第十八話 風邪をひいて(出会い)後編
「失礼します。」
昼休みになって暫く、額に汗を溜める穂澄が一年生の教室にまるでSPの様に転がりながら入ってきた。
その事により教室内の視線が一気に穂澄に集まる。
「ほ、穂澄さん。本当に大丈夫ですか?」
「・・・・・・体、辛くない?」
「大丈夫です。敵は蛍に任してきましたからここは安全です。」
多分その時教室内の生徒は敵って誰!?と心の中で突っ込んだに違いない。
「それでは行きましょうか。」
穂澄は廊下に出て辺りを見回してから栞達を誘導する。
その時教室内の誰もが思ったであろう。
この人大丈夫か?と・・・・・・
屋上はいつもどおり穂澄と栞と尊の三人であった。
時間は昼休み。しかし食事をしているのは誰もいない。安心したせいで集中力が切れたのか穂澄は糸の切れた人形の様に倒れ栞と尊はその看病をしていた。
顔はやはり土器色だ。そろそろお迎えが来るのではないかと少し心配になったりもするが、今は生きているので看病の方に集中する2人。
「お嬢様方。私は大丈夫なので、お昼を食べてください。」
「ダメです。人の顔は土器色にはならないのに穂澄さんの顔土器色じゃないですか!」
「・・・・・・絶対安静!」
「し、しかしお昼ご飯を食べないと私としては仕事が?―――」
―――なんだ?視界が歪む。お嬢様達が何人にも見えるし、それに段々くら・・・・・・く。
「えっ?穂澄さん!」
「・・・・・・穂澄!」
声が聞こえる。頭では認識できているが体が反応してくれない。聞こえています。ただそれだけなのに言えない。
2人の心配する顔が目の端に写った。
そしてそのまま穂澄の意識は暗闇へと堕ちていった・・・・・・
BADEND!
「いやっ!死んでないからね!生きてるからね!!」
まだ十八話目。目標まで後三十二話!作者も頑張ってます♪
暗い意識の中。額に冷たいものが乗る。
―――気持ち良い。タオルかな?それに誰か手を握っていてくれる。かあさんが死んでからこんなこと一度もなかったからな・・・・・・
「先生?これで良いのー?」
「ああ、OK,OK.良いんだよ!景気良くやれば。血管浮き出るぐらいじゃ死なないよ。」
とその時。身の危険を感じ暗闇の中から飛び起きた穂澄。
と、次の瞬間。自分の寝ていた場所に注射器の針がベッドにザックリと突き刺さる。ちなみに顔があった場所である。
「あっ!あぶっ!?」
急なことで声もまともに出ない。
とり合えずここがどこかだ。掛け布団がある以上屋上ではない事は確かだ。
薬品の臭い。そして暖房の効いたヌクヌクの部屋。そう、保健室だ。
穂澄は保健室のベッドに寝かされていたのだ。
「ちっ!避けたか。」
隣には心配そうに手を握っている栞と尊。そしてその横に蛍。ちなみに片手に注射器を持っている。
しかも逆手で。
もちろん、今の避けたか。と言ったのも蛍だ。
「お嬢様すみません!お昼の用意も出来ずに倒れてしまうなんて・・・・・・」
穂澄がベッドの上でわたわたとしながら弁当箱を探す。
「大丈夫だよ。もう四時だ。」
「えっ?」
その言葉に驚き保健室の壁にかけてある時計を見ると、短針はもう四時をさしていた。
そしてその声の主のを見た穂澄はベッドから転げ落ちる。
何事かと栞たちは反対側に回り込み。穂澄を抱き起こす。が、その時の穂澄の顔は明らかに引きつっていた。
「しゅ、しゅしゅしゅしゅ!?秋水さん!何でここにいるんですか!?」
どうやら知り合いらしい。
「知り合いなのですか?」
「知ってるも何も!この人は俺の妹の主治医なんです!って事は真希菜もいるんですか!?」
明らかに怯える穂澄。そんな事はまるで他人事の様に頭をボリボリとかく自称主治医。
―――彼は叶秋水。二十六歳。真っ白な髪の毛は別に苦労したわけではなく、染めていて。穂澄の妹真希菜の主治医をしている・・・はず。
「灯真に頼まれてな。お前を治してくれとね。身体はもう大丈夫だろう、薬飲ませたからな。」
