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病院にて





「あの人間兵器の弟――ねえ」


 銀色の壁って映画みたいだなと思いながら拓夢は目の前でカルテをいじりまわす白衣の女性から目を逸らす。


「血のつながりはありませんけど……」


 拓夢は病院の一室に拓夢は連れてこられていた。馬鹿でかい車にのせられ(窓は防弾仕様)護送されたこの病院は、都内でも有数の病院だったのだけど。

 あれよあれよと奥に連れ込まれ――たどり着いたのは地下室。

 ナースステーションの中にある秘密のスイッチ押すとゴゴゴと階段が登場したのは驚いた。


「みたいだな。まあ血脈によって逸脱能力が優遇される事実があるような研究結果はないし」


「そんなに研究進むほど、発現から時間がたってるわけでもないでしょうしね」


 とりあえず会話は共感だ。流れに合わせ拓夢は話をつないでいる。


「ぁぁん?」


 何故かキレられた。


「テメー。それはあれか。私が! この逸脱能力研究者筆頭の咲坂明美さきざかあけみを無能だと思ってるんですかねえ……!」


 トリートメントの聞いた長いストレートロングをかきむしりながらのガン飛ばしに、拓夢はあとずさる。


「咲坂――そっか。ニュースによく出てる、逸脱能力学会の中心人物」


 思い出す。ニュースでよく出ている高名な学者だ。


「確かにアウター能力の詳細は今でもっても不明な点が多い。10年前の大異変より突如として現れた、これまでの常識を覆す特異な能力」


 美人がガンと飛ばすとなぜこんなに怖いのか。容姿が整っているだけに威圧感が半端ねえ。


「東京上空で突如現れた未知の積乱雲――そこから落ちた雷によって始まった未曽有の『連続』大災害」


 ――それが、大異変と呼ばれるすべての始まりだった。

 そうただの――始まり。今より10年前――2012年の6月14日にそれは起こった。

 まさに天変地異であった。


「まず続いたのは地震――。次に津波か。ありとあらゆる天災が人間を襲った」


「日本だけじゃない、とも聞いていますが」


「そうだな……。その時からだ。逸脱者アウターが登場し始めたのは」


 始まりの雷――。その瞬間から世界は変わった。最初に確認されたアウター能力者は、被災地により発見された。

 無から水を生み出すという奇跡を、1番目の逸脱者はやってのけた。


「とかく日本はその結果として一部の地域が隔絶状態になり――今もまだ治外法権のようになった地域が存在する」


「お疲れ様です」


 ぺこり。心底すごいなあと思い頭を下げた。その状況を改善するために逸脱能力の研究を行なっているのだろうし、それで結果を出すのに追われてだろう。


「ふん。わかればいいのよ」


「あの咲坂先生――僕はなぜココに連れてこられたんですか?」


 ふんぞり返る咲坂先生を不安気に見つめながら、拓夢はおそるおそる話を続ける。

 なぜこの病院に来たか、よく知らないのである。


「ああ、そうね忘れるところだったわ」


 咲坂女史はぽん、と手のひらを打つ。


「あなたの能力を測定するのよ」


「はぁ。なるほど――って何脱がせてるんですか!?」


 能力測定――なるほど。専門的な智識が必要だなあと思っていると、腹部がなんかスースーして

 拓夢は思わず大声を上げた。


「何ってお腹と頭に電極つけるの。専門的な説明はいる?」


(ああもう心臓に悪い)


 さらさらの髪や手が身体を這い回る感触は、女性経験の乏しい――いやうん、ゼロの拓夢にとってそれはショッキングな出来事だった。


「さあて。出来た。さっそく能力使ってみて」


「えっと……俺、能力の制御とかよくわからないんですけど」


「大丈夫よ。カンタンだから。私を攻撃すればいいんだから」


「うぇええええっ!? いいんスか!?」


「大丈夫よ。私もアウター能力者だから」


 あー。と大口を開けて拓夢は納得した。その可能性は十分にありえることだった。おそらく自分たちのことを一番知りたいのは、他ならない「外れて」しまったアウター能力者の方だろう。


「それじゃあ――」


 覚悟を決めて拓夢は能力を開放した。


(手が増える感覚――とでも言うんだろうか)


