鋼鉄(マッスル)の楽園より愛をこめて
数年後、ギルベルト公爵領は、近隣諸国から「鋼鉄の楽園」あるいは「豊穣の筋肉領」と呼ばれ、畏怖と羨望の対象となっていました。
かつて冷徹だった公爵邸の門をくぐれば、そこには驚愕の光景が広がっています。
領民たちは、エルゼが普及させた「プロポテ」を主食にしたことで、老若男女問わず驚異的なバイタリティを手に入れていました。
市場では、重さ100kgを超える巨大カボチャ(プロテイン入り)を片手で運ぶおばあちゃんや、荷馬車が泥にハマれば馬を気遣って自ら車体を持ち上げる商人の姿が日常茶飯事です。
「さあさあ、とれたてのプロポテだよ! これを食べれば、明日の開墾も軽々だ!」
活気に満ちた領民たちの笑顔は、かつての貧困や閉塞感を微塵も感じさせません。
領地の一等地には、巨大な「国立筋肉農学研究所」が設立され、エルゼが名誉所長を務めていました。
彼女は今や、ドレスの代わりに機能美を追求した作業服を身に纏い、日々新種の「マッスル・ベジタブル」の開発に勤しんでいます。
「エルゼ、あまり根を詰めすぎないでくれ。君に何かあったら、私はこの国を沈めかねん」
そこへ現れるのは、今や「溺愛公」として名高いギルベルトです。
彼の執務服は、もはや特注のさらに特注。歩くたびに、鍛え抜かれた肉体が放つ威圧感……ではなく、「愛する妻を守るための包容力」が溢れ出しています。
「まあ閣下、大げさですよ。ほら、見てください! ついに『腹筋のように割れるトマト』が完成したんです!」
「……素晴らしい。だが、それよりも今は私を見てくれないか。君のために、『マックス直伝・最新スクワット』を1000回こなしてきたところだ。パンプアップ具合はどうだろうか」
「素敵ですわ、閣下! やっぱり閣下の大腿四頭筋は世界一です!」
エルゼが瞳を輝かせてギルベルトの腕にしがみつくと、公爵はとろけるような甘い微笑みを浮かべ、彼女の額に優しくキスを落とします。かつて「君を愛するつもりはない」と言い放った冷血漢の面影は、プロテインの気泡と共に消え去っていました。
そこへ、一通の手紙が届きました。
差出人は、今や国境警備隊の名誉最高顧問となったマックス。
『親愛なるエルゼ、そして筋肉公爵殿。
そちらのプロポテのおかげで、我が隊の兵士は全員、鎧を着なくても矢を跳ね返せるようになった。
近々、休暇を取ってそっちへ行く。
今度は「デッドリフト収穫祭」で勝負だ。負けた方が、次の冬の種芋植えを全裸……いや、正装で手伝うってのはどうだ?』
手紙を読み上げたギルベルトは、鼻で笑いながらも、その瞳には好戦的な色が宿っていました。
「……ふん、猪野郎め。返事を書いてくれないか、エルゼ。『挑戦は受ける。ちなみに優勝賞品は、私の愛する妻の手作りプロテインケーキだ』とな」
「はい、閣下! 腕が鳴りますね!」
◆
エメラルドのように輝く広大なジャガイモ畑を見下ろしながら、二人は仲睦まじく寄り添っていました。
かつて冷え切っていた契約結婚は、筋肉と土、そしてプロテインという名のスパイスによって、国中を熱狂させるほどの熱い愛へと昇華したのです。
今日も公爵領には、農具を振るう力強い掛け声と幸せそうな夫婦の笑い声が、筋肉の鼓動と共に響き渡っているのでした。
めでたしめでたし。
末長く……ナイスバルク!!!




