第十三話 仲直り(?)して
尊に部屋を追い出されてから数時間。その後の事ははっきり言って覚えていない。時間があっという間に過ぎて時刻は午後七時過ぎ。
穂澄は今その怒らせてしまった尊の部屋の前に立っていた。すでに夕食の時間なのに自分の部屋から出てこない尊を心配したのか、灯真が穂澄を向かわせたのである。
乗り気ではなかった穂澄も灯真の頼みでは断りきれず、渋々尊の部屋の前に来たと言うわけだ。
扉をノックするのを躊躇っていたのだが他の人を待たせるわけには行かず穂澄は意を決して扉を叩いた。
コンコン
廊下に響くノック音緊張のせいかその音がいつもより大きく聞こえた。
「・・・・・・はい。」
小さな弱々しい声だが確かに尊の声で返事が来た。
「穂澄です。夕食の時間になりましたので出てきてもらえませんか?」
「ごめんなさい。食欲が無いの。ご飯は私抜きで食べて下さい。」
やはり声が弱々しい。穂澄は唇を噛み締め力を込めてドアノブを回した。
中に入ると尊がベッドの上で蹲っていた。穂澄が近づくと入ってきたことに気がついたのか尊が近くにあった毛布に包まる。
その肩は小刻みだがフルフルと震えていた。
「ほ、穂澄・・・さん。すみません。私少し調子が悪いみたいで・・・あの・・・・・・その」
「お嬢様すみませんでした!」
穂澄は尊の目の前まで来ると頭を大きく下げた。
「謝ってすむことではないのは知っています。私は尊お嬢様にあけないでくださいと言われたのにあけてしかも中まで見てしまって・・・・・・私を信じてくださっていたのにそれを裏切る真似をしてしまって・・・・・・」
「穂澄さん、隣に座ってもらえませんか?」
穂澄が顔を上げるが髪を下ろしているので尊の顔は良く見えない。穂澄は言われたままに隣に座り尊の言葉を待つ。
「穂澄さんは何処まで見ましたか?」
「えっ・・・・・・い、1月10日まで見ました。」
ここで嘘を言っても何も解決にはならない。それにここで嘘を言ってしまったらさっき謝った事が嘘と言う事になってしまう。穂澄は少し間を開けたが正直に本当のことを言った。とそこで尊の顔が毛布から少しだけ出てくる。
「本当ですか?本当に1月10日までしか見てないんですね。」
「は、はい。本当です10日以降の所は読んでいません。誓っても良いです。」
そう言うと尊は毛布から出てベッドから出て立ち上がる。
「なら良いんです。さあご飯に行きましょう♪」
「えっ?ええっ!?」
尊は毛布を丁寧にたたむと穂澄に押し付ける。その間に尊は先ほどの沈んだ顔が嘘のようにスキップをしながら部屋を出て行った・・・・・・
「何で?」
とその時枕の横に置いてあった日記が目に入る。
―――十日まで見たって言って良かったて言ったという事は十一日に何か重要な事が書いてあったのか?
『ダメよ!穂澄。せっかく許してもらったのにさっき謝った事をあなたは無にするつもりなの!?』
『いいじゃんよー。スキップで出て行ったんだ。もう栞たちのところに言ってるよ。気になるんだろ?YOU,見ちゃいなよ!!』
「死ねや!!この悪魔がぁ!!」
穂澄は目の前に漂っていた悪魔を捕まえて踏みつけた。
『NOーーーーー!?』
「悪は滅した。これでもう俺は過ちを繰り返さないぞ。」
穂澄は胸を張って尊の部屋を出るとそこにはドアの影に背を預けこちらを向いていた。穂澄は尊と目が合い数秒固まる。
ニコッ
ニコッ
―――笑い返された。
「見なかったですね。偉いですよ。」
チュッ
頬にキスすると尊は再度スキップしながら穂澄の視界から消えていった・・・・・・
「見なくて・・・・・・良かった。」
穂澄はキスをされたことより日記を見なくて良かったと心の底から安堵した・・・・・・
「ああ、穂澄さん。明日は竣夜様の所に言ってもらいますから」
お嬢様達の食事が済み、灯真と一緒に食事をしている時、ふとそう告げられる。
「すみませんが竣夜様とはどちら様ですか?」
栞と尊の執事になってから少し経つが『竣夜』と言う名前の人にはあったことが無かった。しかし竣夜と言えば聞いた事がある気がする。
