ゲーム攻略法を全部知ってる幼女ボイスがどう考えても人間じゃない。〜マッチングしたこんこん300歳とホラゲー実況したら無双した〜
再投稿です、長編設定にしていまっていたので短編で投稿し直しました。
「……あと一歩だったのに」
配信終了のボタンを押すと、静まり返った部屋にため息だけが残った。
モニターには、さっきまで流れていたコメントが表示されている。
――惜しかった!
――また次頑張れ!
――次はクリアできそう!
登録者347人。
悪くない。でも、全然足りない。
「……今年こそ、絶対伸ばしたいんだけどな」
主人公上嶋カナトは、小さく伸びをした。
ゲーム実況の配信者。
配信して、動画も投稿する。
編集もサムネも自分で作り、SNSも欠かさず更新してきた。それでも数字は、ほとんど動かない。
俺が特別ゲームが上手いわけでもないという事が理由なのかもしれないし、声がダメなのかもしれない。
ぐだぐだと、ぐるぐると。
答えが出ない問題を頭の中で転がし、はぁ……。
とため息が漏れた時だった。
《ピピッ》
スマホが震え、画面にはフォローしているゲーム会社のポストが表示された。
『新作ホラーゲーム百鬼夜行
公式実況者選抜イベント開催!』
俺は思わず身を乗り出した。
「え?」
内容を詳しく読むと、どうやら発売前の
最新作を使ったタイムアタック大会らしい。
二人一組。(相手はマッチングで決まります)
クリアタイム一位は、公式実況者として採用。
「公式実況者?!……マジか」
心臓がどくん、と鳴る。
公式実況者。
そこに選ばれれば、一気に知名度が上がる。
「これだ……!」
思わず立ち上がった。
「これしかない!」
俺は迷いなく、応募ボタンを押した。
ーー数日後。大会当日。
「よし……!」
ゆっくりと深呼吸をした後、少しだけ震える手で、ヘッドセットを付ける。
(今日で、俺の配信ライフが変わるかもしれない。
……いや、絶対、変えてみせる!!)
静かな部屋の中で煌々と輝くPC画面を見ながら、俺は1人、気合を入れた。
配信開始。
「こんばんは!
今日は百鬼夜行の公式イベントに参加します!」
その言葉に応えるように、
コメント欄が少しずつ流れる。
――がんばれ!
――応援してる!
――優勝しよう!
「ありがとう!」
画面には、ランダムマッチング中……の文字が表示された。
「どんな人と組むんだろ」
まずここが、第一難関。
2人1組なのだから、当然どんな相手を引くかが大切になってくる。
マッチング中、の画面をボーっと眺めながら少し緊張していると、ピコン、と音が鳴る。
《マッチングしました》
きた。マッチング相手は……画面に表示された名前を見て、俺は思わず吹き出した。
《 こんこん300歳 》
通話が繋がる。
『聞こえるかの?』
イヤホンから聞こえてきたのは、どう聞いても小学校低学年くらいの女の子の声だった。
その声が配信に乗るとコメント欄が一気に流れ始める。
――幼女!?
――ボイチェン?
