作品番号1:創造神
俺は今グラニー美術館の警備員の研修中だ。
この美術館は、美魔女のグラニーが経営している。言っておくが、美魔女というのは比喩じゃあない。彼女は本物の「魔女」だ。魔法使い。館内に展示されている作品も何らかの特性があるようだ。
で、今俺は一階の警備責任者のカイジュっていう初老の男に説明を受けている。中々陽気な男だ。「さあて!まずは作品番号1から見て行こうかな!」そう言いながらカイジュは広い部屋に入る。
その部屋の中には、奇妙な物品が多く並べられていた。蛇口の付いた花瓶、貝殻が組み合わさって出来た帽子、炎を発するポット、植物で構成された肖像画などが壁沿いに展示されている。
そしてそれらの中央には巨大な彫刻作品があった。大理石を磨いて作られたような作品で、人間の頭部を模した彫刻が二つ互いに反対側を向いた状態で大きな丸い台座の上に乗っている。
「この部屋、面白いぞ!まず壁沿いのこいつら!こいつらはこの真ん中の『創造神』から生み出されたものさ。」「生み出された?」「ああ。『創造神』はオカルト研究者で彫刻家でもあったガードベッジの屋敷から回収されたものさ。彼はこれを使って作品を作ったんだな。その作品たちをここに展示してある。」「なるほど・・・でも彫刻作品で無いものが沢山ありますが・・・」「ああ。まあ異常性のない彫刻作品は回収しなかったからな。異常性のない彫刻作品で面白いものは沢山あったらしいけどなぁ。異常性のある彫刻作品は『創造神』だけだよ。」「異常性・・・ですか・・・」
そういえばグラニーがなんか言ってたな。ここの美術館に展示されている作品は異常性を持っていると・・・
「そう。こいつはな、概念を混ぜ合わせちまうのさ。」「概念を混ぜ合わせる?」「そう。この彫刻、顔が二つ付いてるだろ?」「はい。」「で、口のところを見てみてくれ。」
口を見てみた。かなりリアルに彫られていて、人間の口みたいに奥行きがある。
「かなりリアルですね・・・」と俺がいうとカイジュは頷く。「そうそう。でさ、こっちの頭部の口に例えばネズミを入れたとするだろ?」「ネズミ・・・はい・・・」ネズミを口に・・・なんか嫌だな。「で、もう一つの頭部の口にはコーヒー豆引きを入れるとするだろ?」「はい・・・」「そうすると下の台座の穴から・・・」そう言いながらカイジュが台座を指さす。
確かに台座には大きな穴が付いている。
「・・・こいつが出てくるわけだ。」そう言ってカイジュは壁に埋め込まれたケースを指さす。その中にはコーヒー豆ひきが置いてあった。」「コーヒーまめひ・・・うわっ!」なんとその豆引きの下から灰色の小さな四本足が出てきてケース内を走り回る。
「実はこれ、研究局実験部の連中がこの彫刻作品の実験で生み出したものなんだけどさ・・・気持ち悪いよな。これはな、『ネズミ』って概念と『コーヒー豆引き』って概念が合わさって生まれた代物さ。」「概念が合わさるってそういうことですか・・・」「ああ。だからな、この作品は二つの物品を合体させることができるのさ。」「なるほど・・・」「さてと、ここまでは理解したようだな。じゃ、これを見てくれ。」そう言ってカイジュは一枚の紙を渡して来た。紙の上には「作品番号1 警備マニュアル」と書かれている。その下には複数の項目が以下のように続いていた。
・基本情報
作品番号:1
作品名:創造神
作品種別:彫刻品
研究:完了
・展示方法
特に特別な措置を講じる必要はないが、客が作品頭部の口に物を入れることが無いように作品の周りに境界線を設けること。
・作品点検
1.台座周辺に物品が落ちて無いか確認する。物品を発見した場合、直ちに警備部長ブラザールまで連絡の上物品を研究局鑑定部に引き渡すこと。
2.作品の破損がないか確認する。
・付属作品
異常性より生まれた付属作品が複数存在する。異常性が軽微またはほとんど無いもののみ展示してある。(異常性が大きな付属品に関しては研究局管理部が保管している)各々の付属作品の取り扱いについては、嘱託警備員マニュアルに記載してある。
「君のこの展示室での仕事は作品点検だ!破損と付属物がないか点検してくれよ。」「はい、ところでこういった作品はどうやって手に入れたんです?」「それはなあ・・・魔法使いの職員しか知っちゃいけねえ決まりになってる。」「そ、そうですか・・・随分厳格ですね。」「ああ。グラニー館長の命令でな。彼女は・・・いや、何でもない。」そのようにカイジュが言葉を濁した意味を俺は聞き逃さなかった。