両親
「バカ言うんじゃねぇ! お前が大好きな『合理的』で考えるなら、場数の少ないお前がやった方がいいだろ!」
「ハッ! ファケマル、君から『合理』なんて言葉が出るとはな! 私は場数が少ないからこそ、クレイ様の相手は無理だ。
私は君ほど武辺に優れた者は知らない、今の状況はそんな君にうってつけだろう。
まぁもっとも君ほどの猪者も知らないがね」
「てめ、喧嘩売って…!」
「事実を言っただけだ、そう怒ることはないだろう?」
また始まった…。この二人、五分も一緒だと絶対こうなる!
でも、この騒ぎ…姉貴を引きつけるには最高だ! 俺の狙い通り、二人を囮に出来る。
さぁ善は急げだ!!
「じゃあな、二人とも!」
「お、坊!?」
「ギー様!?」
「ふぅ、尊い犠牲はあったが無事にたどり着いた…
じゃ、入るか……って…」
その扉を押し開けると中は煙管の煙で霧がかかったようだった。
たがその原因は分かりきっていた。
「おう、ギー来たか!」
「あら?もう来たのですか?」
部屋の真ん中にある椅子に深々と腰かけるはこの軍管区の長であり俺の父親ボーダン。
そしてその横に居て今も煙管を吹かしているのは母親のティラナだ。
「母さんここに居るなんて珍しいね、今日は農場は大丈夫なのですか?」
「いえ、今日はこの人と少しお喋りがしたくなっただけ、用が済んだらすぐに戻ります。
それにしても大丈夫かですって?そんな訳無いでしょう?
あなた方軍人が金を湯水の如く使うせいで常に金が足りないのに…だからこのあたくしが農場で煙草やら芥子やらを作ってやってるのに。
クレイに頭を打たれすぎですよ?」
確かに自前の農場で莫大な富を生み出しており、そしてその金でこの軍管区は回っている。
「ティラナ落ち着け、今日ギーを呼んだのはそんな事を言うためじゃない」
「まぁ貴方にも言ってるんですよ?
そもそも貴方が……」
こうなると母さんの小言は暫く止まらない…
「分かりましたね!もうこれ以上余計な出費を増やさないでください!」
「はい…」
母さんの小言が終わった頃にはすっかり父さんは萎み今にも立ち消えそうになっていた。
しかしこっちに向き直った時には顔つきがガラリと変わりすっかり別人になった。
「さぁギー、戦の話を始めようか」
その顔は聖地軍管区長のボーダンだった。
「で今回の戦だが…相手の規模は最近と同じだと考えると恐らくは二千前後だろう、まぁ大した数ではないが少ない数では無い。
この規模感で騎行されたら国土はかなり疲弊してしまう。
という訳だ今回もいつも通り五千程の兵数で出陣する。既に陣触れは出してある。
出立は5日後だ!ファケマルやアデマールに伝えておいてくれ」
「はい!」