――RP勢きたw
俺は苦笑する。
「こんばんは」
『こんばんはじゃ!』
…“は、じゃ?”笑 なんなんだ、その喋り方は。
いやいや、そんなことより。
「…えーっと。」
「このゲーム、15歳未満は禁止なんだけど?」
「うむ。」
「保護者の人いる?」
どう聞いてもガチロリボイスの声に、このホラーゲーム、しかも配信中。は、荒れるだろ。
そう思った俺は、なんとかこのロリを追放して、新しいマッチングを開始したい…と必死だった。
だが、そんな俺の気持ちを知る由もないロリボRP勢の彼女は、怯むことなく、配信に言葉を乗せていく。
「おらん。」
「怒られない?」
「怒られん。」
「なんで?」
少し間が空いて、少女は当たり前のように言った。
「我は300歳じゃ。」
……えーと?コメント欄も待ってましたと言わんばかりにお祭り騒ぎだ。
――草
――設定細かいwww
――ガチ勢だ
――300歳www
俺は笑いを堪えながらマイクに向かった。
「じゃあ敬語で話した方がいいですか?」
「うむ。」
「年長者は敬うものじゃ。」
「はいはい。」
半分呆れもあったが、もう半分の気持ちは……。
今日のタイムアタック終わったぁぁ、だった。
「設定、好きだねぇ。」
「設定ではない。ほんとじゃ。」
ほんとじゃ、ですか。
俺はこの大会にかけてるんですけど。
そんな気持ちが声になりそうなところを、
グッと抑える。
配信中だ。
どんな状況になったとしても。愚痴を言ったところで、視聴者を困惑させるだけだ。
それに、マッチングしちゃったもんはしょうがない。相手がガチロリRP勢であっても、俺が全力で頑張れば、可能性はある。
最初から諦めてるやつに、勝利の女神は微笑んではくれない。俺は気合いを入れ直し、スタートボタンをおした。
《ゲームスタート》
ゲームが始まると同時に、
画面は古びた神社へ切り替わる。
石段。
赤い鳥居。
境内には霧が立ち込め、人の気配はない。
「うわぁ……雰囲気いいな。
最近のホラーゲーム、映像すごいなぁ。」
コメント欄も俺と同じように感心している。
――グラすげぇ
――ここ怖い
――BGM鳥肌
俺は慣れた手つきでキャラクターを動かし、
鳥居へ向かう。
その瞬間だった。
「待て。」
イヤホン越しに、こんこん300歳の声が響く。
「その鳥居は、くぐるでない。」
「え?」
「道の端を通るのじゃ。」
「いやいや。」
俺は苦笑した。
「ゲームだよ?」
「うむ。ゲームでもじゃ。」
コメントが流れる。
――RP助かる
――雰囲気あるw
――徹底してるな
俺は笑いながら肩をすくめた。
「まあ減るもんじゃないし。」
鳥居の横を通る。……その瞬間。
《隠し実績【礼を知る者】を獲得しました》
「…………え?」
――え?
――は?
――隠し実績!?
俺と視聴者は驚きを隠せない。
「え、こんなのあった?」
「ある。」
こんこんは、当然のように答えた。
「鳥居は、人の家の門と同じじゃ。勝手に真ん中を歩くものではない。」
「いや……。ゲームだよ?」
「うむ。」
「ゲームでもじゃ。」
「どこまで設定作ってるんだよ……。」
そんな会話をしながら、そのまま境内へ進む。
社の前。
画面には、《祠を調べますか?》の文字。
俺がボタンを押そうとすると、
ロリボイスは言った。
「先に手を合わせよ。」
「えぇ?」
「二礼二拍手一礼じゃ。」
「そんな操作ないけど。」
「しゃがむがあるじゃろ。」
「あるけど!」
「それじゃ。」
コメント欄が爆速で流れる。
――wwwwww
――指示細かいw
――宮司かな?
俺は半分遊びながら、しゃがむエモートを二回。拍手エモート。そして最後にもう一度しゃがんだ。すると…ガコン。祠の奥が開いた。
《隠し通路を発見》
「ええええっ!?」
――はぁ!?
――初見なんだけど!?
――そんなギミックある!?
――開発者?
今までの俺の配信で、今日ほどコメント欄が進む日があったか?いや、ない。
「いやいやいや!
まだ攻略サイトも出てないだろ!
発売初日だぞ!?」
こんこんは落ち着いた声で言う。
「うむ。礼儀正しい者には、神様も少し優しい。」
「いや、これゲームだから!」
「ゲームでもじゃ。」
俺は思わず笑ってしまう。
「どんだけ礼儀重視なんだよ。」
そんな会話をしながら、そのまま隠し通路を進むすると、分かれ道へでた。右。左。俺が右へ行こうとすると、ロリボイスは言う。
「左じゃ。」
「なんで?」
「右は帰り道。」
「いや初見だよね!?」
「知っておる。」
「どうして!?」
「知っておるからじゃ。」
コメント欄。
――強いwww
――理由になってないw
――博士か?
