襲撃
「しかし、敵勢はこちらが応戦する動きを見せるとすぐに撤退した模様です。
しかも白兵戦は仕掛けて来ず、ただひたすら矢を射掛けてきたのみです」
そこから敵は度々小勢で襲撃をして来た、それは前衛後衛関係なかった。
また暫くするとどころかともなく矢が飛んできたが、ファケマルは小手のみでそれを払い落とした。
「ああ!!しゃらくせぇ!
なんだよ全く!矢ばっかし飛ばしてきやがって、やるなら自分の肉体で来いってんだ!
なぁ坊、次奴らが来たら突っ込んでいいか?頭に来て仕方ねぇ!!」
これは大分苛々しているな、顔に青筋を浮かべ今にも突撃しそうな勢いだ。
「まぁ落ち着け、そんなんでは敵の思う壺だぞ?
そもそもお前が突っ込んだって相手は軽装騎兵だ、軽くいなされておしまいだ」
「でもよぉ、だからってよぉ、この怒りは中々抑えられねぇよ…」
ついにコイツ駄々をこね始めやがった、子供だったらまだ微笑ましいが、三十近い男がやるとただ見苦しいだけだ。
「わかったよ…もうすぐで予定の水場に着く、そこで野営陣張ったら適当な奴らを連れて暴れてこい」
それを聞いたファケマルの顔はパッと一瞬にして晴れた。
「本当か!やったぜ!それじゃさっさと水場まで行こうぜ!」
すると前方からアデマールが向かってきた。
「ギー様!駄目です、水場は使えません…
敵があらかじめ我々が使えないように動物の死骸を投げ込んでいました」
やられた、この辺りで水場はここだけ、他の水源はニコシア城内にしかない。
「なぁ坊、たかが動物の死骸ごときでどうしたんだよ、気にせず飲もうぜ?」
「絶対にダメだ!もしそれで軍内で疫病でも流行ったら目も当てられん。
しかも敵が毒を入れている可能性もある。
アデマール、他の兵にも厳命しろ水場には手を出すなと」
「はっ!」
まずい…この速度で行軍していたらニコシアに着く頃には手持ちの水だけでは、皆渇いてしまう。
だが敵軍がここまで我々を邪魔するんだったら、ニコシアがまだ持ち堪えている可能性が高い…ならば。
「ファケマル、悪いが野営後の人暴れは延期だ。
俺たちは野営せずに強行軍でニコシアまで打通する、そしてニコシアを攻めている敵軍を撃破する!!」
「わかった!周りの小勢を蹴散らすより、敵本軍を叩くほうが面白いからな!」
それから俺たちはとにかく速度を最優先にニコシアが落城していた場合に使うはずだった、攻城兵器の資材も捨て置いてなりふり構わずに行軍した。
その日の夕暮れにはニコシアに到着した。
しかしニコシアには敵軍の旗と多くの松明の光が光っていた。
ニコシアは陥落した。