第96話 最終決戦
「だ、大丈夫なのか?」
「本当にアーマーの攻撃がなくなったんだな……」
「とはいえ、まだ完全にってわけじゃないと思うから警戒は必要だな。マイケルさんたちはここで待機していてくれ。」
「ああ、わかった。」
「タカさんはこのまま突っ込むのか?」
「ああ、なるはやで終わらせてくるさ。」
入り口付近にビークルを停め、ケンシロウとマイケルさんの二人はここで警戒していてもらう。
中へは俺たちで突入だ。
「じゃ、いくぞ、カスミ、フラン、サダコ、雪子。」
「オッケー!」
「はい。」
「うむ!」
「うん!」
まずはあの部屋を目指す。
ほんの半日ほどの間に、通路には人型のアーマーが50体ほど配置されていたが、それは俺と雪子で一掃する。
建物内で光学兵器は使えないらしいので、もはや敵ではない。
最深部の扉は開いたままになっていた。
スターファイターの欠片が、うまく楔として役立ってくれているみたいだ。
「ブルー、また来たぞ。今度こそ終わりにしよう。」
「何度来ても同じ事です。お前たちは私に触れる事さえできない。」
「そうかもな。でも、やってみなきゃわからないだろ?」
そう言って、4人を扉の外で待機させ、俺だけ部屋に入っていく。
おもむろにフルパワーで火と光の合成魔法を壁という壁に向けて放っていく。
「貴様!な、なにを!?」
「ん?何って言われてもな。見た通りだ。」
「や、止めろ!」
「止めろと言われて止められるかよ。大人しく見とけ。」
壁は破砕、あるいは溶解し、壁一面に張り巡らされた機器を焼き払っていく。
そこに土と水の魔法、次いで電撃魔法、ダメ押しで火と光の合成魔法をぶち込んだ。
「なぜ?なぜそのシステムを見破った?」
「それをお前に教える必要はないな。さて、これからが本番だ。いくぞ。」
「そうはさせません!」
と、あの塔型の機械の後ろから、実体のアトモスフィア、いや、ブルーが出現した。
アトモスフィア用に数体の予備個体があったのだろう。外観は完全にあのアトモスフィアだ。
しかも、何やらフル装備みたいに鎧やら盾やらをゴテゴテと身に着けている。
「厄介な奴だな。でも、悪いがお前は破壊させてもらう。」
「できるものならやってみるがいい。」
こいつの相手は俺だけで充分だ。
というか、あいつらじゃレーザーの対処は難しい。
なので、ここは作戦通りに
「カスミ、フラン、サダコ、雪子、奥の設備を頼む。」
「待ってました!行くよ!」
「さて、暴れるかの!」
「破壊の限りを尽くす!」
「あはははは!行くよー!」
4人が恐らくはスパコンと思われる機器類に向かって突進する。
やはりあの見えない壁はもう無効化できているようで、4人は片っ端から破壊を始めた。
「くッ!忌々しい!」
「おっと、お前の相手は俺だ。あいつらに手出しはさせない。」
「!!」
ブルー、おそらくはこの個体もリモートの分身体なんだろうな。
が、脅威となる以上破壊するだけだ。
ファントムを抜き、アトモスフィアと同じように切り裂く。
驚愕の表情を浮かべたブルーは、あっけなくバラバラになった。
「わ、私を壊したところで、我が本体はまだ健在だ。それこそ、お前達にはどうすることもできない。」
「だからさ、そんなん、やってみないとわかんないって言っているだろう?」
「何故だ。なぜお前はそうも不確定な事を、無駄な事を実行に移せる?」
「わからないからこそ行動するんだよ。
俺たち人間はな、お前のようにシミュレーションではじき出した確実性のあるパターン以外は排除する機械とは違うんだよ。」
「なにを……」
「人間はな、想像や感情っていう、お前には身に着かない“心”ってものを持っているんだ。
不可能にも挑戦する意志ってやつが、不可能を可能にすることもあるんだよ。」
「ココロ?」