――ガチ勢すぎる
俺は半信半疑で左へ進む。
三十秒後。右ルートは行き止まりだと判明した。
「…………。」
「ほれ。だから言ったじゃろ。」
「いや……。なんなんだよ、ほんとに。」
思わず苦笑すると、こんこんは少しだけ得意げに笑った。
「我は道に詳しいからの。」
「そういう設定?」
「設定ではない。ほんとじゃ。」
…なんか。
すごいRP勢に当たってしまったかもしれん。
けれど今は、攻略が忙しい。
せっかく運良く?サクサク進んでいるんだし、
ペースを落とさずゴールを目指したい。
「よし、このまま一位狙うぞ!」
「うむ。」
「任せるがよい。」
その声は、小さな胸を張っている姿が目に浮かぶくらい、自信満々だった。
隠し通路を抜けると、古びた村へ出た。
霧の向こうから、白い着物を着た老人がゆっくり歩いてくる。
《話しかけますか?》
俺がボタンを押そうとすると、
「待て。」
「今度はなんだ?」
「そやつ、ぬらりひょんじゃ。」
「おっ、妖怪博士。」
「博士ではない。」
「友達じゃ。」
「はいはい。」
俺は適当に相づちを打つ。
「ぬらりひょんって、
もっと偉そうなイメージあるけど。」
「そんな喋り方はせん。もっと腰が低い。
むしろ礼儀正しい。」
「……へぇ。」
俺はゲーム内の老人へ近付いた。
「こんにちは。」
すると老人は、深々と頭を下げた。
『ようこそ、お越しくださいました。』
視聴者が不思議そうに反応する。
――本当に敬語だ
――あれ?
――当たってる
「ほれ。」
こんこんが少し得意げに言う。
「言ったじゃろ。」
「……偶然じゃない?」
「偶然ではない。知っとる。」
「だからなんで。」
「友達じゃ。」
「便利だな、その一言。」
――友達万能説www
――妖怪界顔広すぎる
――コネ最強
もはや俺より視聴者を虜にしているガチロリボイスこんこん300歳に、うっすら悔しさまで感じている。
まぁでも、ありがたい話だ。
視聴者の数が減るわけでもなく、コメントが途切れるわけでもない。
俺の実力ではないけれども。今集中すべきは、最速ゴール、一点のみ。
俺は気合いを入れ直し、順調に進みすぎているゲーム画面に集中した。
煙草の煙がゆらゆら漂っている。
老人は穏やかに笑う。
『一服していくかい。』
「おぬし、その煙管まだ使っておるのか。」
『この煙管、お気に入りでねぇ。』
「新しいのを買えばよいのに。」
『愛着ってやつさ。』
「年寄りじゃの。」
「ゲームのNPCとなんで会話あってんだよ」
――もはや神業ww
――年寄り同士www
老人は笑って煙管を差し出した。
『旅のお守りだ。』
《ぬらりひょんの煙管を手に入れた》
村を抜けると、小さな池が現れた。水面には、きゅうりがぷかぷか浮かんでいる。
「これ絶対河童イベントじゃん。」
俺は嬉しそうにきゅうりを拾う。
「きゅうりだけでは釣れん。」
「え?」
「塩を振れ。河童は漬物が好きじゃ。
生より美味いからの。」
「そんなリアルな理由ある?」
――河童グルメ勢www
――草
――初めて聞いた
半信半疑で近くに落ちていた塩袋を使う。
《きゅうりの浅漬けを作りました》
「えぇっ!?」
もはやヤラセレベルの正解率。
――アイテム合成あった!?
――やってんなwww
――天才
ボコン。河童が現れた。
『うまそうだなぁ!』
《河童の水鏡を入手》
「また正解!?」
「当然じゃ。」
「河童のやつ、昔から浅漬けが好きじゃからの。」
「……。知り合い?」
「うむ。」
「遊んだこともある。」
「あるんだ。」
「水遊びした。」
視聴者。
――wwwwwww
――なかよしかwww
――水遊びは女児なんよwww
――もう全部友達じゃん
――この子かわいすぎる
――配信当たり回だわ
そのまま先へ進む。神木へ向かう道。霧はさらに深くなり、視界は数メートル先も見えない。
「うわ……。」
「急にホラーらしくなってきた。」
すると。木の陰から、ぼたぼたと長い黒髪を引きずる女が現れる。
「ぎゃあぁぁぁっ!!」
思わず叫ぶ。
コメント欄も大騒ぎ。
――びびった!!
