのかがわからない。
「どちらかわからなくなった場合は顔を見ていただければわかります。」
灯真にそう言われ二人の顔を覗き込む。
二人に近づくにつれて柑橘系の匂いが風に乗って鼻をくすぐる・・・ってそんな事はどうでも良い。
灯真の言った通り顔を見比べると
「泣き黒子の違いか?」
良く見ると尊の右目の下にだけ小さな黒子があった。
「それを見分けてもらえば結構ですので、それでは紹介も終わりましたので今日はお部屋で休んでください。他の人は明日にでも紹介しますので。」
灯真からもう一つの鍵を渡される。鍵にはお嬢様たちのお部屋と書かれていた。
多分緊急時や急な予定などで急いでる時に使うのであろう。
「穂澄くんの部屋はこの部屋の真上になりますのでそれでは、―――ああ、それと明日からは同僚という事になりますので、私の事は呼び捨てで構いませんのでそれでは。」
灯真は二人のお嬢様を連れて出て行った。
その後とり合えず言われた通りに部屋に行くと。
「デカッ!広っ!!」
入った部屋は先ほどの応接室より広く、風呂やキッチンなどもついており、ここで暮らせるんじゃないのかというほどのものであった。
しかし一つ一つ見ていく力はもはや穂澄には残されておらず制服のネクタイを緩めさっさと布団に倒れこみ
そこで意識は途絶えた。
どうも竣慎です。
更新遅れましたすみません。
春休みに入ってから兵庫に行っていて遅れました。すみません(私は静岡に住んでいます。)
出来るだけ早く更新して行きますので見てください。。。