救援要請
「分かった出陣しよう、しかし七日後だ、一万の兵で出陣する」
「七日後?それではニコシアは陥落してしまいます」
「分かっている!だがどうしろと言うんだ!!今出陣するにしても兵力は四千もいないじゃないか!
ここは兵の集結を待って征くのが合理的だ!」
「合理的…貴方様は二千の兵を見殺しにする事を合理的と言うのですか?」
「…その通りだ」
そう言うとアデマールは奥歯を噛みしめ少しの沈黙の後、冷ややかに言った。
「分かりました…私はこれで失礼します…」
アデマールがその場を去ると俺はたまらず逃げる様に自分の部屋に帰った。
部屋に入るとそこは出陣前と全く変わってなかった、たが最早この部屋以外に出陣前と同じ所はどこにもないだろう。
俺はベッドに倒れ込んだ、服はここ数日間変えておらず汚れていたが、もうそんな事気にする気力は無かった。
そうして俺は落ちてくる重いまぶたに逆らうこと無く眠りに入った。
翌日俺はファケマルの家に向かっていた、六日後の出陣のこともあるが何よりも先の戦の怪我が心配だった。
「だが、こうも静かだと慣れないな…」
城下は昨日の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
まぁそれもそうだろう騒ぐ人間がいないんだから…今頃近くの港に押し寄せているだろう。
と歩いていると向かいから女性が歩いてきた。
しかしよく見てみると平民らしならぬ上等そうな羽織、豪華な装飾が施された煙管、どれをとってもこの場には似つかわしくない。
だがあの煙管どこかで見覚えが…
「あっ!」
母さんだった、いつも通り煙を吹かしている。
「あぁ、ギーこんなところで奇遇ですわね。貴方もファケマルに用が?」
「えぇ…そうです。母さんはファケマルに何を…」
「なんでもいいでしょう…軽い労いを言いに行っただけです」
そう言い終わると母さんは俺の横を通り過ぎた。
「母さんは…俺を責めないんですか?」
すると母さんはピタリと足を止めたが、振り返りはしなかった。
「わたくしが貴方に何を責めるのです?
先の戦は総大将のあの人が悪いのです。
それに貴方を責めてもあの人は帰ってきません、もし帰ってくるのならわたくしは何でもしましょう、しかし。
そんな事はありえないのです」
そう言い終わると母さんは再び歩み始めた。
話している途中の母さんの顔は見えなかったが、途中から声がかすれていったが分かった。
そうして俺がファケマルの家に行くとそこにはアンリと先日口論をしたアデマールもいた。