確かにもう体のだるさや熱さなどは引いていた。
「って言うか穂澄さんって妹さんいたんだ・・・・・・」
「・・・・・・初知り」
そろそろ穂澄が執事になって一ヶ月が経とうとするがそんな話は聞いた事はなかった。そこにいた栞と尊は口をあけて驚いている。
が、それよりも今は穂澄がソワソワして落ち着きがない事が目に留まった。
「どうした?トイレならあっちだぞ。」
「違います!あなたが居るって事は真希菜も此処に居るって事でしょう。」
明らかに妹に会うのに躊躇いを持つ穂澄。隣で蛍が呆れ顔をしているからして多分穂澄が戸惑っている理由を知っているのであろう。
そして秋水もニヤニヤしている事からしてその理由を知っているのであろう。
「呼んでやろうか?おーい、ま〜き〜な〜!」
「ヤメろ!大声を出すな!!今真希菜に会ったら―――」
ガラガラ
明らかに穂澄の方が大きな声を出してしまった。そして保健室の扉が開く。
そこにいたのは栞たちよりもう一回り小さい少女。今時の少女らしく髪は前の穂澄と同様明るい茶髪をしていた。
「先生?今私の名前を呼びましたか?」
「いやいや、名前を呼んだのはアイツだよ。」
秋水が少女に笑い穂澄を指差す。
もう大声を出して秋水を止めることは出来ない穂澄はとにかく少女の視界に入る前にベッドの下に入ろうとする、が。
ガシィッ
制服の裾を蛍に掴まれて隠れない。
―――おまっ!?離せ!
―――団子はいらないから兄妹の対面を喜べ!
以心伝心張りにアイコンタクトで意思を飛ばす。
明らかに昼間の腹いせであろう。顔は笑っていたが、その奥に隠れた表情は黒くあざ笑っていた。
「あっ!」
少女の声がする。恐る恐る穂澄が少女の方を見ると目が合う。
「に、兄様〜!」
少女は花が咲いた様な笑顔を見せ穂澄に走り寄って来る。
第三者から見れば感動の再会。しかし穂澄の顔はどんどん引きつっていく一方。
少女は穂澄に近づき、そして・・・飛んだ。いや、飛びついた。
「ヘブゥッ!?」
鳩尾に綺麗に頭から突っ込む少女。穂澄は間抜けな声を上げる、が一応少女をしっかり抱きしめてやる。
「兄様!兄様!!お久しぶりです!!!」
「・・・ああ・・・真希・・菜・・・いつも言っているが、会うたびに・・・飛びついてくるのはヤメろ。お前は胸に飛び込んできているつもりでも身長差からして俺にとっては鳩尾なんだから、って言うかもう少し下だったたらもう、再起不能になるから、本当に勘弁してくださ・・・・・・い・・・・・・・・・」
息絶えそうな穂澄は搾り出すような声で伝える。多分昔からこれが再会の挨拶みたいになっているのであろう。流石に鍛えていてもアレだけのスピードで突っ込んできたら誰でも痛いであろう。
真希菜を離し、蹲る穂澄に心配そうに駆け寄る栞たち。
「むぅ、ダメ!兄様に近づくな!!」
真希菜が穂澄と栞たちの間に割ってはいる。
明らかに嫉妬の顔だ。
「真希菜、ダメだろ。初対面の人には先ず挨拶だ。」
「ヤダ!真希菜。この人たち嫌い!」
しかし真希菜は頬を膨らませて栞たちからソッポを向いてしまう。
「それより、兄様!私、先生から許可貰ったからまた一緒に暮らせるんだよ!嬉しいでしょ。」
「えっ?秋水さん、どう言う事ですか?」
「病気の進行を見る為の一時的な退院だ。」
「しかし今、俺は―――」
―――櫻坂の家に住んでいる。
そう言いたかった。が、真希菜の前で陸奥庵がなくなったとはどうしてもいえない。父親が俺に借金を押し付けて逃げたなんて口が裂けてもいえない。
そう思うとやはり真希菜と一緒に暮らすのは無理があった。
「それより、もう下校の時間だ。さっさと出てけ。」
「えっ!どういうことですか!?」
返答するのが面倒になったのか秋水はそのまま保健室から穂澄たちを追い出し。そしてそのまま必然的に真希菜と一緒に帰る事になってしまった・・・・・・
この頃、腰が痛くてパソコンの前に座る事が出来なかった。若いのに腰が悪いのかな?と考える今日頃ごろ・・・
投稿頑張ります。。。