呼び出し
「あっ、そうだ! 坊、大将が探してた。
ファケマルが急に思い出したように言った。
「父さんが? 何の用?」
まぁ、だいたい想像はつくけど…。
「さぁ? 行けばわかるんじゃね?」
「おい、ファケマル…」
アデマールが呆れたように額に手を当て、ため息をついた。
「ギー様が聞きたいのはそういうことじゃない。それと、何度も言ってるだろ、ギー様は上役だ。
だからから『坊』呼びはやめろ」
ファケマルはとても面倒くさそうだ、元から丁寧な物言いなんて気にした事無かったのだろう。
「わーったよ。じゃあ、えっと…ギー様、たぶん、いつもの国境の小競り合いっすよ。」
「いつも通りでいいって…」
俺が苦笑すると、隣のアデマールが呆れと諦めが入り混じった顔でこっちを見ていた。
それにしても最近、国境の小競り合いがまた増えてきたな…。
この聖地、二十年くらい前に俺たちの国が異教徒から奪った土地だ。向こうにとっても大事な場所らしくて、いつも取り戻そうとウズウズしてるらしい。
「じゃ、行くか…。早く父さんのとこ行こう」
そう思った瞬間、聞き慣れた声が響いた。
「ギー! ここらへんにいるのバレてるよ! さっさと出てきな!」
姉さん!? なんでここがバレたんだ!? 誰か密告したのか? …いや、…そんなこと考えてる場合じゃねえ!
とにかく逃げなきゃ。
…って、待てよ…よく考えりゃ目の前に使える部下が二人いるじゃん。
「なぁ、二人ともさ…ちょっと姉貴と訓練してくんね? そろそろ出陣らしいし、肩慣らしにちょうどいいだろ?」
「は? なんでお嬢とやらなきゃなんねんだ? 他の奴でいいだろ!」
ファケマルが不満そうに顔をしかめる。そりゃ、クレイの相手なんて誰もやりたくねえよな。
だが、アデマールはニヤリと笑った。
「ファケマル、お前のその鈍さが時々羨ましいよ。」
「あ? 何だよそれ?」
「ギー様は我々に囮になれと言ってるんだ。」
いっいや、確かにその通りなんだけどさ…。
「お、囮だなんて! 人聞きが悪いよ、俺はただ…」
「いや、ギー様を責めてるわけじゃない。むしろ合理的だ。ギー様は早く御館様のとこに行きたい。俺たちは出陣前に体を慣らす必要がある。Win-Winだろ? な、だからファケマル、ここは君に任せた!」
「は!?」