「機械は与えられた情報を与えられたままデータとして保存、活用できるけど、それらのもつ意味までは理解できないんじゃないのか?」
「そんなことはない!私は!万能の!神にも等しい……」
「じゃあ、神って何だよ。データ、情報じゃなく、お前が思い描く神ってのを教えてくれよ。」
「データではない、私が……思う?」
「……ま、そういう事だ。じゃあ、これで終わりだ。お前の本体を壊す。」
「そんな事、できるわけが!」
俺はサダコの世界の月の欠片を取り出した。
黄色く光っていた月の欠片は、今は赤く強く光っている。
これをブルー本体にぶつければいい訳だが。
「この塔型の機器はデコイだよな。本体はこの下、か。」
「!! な、なぜ!?」
「言ったろ?人間だから、そうかも知れないって発想ができるんだよ。」
俺はファントムに魔力を集中させて、塔型機械の根本を切り裂く。
その亀裂から見えたのは床上の機器から続いている塔型の機械、おそらくはブルーの本体だ。
そっちは電磁波によるバリアが張られているのか、淡く光って見える。
俺は亀裂から下部に降りて行き、月の欠片をその機械に押し付けた。
月の欠片は光を強め、消失したかと思うと機械全体を赤い光で覆い始めた。
「な……な、ぜ…だ……なぜ……にん…げ…ん…が……これ…を……」
赤い光はブルー本体を覆うと、その本体の表面から溶かし始め、溶けたものは細かい粒子になり霧散していく。
「終わった、のか、これで……」
「き……さま……」
「お、まだ機能停止に至ってないのか。」
「なぜ…だ……にんげん…とは…い…たい……なん…な…の……だ……」
「そんなもん、人間にだって分かんないよ。」
「……そ…うか……わた…し…は…に…んげん…を…しり……か…た……も……」
「ブルー……」
「―――――。」
ブルーは完全に破壊され、沈黙したみたいだ。
考えてみれば、ブルーそのものはこんな思想を持ちえない存在だったはずだ。
それが、こんな訳のわからない偏った思想になったのは、外的な要因に依るところが大きいんじゃないかと、今になって思う。
そう考えると、ブルーも不憫ではあるのか……
「ジーマさん、これで、これで良かったのか?」
『ありがとうございます、タカヒロ。しかし、最後に謝らなければなりません。』
「へ?何を?」
『この星、つまり私はエルデと統合します。そのため、この世界は崩壊します。』
「え?ええー!?」
なんと、結局は崩壊するって?
聞いてねー!
「じゃ、じゃあ、今までしてきた事って?」
『ああ、言葉足りずでしたね、私ジーマそのものがエルデに統合され、星は一つに戻る、という事です。』
「あ、いやいや! 言葉を追加しても同じ事じゃん!? この世界の人々はどうなるんだよ?」
『正直、私にはわかりません。ただ、一つ言えることは貴方たちエルデから来た者は送り返さなければならない、という事です。』
「いやいやいや、俺たちだけ逃げろと?」
『はい。』
「マジか……」
『統合までにはまだ時間があります。貴方たちはすぐにエルデに帰還してください』
「ケンシロウたちを、見捨てるのか。ここまで来て……」
これは、ちょっとショックだ。
結局はこの世界を救えていないって事じゃないか。
そんな……
そう思っていた所に
「おーい!タカさん!無事かー!」
上からケンシロウが叫んでこちらを見ている。
俺は無事だと返し、部屋の部分まで上がっていった。
「タカさん、今のジーマ様の話は俺も聞いたよ。早く、日本へ戻ろう。」
「いや、でも、お前達は……」
「なに、どうなるかは分かんないけど、少なくとも人類の脅威は去ったんだ。これで充分だよ。」
「しかし……」
「拘泥するのはあとです、タカヒロさん、みんなも、早くビークルに乗ってください。」
ひとまず俺たちは、最大の脅威を取り除き、この場から去る事にしたのだ。




