ニコシアへ
行軍を開始して数時間が経過した頃自軍の足音が響く中ファケマルが信じられない発言をした。
「なぁ今どこに向かってんだ?」
「「……は?」」
その瞬間俺とアデマールはその言葉が理解できなかった。
いや理解はできたが頭が受け入れなかった。
「いや、よくよく考えたら目的地も言われてねぇし、行軍日数も言われてなかったなぁと思ったから、聞いたんだが、なんかまずかったか?」
その時ようやくフリーズから回復したアデマールが対応をした。
「確かに君は出立の前日まで療養していて軍議にもいなかったが、その代わり作戦概要をまとめた物を渡したはずだが…」
「ぇ?…ん?…あぁ〜あれか!
確かに貰った、あのたくさん文字が書かれた紙の束」
「ああ、それだ、その中に今回の作戦全てが載っていたはずだ…」
それを聞いたファケマルはあたかもアデマールが冗談を言っているような反応だった。
「ハハッ!アデマール、冗談ならもっと面白い事を言えよ!
お前なら知っているだろ?俺が三行以上の文字は読めない事」
「ッツ!」
それを聞いたアデマール目をつぶり天を仰ぎ、頭痛を抑える様に額に手を当てた。
「忘れていた……
ギー様、これは私のミスです、ファケマルを普通の人間だという前提で動いてしまいました…」
「いや、別にこれはお前のミスでは…」
絶対に悪いのはファケマルだ、普通相手が三行以上読めるかなんて気にしない。
だがアデマールはだいぶ意気消沈した様子だった。
「それでは私は前衛部隊の指揮に行ってまいります…」
俺とファケマルはその後ろ姿をただ見送るしか無かった。
「なぁ坊、これって俺が悪いのか?」
「お前が悪い」
「んじゃ、軽く今回の作戦概要を伝えると…
今回の第一目標はニコシアの維持だ、ニコシアの救援ではない、最後ニコシアに我々の旗が響いていれば途中ニコシアが落城したとしても構わない。
そして今回の行軍だが2日でニコシアに着くようにする。
三十キロを一気に行軍のは損耗が激しい。
して今回、進軍経路が乾燥地のため途中水場で野営などをし出来るだけ消耗を抑える。
まぁざっくり言うとこんな感じだな」
そうして改めてファケマルの方を見ると頭から湯気が出ている、ように見えた。
「んん…つまり、だな坊…前にいる敵を倒せばいいんだよな?」
「あぁそんなんでいい…」
だがその時後方から伝令が飛んできた。
「伝令!後衛部隊に敵軽装騎兵が襲撃をかけて来ました!」