第十六話 風邪をひいて(栞の場合)前編
櫻坂の屋敷に戻り、灯真が居ない事を聞いた穂澄はキッチンで少し遅い夕食を作っていた。
穂澄は料理が得意と言う訳ではないが、胸を張って出来ないと言う真琴よりは上手い自信はあった。現に櫻坂の屋敷に来る前から自炊はそれなりにしていたのでまずくて食べれないという事はないのだ。
「ところで、灯真さんは何処に言ったんですか?」
ジャガイモの皮を剥いている穂澄が不意に隣で危ないながらも手伝う真琴に声をかけた。
「灯真はね、栞ちゃんが風邪になったから主治医に薬を貰って来るって言ってから帰ってこない。」
ザクッ!
穂澄は慣れた手つきで剥いていたジャガイモを取りこぼし替わりに自分の指をザックリと切ってしまう。
「いっつ!?って言うか、栞お嬢様風邪ひいたんですか!?」
初耳だ。まあ、今日一日屋敷に居なかったのだから初耳は当たり前と言えば当たり前ではあったが。
しかし冷静に考えるとしょうがない。何故かと言うと今は1月だ。特に昨日の夜は冷え込んだ。なのに露出度の高いメイド服なんて着ていたら屋敷の中が暖かくても風邪ぐらいひくであろう。しかしそう考えても穂澄はやはり納得できない事がある。
―――馬鹿は風邪ひかないって言うのに!?もしかして迷信なのかな?
「穂澄くん。なに考えてるかは聞かないけど多分凄く失礼だと思うよ雇い主に対してそれは・・・・・・」
表情から察したのか、真琴は少し苦笑いを浮べる。
「それで尊お嬢様は?」
「尊ちゃんはさっきまで看病していたけど疲れて寝ちゃったよ。夕食はいらないって言ってたし大丈夫でしょう。」
「解りました。じゃあ俺はおかゆ作って栞お嬢様の所へ思って行きますので、真琴さんは野菜でもかじっていてください。」
「えっ!?穂澄くん。今なんかすっごく酷い事いわなかった!?」
しかし穂澄はそんな抗議を言ってくる真琴を無視しておかゆを作り始める。
土鍋に米と水突っ込んで、少し煮て塩入れて梅干五個ぐらい投入して、最後に鰹節!
先ほどの夕食を作るスピードとは大違いの速さでおかゆを作る穂澄。
「それでは、もって行きますので、真琴さんは出前でも頼んでください。」
「穂澄君ってさ本当はSなのかな!?」
やはり真琴の言うことなど聞く耳を持たない穂澄はさっさと栞の寝室まで土鍋を持ちながら走っていった・・・・・・
コンコン。
「栞お嬢様、起きていますか?」
「・・・・・・ほ、すみ?起きてる。入って・・・・・・」
いつもと同じように聞こえるが少し弱々しい、やはり苦しいのか、許可をもらった穂澄はドアを開けてベッドの方へ向かう。
そこには寝巻き姿の栞が寝ていた。額には汗を溜め、息はいつもより荒かった。
「・・・・・・穂澄、お風呂入りたい。」
「ダメですよ。熱がある時は入れません。それよりおかゆ作ってきましたので食べてください。」
「・・・・・・ヤダ。」
風呂を断ったせいか頬を膨らませてそっぽを向く栞。
「食べないと熱は下がりませんよ。」
穂澄はベッドの横に置いてある台をベッドに設置し土鍋を置く。そしてそっぽを向いている栞を無理矢理起こし、座らせる。
そして栞の手にさじを持たせる。
「・・・・・・フンッ」
「あたっ!?」
栞はさじを穂澄に向かって投げつけさじはスコンッと良い音を立てて穂澄の額に直撃する。
「・・・・・・ヤダ!お腹すいてない。汗かいたー、お風呂入りたいー。」
熱で弱っているので暴れたりはしないが無理難題を言い、駄々をこねる。
穂澄は小さく溜息をつき、床に落ちたさじを拾って蛇口でさじを洗う。
そしてベッドに戻ってくると栞はまた、反対側を向いて布団を被っている。しかし熱が高いのか布団を被っていても荒い息が聞こえてくる。
「お嬢様、布団にかぶってないで食べてくださいよ。」
栞を再度起こし穂澄はさじでおかゆをすくい栞の口の辺りに持って行く。
「ヤダ!」