「竣夜様と言うのは穂澄さんをヤクザの人たちから買い取った人ですよ。」
「えっ!?買い取ったのはお嬢様達ではなかったのですか?」
穂澄は今までヤクザに売られそうな所に栞たちが偶然通りポンっと大金を払い買い取ったのかと思っていたのであった。
「そこに地図を書いておきましたのでフロントの方に渡してください。そうすれば後は案内をしてくれますよ。」
灯真はそのまま自分の食べ終わった食器を持ってキッチンの方へと消えていった。
穂澄は灯真が出て行ったのを確認するとその紙を見てみる。
『櫻坂エレクトロニック』
櫻坂エレクトロニックと言えばこの辺で一番大きな会社だ。
この辺に住んでいる人なら櫻坂エレクトロニックを知らないものは居ないであろう。
なんせ小学生ですら待ち合わせに使っているぐらいなのだから他の会社よりよっぽど目立つのであろう。
「・・・・・・穂澄。」
とその時後ろから栞に声を掛けられる。
「は、はい。何でしょう?」
灯真にもらったメモを丸めてポケットの中に詰め込む。慌てて後ろを振り向くとそこには髪をポニーテールにしてメイド服を身にまとっている栞がいた。
「「・・・・・・」」
一瞬の沈黙。
―――こ、これは突っ込んだら負けと言う事なのか?
ここは突っ込むべきと言う事は明白だ。しかしここまであからさまだと流石に裏を考えてしまうのが人の性と言う物だ。
そのまま暫く2人の間に沈黙が続く。
そして痺れを切らしたのか栞が沈黙を破った。
「・・・・・・何で突っ込まないの?」
頬を膨らませ拗ねる栞。どうやら本気で突っ込んで欲しかったらしい。
まあ、突っ込んで欲しいのだからこんな格好をしているのであろう。
ガンッ
「いったぁ!??」
「何で突っ込まないの?」
栞が穂澄の脛をつま先で蹴ってきた。
注)ちなみにこの家は洋式なのでベッドに乗るとき以外は靴です。つまり脛蹴られるとメッチャ痛いです♪
穂澄はその場に蹲り唸りを上げる。流石に悲鳴を上げれば灯真や真琴などが来てしまうので我慢する。まあ、本音は脛蹴られたぐらいで叫んだりしてかっこ悪いと栞に言われるのがイヤだったからと言うのが強い。
痛みを耐えた穂澄はサッと立ち上がり栞に向き直る。
「で、では。何故メイド服を着ているのですか?」
「・・・・・・穂澄に着させるから。」
―――・・・・・・今なんと言った?メイド服を俺に着せるから。Why?何故に?いやいやいや俺にはそんな特殊な趣味はありやせんて。
なにやら混乱して何処の方言かわからなくなってきているがとにかくピンチと言う事は穂澄もすぐにわかった。
「・・・・・・冗談、穂澄には着させない。」
栞はニヤリッとしてやったりとした顔で穂澄を見る。
「・・・・・・今度、櫻坂創立記念祭があってメイド喫茶する事になって丁度この前に頼んでおいた服が通販で届いたから試しに来ていた所。」
栞にしては長台詞だったが今はそれより創立記念祭の方が心配だ。
何故かって?理由は簡単。
まず第一に創立記念祭なんて特進クラスの連中は聞いてません。多分去年と同様担任が忘れているに違いない。そう、去年は担任がが記念祭の3日前に言ったものでその3日間死に物狂いでやったことを覚えている。
まあ、3日前までなせ気が付かなかったと突っ込まれると痛いのでここはスルーしておこう。
次に尊と栞がメイドの姿で接客する事だ。多分いつも穂澄を追いかけている様ななやつはメイド姿を見た瞬間。狂喜乱舞するであろう。
「・・・・・・だから穂澄、そこで頼みがあるんだ。」
栞は少し言いづらそう足をモジモジさせている。
「何でしょうか?」
穂澄が聞くと決心がついたのか栞は顔を上げて穂澄の目を見る。
「・・・・・・兄様にメイド喫茶の許可を貰ってきて欲しいの。」
「ええ。良いですよ。丁度用事があったもので。」
そこで行くと言わなければ後の苦悩はこなかっただった・・・・・・・・・
ね、眠い。何か疲れてるのかな?
コレカラ頑張ります。。。