――こえええ!!
――急に来るな!!
しかし。
「む。」
こんこんは首を傾げた。
「こやつ、こんなに怖くはないぞ?」
「え?」
「制作会社に文句を言わねばならんな。」
「そこ!?」
「もっと愛嬌がある。」
「愛嬌!?」
「昔はよく驚かされたものじゃ。」
「知り合いなの!?」
「うむ。」
「驚かすのは好きじゃが、子どもには飴をくれる優しいやつじゃ。」
「情報量多いな!?」
――妖怪レビュー始まったwww
――攻略本より詳しい
――開発スタッフ説
――神社関係者?
俺も笑うしかない。
「いやもうさ。」
「本当に何者?」
少しだけ沈黙。そして、こんこんは当然のように答えた。
「友達じゃ。みんな友達じゃ。妖怪って意外と狭い世界なんじゃ。」
……ふーん?よくもまあ、詰まることなく次から次へと言葉が出てくるな。そんな事を思っていると
、古い祠がみえてきた。鈴の音だけが静かに響いている。
「つぎはここじゃ。」
祠の前には、小さな白狐の像。その首元には、白い鈴が結ばれている。
「取るの?」
「いや。」
「お願いするのじゃ。」
「お願い?」
「頭を下げよ。」
俺は黙って一礼する。こんこんも隣で、小さく頭を下げた。
「失礼する。少し借りるぞ。」
コメント欄。
――ちゃんと礼するの好き
――ふざけてるようで礼儀正しいの草
――※これはホラーゲームですw
鈴がふわりとほどけ、俺の手のひらへ落ちてきた。
《白狐の鈴を手に入れた》
最後に訪れたのは、崩れかけた社。
床下に古びた護符が挟まっている。
「それも。借りる。」
《古びたお守りを手に入れた》
「これで全部?」
「うむ。」
こんこんが頷く。
「準備はできた。」
その時だった。
ゴゴゴゴ……地面が揺れる。森の奥。神木の方から、黒い霧がゆっくりと流れ始める。
「来たの。」
こんこんが静かに呟いた。
俺はごくりと唾を飲む。そして──その中心から、ゆっくりと巨大な影が現れた。白い面。黒い着物。異様に長い腕。地面を這うように近付いてくる。
《百鬼夜行 主》
《????》
コメント欄がざわつく。
――うわぁ……
――ラスボス!?
――怖ぇ……
俺も息を呑む。
「こいつがボスか……!」
しかし。イヤホンから聞こえてきた声は、あまりにも場違いだった。
「おお。酒呑童子ではないか。相変わらずの見た目じゃの。」
「…………え?」
「おぬしがゲームのボスとは。まぁ昔から鬼ごっこが好きじゃったから、適任じゃな。」
「適任て何!?懐かしがってる場合じゃないだろ!?」
その瞬間、ボスが咆哮を上げた。ギィィィィィッ!!
《CHASEチェイスSTARTスタート》
「来たぁぁぁぁ!!」
主人公は全力で走り出す。コメント欄も絶叫。
――逃げろ!!
――チェイスきた!!
