敗戦
「ファケマル…無事か?」
「おう、だが今回ばかしはちょいと疲れた…」
だがファケマルの体は殿の過酷さを物語っていた。
ファケマルがいつも大事にしている斧槍は刃が欠けており鎧もおびただしい数の刀傷が残っていた。
「なぁ坊アデマールの奴は無事か?」
「あぁ大丈夫、無事だ、アデマールには防衛準備を整えるために先に城へ向かわせた」
「そうか…無事か、よかった…」
それから二人とも城に着くまで口を閉ざした、しゃべる気力などとうに残ってなかった。
俺たちが城についた時、その様子は出陣前とは大きく異なっていた。
ボーダン様が負けたらしいぞ!!
異教徒が攻めてくる!早く逃げよう!
普段は聖地として巡礼者や行商人で賑わっていた城下はパニックに呑まれていた。
普段は笑顔で満ちている大通も今は全員恐怖の表情を浮かべながら家財道具を担ぎ逃げ惑っていた。
そして城門まで行き着くとそこにはアデマールとクレイが待っていた。
「ギー様既に軍管区全土に召集令をかけました、一週間後には二万以上集まるでしょう…
しかし今回の敗戦とボーダン様の死亡により怖気づいて本土に帰る将兵も多く、結局集まる数は一万に届くが届くがどうか…」
「そうか…ご苦労」
ふと目を上げるとそこには目に涙をためたクレイが立っていた。
「なんで…なんでアンタが付いていながら父さんを死なせたの…
アンタがもっと頑張れば父さんは死なずに済んだんじゃ無かったの!
アンタのせいよ!!アンタが父さんを死なせたの!
全部アンタが悪いのよ!!」
その通りだ、あの戦場についた時、父さんと別れる前、その何処かで相手の罠に気づいていれば、父さんも三千の兵士も死なずに済んだ…
「なんか、言いなさいよ……」
「ごめん…」
「そんな言葉で、その一言でどうにかなると…父さんの死が…許されると…」
そこまで言ったあとクレイは膝から崩れ落ちた。
「アァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」
その叫び声が止んだあとクレイからは嗚咽しか聞こえなくなった。
だが敵はそれ以上悲しむ時間はくれなかった。
「伝令!!ニコシアの支城からの伝令です。
ニコシアに敵軍八千が襲来、今はまだ守れていますがこのままでは落城も時間の問題です、直ちに援軍を!」
ニコシアはここから三十キロ程の離れた支城だ、防衛兵力も二千程しかおらず俺たちが何もしなければ遠からず落城の運命を辿るだろう。
「ギー様援軍を出すべきです、このままニコシアを奪われれば敵は一回の攻勢で聖地を落とせる様になってしまいます。
相手に足掛かりを与えないためにも出陣を!」