宴席
〈春雨も空氣あたゝかスウェター脱ぐ 涙次〉
【ⅰ】
警視庁「魔界壊滅プロジェクト」のヘッドクオーター役を一人で引き受けてゐる、仲本尭佳からお呼びがかゝり、カンテラはだゝつ廣い會議室に通された。
「あんたには面倒をかけるが、一味のメンバー及び協力者の名簿を作成したい。勿論、部外には極秘として置く」と仲本。
「極秘つての守つてくれるだらうな？」「一味か協力者がイリーガルな事をしでかしても、目こぼしゝなければならない。その為にも必要な書類だ」（仲本氏は、カンテラに、猫地獄から救ひ上げて貰つた恩義を感じてゐるので、これでも愛想を振り撒いてゐるつもりなのだ。）
「よからう」-「まづ、俺とじろさんの事はあんた良く知つてるよな？」-「あゝ、省略してもいゝ」-「加へて、猫のテオ、ＩＱ200の天才だ。ご存知の通り、人氣作家・谷澤景六としての顔も持つ」‐「それから、秘書の神田悦美。じろさんの娘で、俺の妻だ」‐「杵塚春多。一味の映像記録係。知つてるか？ 輕量バイクマニアで後家（？）殺し」‐「金尾重悟。金銭出納役。夜になると、東歐ユダヤ傳承の巨人、ゴーレムに變身する」‐「牧野旧崇。元ヤクザのヒットマンだ。體内に『龍』を飼つてゐる。その『龍』の精が謝遷姫」‐「それにロボット二體」-「プラス『シュー・シャイン』、使ひ魔のごきぶり」-「以上一味だ」‐「次に協力者。安保宙輔。下町の某精密機器部品工場の重役。一味のメカニック」‐「そして怪盗もぐら國王と、その助手の枝垂哲平。まあ云へるのはこゝ迄だな」
「多士濟々、つて云ふか、魑魅魍魎の世界だな。ごきぶり迄ゐるとは！」‐「【魔】と對抗するには、だうしてもさうなる」‐「分かつた。ご苦勞さん。親睦を圖る為の宴席を用意してゐる。お疲れのところ惡いが、このメンバー全員呼んでくれ」
【ⅱ】
都内某料亭。じろさんは澄江さんを、國王は朱那を連れてゐる。旨い肴に髙い酒。だが、皆てんで好きにやつてゐる。カンテラはアルコホル75％の火酒しか呑まぬし、金尾は下戸で、然も聖別された食べ物しか受け付けないので、箸も付けない。テオはまたゝび酒で酔ひ潰れてゐる。猫... ロボット... 仲居さんが澁い顔をしてゐる。「シュー・シャイン」は何処か隠れた處にゐる。牧野は板前さんに料理のレシピを訊いて、メモを取つてゐる。安保さんは一人勝手氣まゝに盛り蕎麦をオーダーしてゐる...
枝垂は「脱ぎ上戸」だつた。酔ふと裸踊りをする。皆が「もつと脱げ」と囃し立てた。それを杵塚が冷靜にキャメラで追ふ。國王が間違へて、カンテラ用の火酒に手を付けてしまひ、ひつくり返つたetc. etc.
【ⅱ】
帰りの道々、枝垂と朱那では、ぐでんぐでんの國王（何せ巨體である）を連れて行けない。と、カンテラ、「よつと」と輕々抱へ上げて運ぶ。朱「わあ、カンテラさん力持ちなのねー。逞しいもんね」悦「昔はもつとマッチョだつたのよ」じ「よく時代小説なんかに、痩身の勞咳持ちの剣士が出てくるが、あれはフィクションだな。大刀を振り回すにはそれなりの筋力が必要なんだ」朱「昔、マッチョつて？」カ「あれは鰐革男との闘ひの最中、俺は結界を張つて、奴に對抗したんだが...」悦「わたしがそのテリトリーに入つちやつて、おじやん」カ「で、俺は奥の手を使つた。発条つて云ふ『修法』を使つたんだ。これがホントの奥の手でさ。俺の躰のパーツを旋風で飛ばして、奴の目と云ひ鼻と云ひ耳と云ひ口と云ひ、全部塞いでやつたんだ」朱「それで？」カ「俺は勝つた」金「危険な大技ですね」カ「さう。俺の躰は元の半分ぐらゐになつちやつて、病院で療養、半年間さ。それ以降、今の躰になつた譯」安「あのときやだうなるかと思つたよ」
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〈酒ならば思ひ出に佳き酒にせよだうせ語るは昔の話 平手みき〉
【ⅳ】
金「今それは出來ないつて事ですね？」カン「さう。今度やつたら、俺の命は、ない」金「そんな強い奴と事を構へてる、とは知らなかつた」じ「今、云つてみれば管理職だからな、鰐革は」
事務所に着いた。國王をどさり、と玄関に下ろし、君繪と留守番してゐた由香梨にお土産の折詰めを渡す。由「わあみんなお酒の臭いぷんぷんしてるー」杵「大人の付き合ひなんだから、我慢しなさいよ」
「國王、國王、起きて。水ぶつかけるわよ、もう」と朱那。「ホントだうも濟みません」悦「あらいゝのよ。うちは廣いから、どこかに床を延べませう」
【ⅴ】
翌朝- 國王の隣りで寢てゐた朱那、珈琲の匂ひに目醒めた。あら、いゝ香り。それに比して、國王の酒臭い事。そしてそのだらしない寢姿。「百年の戀も冷めるつてかう云ふ事ね」
そしてテオの聲。「皆さん、酒宴の翌朝になんですが、プロジェクトから仕事の依頼が！！」そんなカンテラ一味。
今回はインタールード兼カンテラの快氣祝ひ。疲れもだうにか峠を越した模様です。鰐革との決戦については、ご参考までに、と云つたところ。昔も今も、カンテラを脅かす、と云へば鰐革。そんなエピソオドでした。ぢやまた。
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〈午睡からふと抜け出知る夏隣 涙次〉