――ホラー始まったwww
「そう焦るな。」
こんこんは妙に落ち着いていた。
「早く走れば走るほど、奴も速度を上げる。逃げ切るのは至難の業じゃ。」
「じゃあどうすんだよぉぉぉ!!」
「裏に古びた鳥居がある。そこへ向かうのじゃ。」
「鳥居ぃ!?」
ホラーゲームといえば、来た道を全力で逃げる。それが定番じゃないの?!なのに、行ったこともない奥へ進め?(絶対罠じゃん!!)そう思った、その時だった。
こんこんのキャラクターは、迷いなく森の奥へ走り出していた。
「ちょっ!」
「待って待って待って!」
「そっち行くの!?」
後ろではボスがものすごい勢いで迫ってくる。
「ねぇぇぇぇ!!」
「めちゃくちゃ追ってきてるんだけど!?!?」
「追われなくなるとは言っとらんじゃろ。」
「安心させろよ!!」
こんこんの行動と発言全てが、見ているみんなの爆笑を生み出していく。
――wwwwwwww
――温度差www
――こんこんつえぇww
鳥居を抜けるとその先には、小さな社。そして、一人の老人が箒を持って境内を掃いていた。
「宮司?」
「うむ。話しかけよ。」
老人は静かに振り返る。
『おや。こんな夜更けに、珍しいお客さんですね。』
背後から、ズンッ、と重い足音。ボスはもう目前だった。
「終わる終わる終わる!!早く!!」
こんこんが言う。
「今まで集めた物を全部渡せ。」
「全部!?」
「全部じゃ。」
「河童の水鏡も!?」
「うむ。」
「煙管も!?」
「うむ。」
「狐の鈴も!?」
「全部。」
「いやいやいや!!」
「これボス戦アイテムだろ!?」
「全部なくなっちゃうじゃん!!」
コメント欄も騒然。
――やめろw
――絶対罠
――全ロス!?
「信じよ。」
こんこんが、静かに言った。
「神様から借りた物は、神様へ返すものじゃ。」
俺は息を呑む。後ろではボスが、もう腕を伸ばいていた。
(くそっ!!)
「信じる!!」
俺はアイテムを一つずつ宮司へ渡した。河童の水鏡。ぬらりひょんの煙管。白狐の鈴。古びたお守り。老人は黙って受け取る。最後に、小さく頷いた。
『確かに、お預かりいたします。』
カラン――。鈴の音が、夜の神社へ静かに響いた。
その瞬間、ボスがぴたりと止まる。ゆっくり、ゆっくりと頭を下げると、霧の中へ静かに消えていった。
辺りは、しん、と静まり返る。
「…………。終わった?終わったの?」
こんこんが小さく笑う。
「うむ。無事、里へ帰ったようじゃ。」
《TRUE END》
《神送り》
《クリアタイム 00:38:17》
《WORLD RECORD》
《ランキング更新》
1位 カナト&こんこん300歳
画面いっぱいに金色の文字が躍る。
「…………。え。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
思わず椅子から立ち上がった。
コメント欄も、一瞬で祝福の嵐に変わる。
――世界一!!!
――公式実況者きた!!
――おめでとう!!!
――伝説回じゃん!!!
――神回!!!!!
「やったぁぁぁぁぁぁっ!!」
気付けば、俺は立ち上がっていた。登録者数が、リアルタイムで増えていく。348。560。786。999。
「えっ。めっちゃ増えてる!すご……。」
嬉しさで、思わず笑ってしまう。
「こんこん!本当にありがとう!君がいなかったら絶対無理だった!」
少しだけ沈黙が流れた。そして、イヤホン越しに小さく笑う声が聞こえた。
「うむ。」
「久しぶりに鬼ごっこもできたしの。」
「楽しかったぞ。」
「また遊ぶか?」
「もちろん!」
俺は即答した。
「次のゲームも一緒にやろう!」
「うむ。」
「縁があれば、また会おう。」
その言葉を最後に、通話は、ぷつりと切れた。
「あれ?」
Discordを見る。こんこん300歳
《オフライン》
「早っ。」
俺は苦笑しながら配信を締めた。
「というわけで!今日はここまで!また次の配信で会いましょう!」
次の日。
俺は公式実況者としてゲーム会社へ招待され、スタッフルームに通された。
開発スタッフたちと雑談していると、一人の男性が笑いながら言った。
「いやぁ、驚きました。まさか初日で真エンディングに到達する人がいるなんて。」
「運が良かったですよ。」
俺が笑うと、スタッフは首を横に振る。
