第98話 大団円、じゃなかった!
第9章、最終章です。
ゲートへの帰還から1か月。
今、俺たちがどこに居るかというと、モンテニアル王国の城だったりする。
結局、星の危機に係わる顛末は全世界の王や首領の知るところになっていた。
人間と魔族との和解と併せ、その必要性と重要性が星の危機に直結していることを、ミトと魔王が全世界の国々に説いていたのだ。
それには龍族のマリューさんやシヴァの暗躍もあったそうだ。
もちろん、魔族との和解についてはまだ懐疑的な意見もあったが、和解し共存する方向はおおかた固まったと言えたそうだ。
あとは人間側、特に各国の権力者の判断にゆだねられている状態なのだそうだ。
何しろ、すでに民同士レベルでは和解し交流も進んでいるし、そもそも魔族側が人間に害する事は全くと言っていいくらいあり得ないからだ。
で、俺たちはここで何をしているかというと。
「では、この星を救った真の勇者の凱旋なのじゃ。華々しく国を、いや世界を挙げて祝おうではないか!」
という事らしい。
俺としては俺個人がそんな大それた者じゃないと思うし、あまり持ち上げられるのも苦手だ。
しかし、事実としてこの星エルデ、いや、地球の消滅を阻止したのは俺なワケなんだが、これがどうにも面はゆい。
「いやのぅ、タカヒロ殿の気持ちも理解はできるのじゃが、こういうのは形も大事でのぅ。」
「それはわかりますが、どうにも照れくさいというか、ガラじゃないと思うのですが……」
「わははは、何を言う。今後はそなたも上に立つ者としてこの地で生きてゆくのだ。こういう催事にも慣れておかねばならぬぞ?」
は?……俺が、人の上に立つ?
「うん?聞いておらぬのか?そなたはラディアンス王国の王になるのではなかったか?」
「いえいえいえ!そんなつもりもありませんし、そもそもラディアンスにはラークが!」
「兄上、すまんがそう言うと思って黙っていたのだが、この際だ。はっきり言わせてもらおう。我に代わって王になってくれ。」
「ラーク、お前、俺にそんな素質や資格がないのはわかっているだろう?」
「何を言うか兄上、そんなもの後から何とでもなるではないか。それに優秀な人々が兄上の周りには充分すぎるほどいるのだし。」
なんか、このままだとなし崩し的に王様に祀り上げられそうだ。
なので、ここはきっぱりと断ろう。
俺が王様なんてありえなさすぎる。
あっという間に国を崩壊させてしまう自信がある。させないけど。
「シムネ王、ラーク王、この件ははっきりと断ります。」
「なんと、王じゃぞ?」
「王だからこそ、です。民の幸せや安寧と豊かさ、平和を作り国を維持していく素養や資質は付け焼刃ではいけません。
そもそもの素質を持つ人間が王であるべきなのです。」
「兄上、それは我よりも兄上のほうが持っていると踏んだのだが。」
「ラーク王、それはあまりにも贔屓目すぎます。元々俺は一介の雇われ労働者でしかありません。
今回の事は確かに俺たちが解決はしましたが、それとて周囲の助けがあったからこそ、です。俺個人の力だけじゃありません。
それに何より、それとこれとは内容が全く別だと言えます。」
「兄上……」
「ふーむ、やはり、そなたはそんな御仁であったのう。と、いう訳で、じゃ。」
はい?
「ラークよ。」
「はい。コホン。兄上、いや、トモベタカヒロ様。我、ラディアンス王国国王として命ずる。貴方にはイワセ温泉郷の領主を任命する。」
「え゛?」
「わははは、そもそも、あの温泉郷の立案者はそなただそうじゃないか。であるなら、その地をこれからも発展維持していく責任があるな。」
「あー、それを言われると……」
「なに、兄上に対してはすでに全世界の国家が感謝と支援を申し出ている。これを断れば、その対応に苦慮したラディアンスとモンテニアル両国の信頼を失墜させることになるぞ?」
「それって、もう脅迫じゃないか……」
「まぁ、兄上としても安住の地は必要だろう。まして、兄上には養っていかなくてはならない者が、あんなにもいるのだからな。」
言われてみれば尤もな事だ。
このままプー太郎で過ごすわけにはいかない。
いつだったか、甲斐性がどうのこうのってカスミとも話したなぁ。
かといって、王様になんてなれやしないし、なったとしても国を治め導くなんてとてもじゃないができない。
ならば、自治区の監督者として、か。
この人達は、はじめっからそのつもりだったんだな。
やはり王の資質をもつ人間は話の持っていき方がうまいな。感服だ。
「はぁ、わかりました。拝命いたします。」
「ぃよし!上手くいった!」
「これ、ラーク、そういう事は聞こえないように言うもんじゃぞ。企てていたのがばれるであろう」
「あ、そうでした。すみません。」
前言撤回。こいつら、とんだ食わせ者だ。
という訳で、俺のイワセ温泉郷領主への就任も兼ねた凱旋祝賀会が催される事になった。
なったのだが……
「報告します!ここより南、ネリス公国との間に魔獣の群れが大量に出現したとの事です!」
「何だと?規模は?被害は?」
「はッ。規模はおよそ100体程、正確な数は把握できていません。被害については、現状襲われている村や町はありません。」
「襲撃はされておらぬと?うーむ、どういう事じゃ。」
「監視の報告では、一か所に留まりそこから動く気配はない、とのこと。さらに」
「さらに?」
「その魔獣は見たことがない姿で、以前にラディアンス付近で見られた2体の魔獣と似通っているそうです。」
それは、もしかしてアーマー、なのか。
いや、ありえない。
ジーマからこちらへ来るってのはまだしも、司令塔であるブルー亡き今アーマーは稼働しないはずだ。
いずれにしても、これは危機だ。
「シムネ王、ラーク王、これはおそらく、あちらの世界の兵器どもと思われます。」
「何じゃと?」
「あちらの世界の兵器?」
「ラーク、城が襲撃された時に、金属の獣がいただろう。あれはあちらの世界の殺戮兵器なんだよ。」
「そんなものが、なぜ今ここに……」
「わからない。けど、人間、あるいは魔族を含めた全ての者にとって脅威であることは間違いない。今は一刻を争う。俺が行って確かめてくる。」
「それは、危険すぎるのではないか、兄上。」
「100体程度ならどうとでもなる。問題は、なぜそいつらがそんな大量に発生しているか、だ。それを突き止めないとな。」
「うむ、すまぬが、お願いしてもよいか、タカヒロ殿。」
「お願いではなく、命令してください、シムネ王。もとより、独断でも行きます。」
「おお、では命ずる。お願いします!」
「いや、それ命令ではないのでは?」
ともかく、現地へ駆けつけて真偽を確かめる必要があるな。