栞が叫んだ瞬間、穂澄の手は栞に弾かれさじは床に落ちおかゆは床に散乱する。
プツンッ
その時穂澄の中で何かが切れた。
「・・・・・・おい、」
穂澄は限り無く低い声で栞を呼ぶ、少なくとも今までそんな声を出しているところを見た事がなかった栞は驚いて穂澄を見る。
振り向くと同時に栞は胸倉を掴まれる。
「いい加減にしろ。自分の意見ばかり押し付けやがって!それなのに最終的には食べ物にも八つ当たりか!?俺に怒るのはまだ許せるけどな、食べ物に八つ当たりってどう言う事だ?我侭も対外にしろ!」
穂澄の目は少なくとも元旦に会った時とは別物で怖かった。もし始めてあった時こんな目をしていたら絶対雇うのを拒否していたであろう。
「あっ!す、すみません、お嬢様。気分が悪くて食べれないんですね。解りました、お腹が空きましたからいつでも良いので呼んでください。」
胸倉から手を離しさじを拾い散乱したおかゆを片付けた穂澄は土鍋を持つと出口に向かって歩き出した。
「・・・・・・待って。」
出て行こうした穂澄に栞は服を掴み止まらせる。
「・・・・・・如何しましたか?」
立ち止まった、しかし穂澄はいつものように目を合わせてくれない。
揺れる黒髪に阻まれ栞が目を見ようとしても見えない。
「・・・・・・うっ・・・ひっく。」
「えっ?」
穂澄が驚き後ろを向くと栞は目を押さえ涙を流していた。
穂澄は土鍋を置くと直ぐに栞の元に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?どこか痛い所でもあるんですか?」
やっと目を合わせた穂澄。その事に安心したのか、栞はねじが外れたかのように泣き出す。
「・・・・・・行かないで・・・ご飯食べるから。ここにいて。」
穂澄の胸に飛び込んだ栞は痛いほどに服をつかみまた大声で泣き出した・・・・・・
その後、泣き止んだ栞はしっかりとおかゆを食べてベッドに就いていた。
しかし食べている間も食べ終わってベッドに寝ている今も穂澄の執事服を握って離さなかった。
だが穂澄もその事をいやがらず、栞が穂澄の方へ向いたら優しく頭を撫でそして笑いかける。と言うことが彼是一時間。
そろそろ時刻は十二時を回っていたが一向に寝る気配の無い栞に付き合って起きてはいたが流石に眠くなって目の下にクマが出来始めている。基本的に早寝早起きの穂澄。加えて今日一日はずっと歩き回っていた為拾いも溜まっているやはりどう考えても少しキツイ状況であった。
「・・・・・・お嬢様。そろそろ寝ないと風邪が治りません・・・よ。」
声には出さないが目に力を入れて眠くなれと念を送る穂澄。
「・・・・・・わかった寝る。」
―――イア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ!!!!!!!
心のなかで思いっきり叫ぶ穂澄。
とその時栞に服を引っ張られベッドの中に引きずりこまれる。
「・・・・・・一緒に寝て。」
「・・・・・・いやいやいやいやっ!」
栞に掛け布団をかけられ腕を絡まれてくる。
「・・・・・・お休み。」
しかし栞は穂澄の言う事など無視してそのまま目を瞑って寝息を立て始めた。
寝息を立てたことを確認した穂澄はそのままベッドを抜け出そうとした・・・が。
手と足を絡められて出る事が出来ない。
「お嬢様。一応女性ですので足をそんな風に使うのはいけないと思うのですが。」
「・・・・・・昔、兄様も私が風邪を引いた時こうして一緒に寝てくれたの。とても暖かかった・・・・・・で、どうした?」
「い、いえ。」
そんな事言われて離してとは言えずそのままその日は一緒に寝ることになってしまった・・・・・・
学力調査をこの前やったけど、全然だった。一応成績は普通だけど、そろそろ高校受験。小説書いていていいのかとこの頃考えます
まあ、何とかなるかな?
投稿頑張ります。。。