「運じゃありませんよ。
普通なら、あそこには最初からたどり着けません。
あのラスボス…本来はアイテムを使いながら逃げ切る想定なんです。
宮司に全部奉納するルートなんて、
普通は思いつきません。あれは隠しルートです。」
「……?どいいう意味ですか?」
「実はあの隠しイベント。」
スタッフは少し照れ臭そうに笑った。
「ゲーム用に作った話じゃないんです。
取材した神社の宮司さんから聞いた話を、
そのまま使わせてもらったんですよ。
素敵なお話だったので。」
俺は固まった。
「え……?」
「しかも。」
スタッフは笑う。
「ゲーム中の妖怪の性格も、
できるだけ実際の伝承に近付けました。
ぬらりひょんは礼儀正しいとか。
河童は浅漬けが好物だとか。
ボスは鬼ごっこ好きだったとか。」
……。心臓が、一度だけ大きく鳴った。
「そこまで全部。
宮司さんから教わった話なんですよ。
まさか神社の関係者じゃないですよね?笑
初見で全部当てたので、正直びっくりしました。」
笑いながら言われたその言葉に、俺は笑い返せなかった。
(そんな、まさか。)
帰宅して。何となくDiscordを開く。フレンド一覧。こんこん300歳。検索。
「……あれ?」
出てこない。
履歴にもいない。
通話ログも。
チャットも。
フレンド申請の記録さえ、きれいに消えていた。
昨日まで、確かにいた。
一緒に笑って。
一緒にゲームをして。
世界一になった。
それなのに。
その痕跡だけが、何一つ残っていない。
その夜。布団に入りながら、ぼんやり天井を見つめる。
(……本当に。妖怪、だったのか?)
そう思った、その時。スマホがなった、ゲーム会社からだ。
「すみません、1点伝え忘れがありまして。
今日お渡しした契約書、月末までに提出していただけますか?」
「あ…はい、大丈夫です。」
「あの、すみません。1個…いいですか?」
「どうしました?」
「あの題材になった神社って会社から近いんですよね?」
「ええ、歩いて五分くらいですよ。」
「…どうしました?」
「あ、いや。せっかく1位にもなれたんで。挨拶に行こうかなと思いまして」
「はは、それはいいですね、神様も、宮司さんも喜びますよ。」
次の日。
俺は教えてもらった神社までやってきた。
ゲーム会社の人が話す通り、本当に会社のすぐ近くにあった。
見た目も、ゲームそのままだ。違いがあるとすれば…ゲームで見たときは不気味だったが不思議と穏やかで、心地の良い空気が溢れている。
そんなことを思いながら、鳥居をくぐる。
「そうだ、鳥居は門…だったよな」
昨日のゲームを思い出しながら、なんとなく端をあるいてしまう自分がいる。
境内は静かだった。
そして。
入口を見るとそこには…左右に一対の白い狐の像。
その片方の首元には、小さな鈴が結ばれている。どこかで見た気がした。
(……あ。)
ゲームで返した、あの鈴によく似ていた。
社務所から宮司が出てくる。
「こんにちは。」
主人公は頭を下げる。
「ゲームの取材って、この神社だったんですよね?」
「ええ。」
宮司はにこりと笑う。
「狐さんに助けてもらえましたか?」
「え?」
主人公は思わず聞き返す。
「……狐?」
「ああ、失礼。」
宮司は少し首を傾げる。
「時々いるんですよ。
頑張っている人を見ると、放っておけない子が。
昔から、この神社の使いは世話焼きでしてね。
もちろん。会える人は、ほとんどいませんけど。」
そう言いながら宮司は笑った。
風が吹く。
カラン……と、鈴が鳴る。
主人公は振り返る。
さっきまで誰もいなかった鳥居の上に、白い尻尾がひとつだけ見えた気がした。
「……。」
目をこする。
もう誰もいない。
ただ。風に乗って。
どこからか、小さな笑い声だけが聞こえた。
「また遊ぶかの。」
主人公は思わず笑う。
「ああ。」
「今度は俺だって負けないからな。」
白い狐の像は、変わらず静かにほほ笑んでいた。
完
読んでくださりありがとうございます。
今回の作品はおもちぷが書いています。
たぬたぬと2人で作っている、妖怪が出てくる和風ファンタジーの長編連載もしています。『癒しスキルの俺に、あやかしたちが集まりすぎる。〜もふもふ龍神さまと始める、あやかし旅スローライフ〜』よろしくお願いします