 能力を行使するとき近い感覚はタッチ形式のゲーム機や端末のマウスカーソルが現実に現れる感じだ。

 それをポイントして、念じると力が現出する。


「いきます」


「いいわよ」


 バキバキと何かが割れるような音がする。それは空気が急速に冷却された音だと気づいたときには巨大な氷牢が現れていた。


「へえ――なるほどなるほど」


 すっぽりと氷で咲坂女史を取り込んだ。

 ダルマ状態になった女史はうんうんと首を振る。


「F級能力――カテゴリとしてはCランク相当かな。割とよくある能力だったわね」


「そうなんですか?」


「温度低下――あるいは操作ね。この脳波パターンなら操作っぽいから、練習すれば温度を上げることも出来るようになるかもしれないわ」


(そんなに便利というわけでもないなあ)


 少し凹む。やっぱり男の子である以上は、自分の能力に独自性がほしいものだ。


「さて、さむいからちょっと出ようかしら」


 瞬間だった。


「私の手に持った刃物はなんでも切ることが出来るようになる。それは波動や衝撃といった不可視すらも例外ではない」


 うすい光の線が氷に走る。瞬間。まっぷたつに氷が割れた。


「うお……っ」


 すごく驚いた。まさにマジックを見ているようだった。最初から氷に仕掛けが施されていたかもしれないと頭の片隅で思うほどだった。

 自分で出した氷なのに。


「計器データもまあ――異常はないわね。うんうん……よし、行って良し。外に迎えがいるから」


 すでに興味を亡くしたように咲坂女史は置いてあったカルテに手を伸ばし、視線を逸らした。


「あの。ちょっと気になることが」


「ん?」


「F級って区分はなんなんですか?」


「あー。それはね。能力の持つ範囲の違い――かな」


 唇に指を当て、うーんと考えるように上を向きながら言葉を続ける。


「FはファイトのF。これと別にS級とF級という区切りがあって。S級はストラテジーの略。T級はタクティクスの略」


 アウター能力には三つの区分がされているようだった。


「戦闘、戦略、戦術?」


「良くしってるわね。そのとおりよ」


 タクティクスは戦術。

 ストラテジーは戦略。

 ファイトは戦闘。

 直訳すればこうなる


「F級は単体戦闘力、影響力の少ないものね。多くの能力がコレ」


「じゃあTやS級は――」


「S――ストラテジー級は精神操作系といった広範囲に間接的なダメージを与える能力系統。T――タクティクス級も広範囲系だけど、こっちは物理的な力になるわ」


「それじゃあ姉の能力って」


 なんなんですか、ときこうとすると、ずいと突き出された手のひらによって質問を止められた。


「それは言えないわ。能力はプライヴェートな情報でもある。医師としてこれ以上は言えない」


 納得した。そのとおりなのだろうと思った。


「――アウター能力者はその力ゆえに能力を嫌っている人間もいる。だからむやみに能力を聞くことは控えたほうがいいかもしれない」


 続いて忠告される。これは聞いてよかったと思える情報だった。


「まあしかし――君の姉君なら、君が聞けばすぐ教えてくれるだろうが」


「へ? なんですか?」


 ぼそりと呟くように放たれた咲坂女史の声を捉えられず拓夢は首を傾げる。


「いやなんでもないよ。そろそろ本当に行ったほうがいい」


 それに苦笑を浮かべながら咲坂女史は踵を返し、手元のカルテに目を落とした。


「――待ちきれず迎えがあっちから来たようだしね」


 そう言って手元にある小さなボタンを何事か操作する。

 ヴンという音と共に上部にあるスクリーンに光がともった。

 そこにはこの病院の屋上らしき場所を写しだされていた。運動場ほどある広大な屋上に、巨大なヘリコプターが降りていた。

 同時に。


「終わったようだな!」


 バァンと扉が開け放たれる。


「ねーさん……!?」


 同時に飛び込んできたのはやはり光希。

 ぶわっと長い黒髪が舞う。


「検査が終わったようだな――いくぞ。タク!」


 息咳き込んで、光希は手を伸ばす。


「いくってどこへさ」


 呆然と拓夢は聞いた。


「公立――天上寺学園。私たちの新しい生活の場所だ!」


 光希はいつものように自信満々に答えた。


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