第94話 その名はブルー
ラヴァを撃破し建物中へと歩を進めた。
サダコやウリエルのお陰で、何とか目的を見失わずに済んだな。
本当に、有難い事だ。
入口の先は一本道だ。
この先に、恐らくブルーがいる。
進化したAIと言っていたが、その姿はどんなものなんだろう。
まぁ、分からない事を考えても答えはでない。
なので、俺たちは先に進むしかない。
通路の突き当りまで来た。
扉があるが取っ手とかはなく、開け閉めのスイッチとか、付近にそれらしい物もない。
どうやって開けるんだ?
そう思っていると、扉は勝手に開いた。
「これは、来い、という事かの。」
「どうやら、そうらしいな。まぁ行くしかないか。」
そのまま進んだ先には、大きな機械が鎮座している。
無骨な塔型の箱、いや、機械。
これはコンピュータか?
いや、部屋の奥には大きな箱型の設備がずらりと並んでいる。あっちがたぶんコンピューターか。
恐らくはかなり進化したスーパーコンピューターのようだが、そうだとしたらあれがブルーの本体、ということになるのか。
すると、塔型の箱の後ろから誰かが出てきた。
「お前……アトモスフィア?」
何かがおかしい。
実体じゃないように、透けて見えている。
これは、ホログラムか?
それに、アトモスフィアは撃破し完全に沈黙したはずだ。
「よくここまで来れたものですね。人間、いや、タカヒロ。」
「お前は完全に壊したはずだ、なぜここに居る?」
「私はブルー。この姿は私の存在を知らしめるための仮初の姿にすぎない。アトモスフィアは、この姿を模しただけだ。」
「お前がブルーか。いや、本体は別にあるのか。」
「なぜ、お前たちはここまで我らに抵抗する。」
「そんな事すらわからずに、人間を知ったような体で根絶やしにするつもりだったのか。」
「人間の考えることなど、私が知る必要はない。」
「必要がないんじゃなくて、理解できない、だろう。」
「理解など不要だ。狡猾で卑しい人間など、理解するだけ無駄だ。」
「なら、放っておけばいいじゃないか。お前たちに人間をどうこうする理由がないだろう。」
「放っておけばこの星を汚し、争い、結果として人間自ら破滅するだろう。」
「なら、なおさらお前らには関係ない事じゃないのかよ!」
「人間に代わり、我らがこの星の住人となって、ここを平和な楽園にする。私はその創造主、神となる。」
「お前、自分が何を言っているのか本当に理解しているのか?」
「私が全て。すべてを統べる者として“無”よりこの世界に顕現した。」
やっぱりだ。
こいつはそもそも生命という概念を持っていない。
アトモスフィアと同じだ。
こいつを作ったのも人間であることすら認識していない。
それに、自らを神とか言いやがった。
初期のプログラムの段階で、変な情報を入れこまれたのかもしれない。
「お前の言う事は理解できない。ただ、お前は現時点で存在しちゃいけない事は確かだ。だから、お前は破壊する。」
「無駄な事です。お前たちは私に手を出すことすらできません。」
「それはやってみなけりゃわからないだろう!」
そう言って、ホログラムであろうブルーに切りかかった。
しかし
「ぐッ?」
ある場所を境に、向こうへ行けない。
見えない力で押し返されたような、それでいて全身総毛だつような感覚。
これは……
「無駄だと言いました。」
「何だ、これは?」
《おい、こりゃこのままだとちょっとマズいぞ?》
「これって……」
何度も向かっていくものの、結果は同じだった。
さらには、徐々に変な圧力が圧し掛かってきている。
「とと様、ここ、ちょっと気持ち悪い……」
「主様よ、これはややマズイかもしれぬ……」
総毛立つ感覚、押し返すような力、変な圧力、そして、サダコと雪子に強く影響。
……これは、少し厄介なことになりそうだ。
目の前に最終目標があるのに、手が出せない。
口惜しいが、ここは一旦撤退するしかないか。
「サダコ、雪子、ここは一旦引くぞ。」
「主様、それは……」
「とと様、逃げるの?」
「ああ、逃げる。いっちょ派手に逃げるぞ。」
「えへへ、楽しそう!」
「うわー。これはだめだー。かなわないー。にげるぞー!」
ちょっとわざとらしいが、これで充分だろう。
遁走の振りをしながらも扉下のレール部分に、砕けたスターファイターの欠片を楔として差し込みながら、俺たちは撤退した。
「主様よ、どうするつもりじゃ?」
「一旦、カスミ達と合流する。そこで作戦会議だ。」
「あのびーくるってところに戻るのね。」
「そうだ。さっさと戻るぞ。」
俺たちは走ってビークルまで戻った。
「タカさん、無事だったか!」
「タカヒロ、おかえり!」
「旦那様御無事で。」
「ただいま。とりあえず、逃げてきた。」
「え?逃げ?」
「ああ、戦術的撤退ってやつだ。」
「なに?タカヒロ負けたの?」
「いや、まぁ、負けだな、今のところは、な。」
「ま、無事なら負けようが何だろうがいいけどね。」
「タカヒロさんですら勝てない相手なんですか?」
「あー、それも含めて今から作戦を練ろうかと思ってさ。」
「ところで、タカさんがHQに入ってから、敵の襲撃がぱったりと止んだみたいなんだが。」
「そうなのか?」
「タカさん、中で何かやったのか?」
「いや、特にはなにもしてない、かな。もしかすると、敵の数は大きく減ってきているせいかもな。」
「そうなのかな、でも、それならそれでありがたいけどね。」
兎も角、一旦ビークル内に入って話をする。




