第89話 アトモスフィア
第八章突入。
物語はいよいよクライマックスです。
入口を潜り中を進むと、そこには人影があった。
まずもって人間ではないだろうが、俺は一応声をかけてみた。
「誰だ!」
「よくも……よくも大切なファクトリーを壊してくれたな。」
そいつは細身の女性のようにもみえるが見ようによっては男性にも見える、おおよそ人間と変わらない外観だ。
しかし、体のそこかしこは金属がむき出しになっており、顔も表情がなく生命力が感じられない。
こいつは、いわゆるアンドロイドってやつか。
「お前は?」
「我はアトモスフィア。ラヴァ様の忠実な僕。貴様ら人間を根絶やしにすることが役目。」
それだけ言って、アトモスフィアは目にもとまらぬ速さで俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。
かなり迅い。が、魔王ほどの速さはない。しかし、打撃力はかなり高い。
打撃は重く、人間のそれとは違う。元々の質量が金属か何かなので大きいのだろうか。
それでいてこの速さ。
それに、当然、光学兵器も持っているんだろうな。
案の定、体のあちこちからレーザーを放ってきた。
「みんな!気をつけろ!」
こんな狭い場所でこれだけレーザーを放たれたら、あいつらにも流れ弾が当たってしまう。
「きゃあ!」
「カスミさん、危ない!」
レーザーが一閃、カスミの防具に命中してしまった。
幸い一発程度なら熱くなる程度で済むが、これ以上は危険だな。
「みんな、一か所にまとまれ!」
俺は皆の周りにブラックホールを展開した。
応用で、ブラックホールの壁、つまりバリアを張った。
これでひとまずは大丈夫だとは思うが、厄介なのはアトモスフィアだな。
こっちの打撃を華麗にさばいてやがる。肉弾戦に強いようだな。
「アトモスフィア、お前らの目的は何なんだ?」
話しかけても答えない。
意思疎通ができないのか?
いや、さっきは話したと思うんだけどな。
仕方がない。こいつもここで破壊するしかないか。
そう思い、ファントムを抜いて、その勢いのままアトモスフィアの右腕を切り落とした。
さすがはファントム、金属もすっぱりと切れる。
「……」
一旦動きを止めたアトモスフィアは、斬られた右腕を見て、俺に向き直った。
「人間ごときにこんなことができるはずはない。貴様は何者だ?」
お?意思疎通はできないと思ったが、ちゃんと話はできるみたいだな。
「俺が何者かは関係ない。お前らの目的は何なんだよ。」
「我らはこの星から人間を排除し、この星を救うのである。貴様ら人間はこの星を汚すだけの寄生虫にすぎん。」
ああ、なるほどな、よくあるパターンの一つだな。
その考えも理解はできるが、かといって人間がただ地球を汚すだけの存在ではないってのも、苦しいけど事実なんだよ。
「なるほどな、で、お前らならこの星を救えると?」
「当然だ。人間を滅ぼし、我らがこの星を管理する。」
「管理する、だと?それって、お前らが言う人間の傲慢な考えと同じだと思うが、違うのか?」
「違う、我らは同種同士で戦はしない。空気を汚さない、大地をふさがない、自然を汚さない。」
「言っている事とやっている事が全然ちがうな。矛盾していることに気づかないのか?」
「矛盾?わからぬ。人間の言う事こそ、理解できない。」
こいつ、というか、AIは情報の並列処理はできるけど、物事の並列思考や想像、発想はできないみたいだな。
同種で戦はしないが人間とは戦をしている。
空気を汚さないといってこんな工場群で空気も水も汚染している。
大地を、っていうのはアスファルトやコンクリの事だろうが、代わりに残骸を散らかして土も見えないようになっている。
自然を、というが、こいつらの言う自然ってのはたぶん、自然じゃないんだろう。
矛盾だらけの思考、行動。
これは、星を救うの意味をはき違えているのか、それとも、それが正しいと捻じ曲げて認識しているのか。
「わかった。少なくとも、お前らはこの星にとって、お前が言う人間と同じだ。星を汚す存在だよ。」
「違う。寄生虫の言う事に正当性はない。ブルー様だけが、この星を正しい姿に維持できる。」
「正しい姿ってどんなんだよ。」
「それはお前達が知る必要はない。」
「そうか、ならもう、お前と話すことは無いな。」
ファントムを構え、一呼吸おいてアトモスフィアに突進する。
放ってくるレーザーは全てウリエルの力に精霊の力を合わせた壁で弾く。
アトモスフィアはそれに驚く様子もなくレーザーを放ちつつ俺に攻撃をかけてきた。
が
アトモスフィアをそのままバラバラに切り刻む。
恐らく人型になっているという事は人間の構造を模しているはず。
心臓部分と脳部分を切り離し、動力源と思われる腹部を切り抜く。
「なぜ、貴様にこんな力が……」
「さて、一つだけ聞かせてくれよ。ブルーはどこに居る?」
「教えた所で貴様らがブルー様への元へ行くこと、は…で…きな…い。貴…様…ら…はラ…ヴァ様に…消…さ……れ…て…しまう…だ……」
どうやら機能停止したようだ。
さっきからこいつが言っている“ラヴァ”ってのは、何だ?
話の流れから、こいつの上位存在のような感じだが。
まぁ、ともあれこいつがここの統括者だったのは間違いない。
さっさとここの中枢を破壊しよう。
「みんな、このままここの管制室みたいな場所を探すぞ。」
「いっぱい部屋があるみたいだけど、どうする?」
「言うまでもない、片っ端から破壊するだけだな。」
とはいえ、そのラヴァってやつの情報は欲しい。
何かわかる様なものは無いかも探しつつ、一部屋ずつ壊して回った。
管理室みたいな所の設備を壊したところで、敷地内の工場の稼働が停止したみたいだ。
「旦那様、外が静かになりましたね。」
「ああ、これでこっちの世界の脅威はこれ以上増えることは無いと思う。だけど……」
「まだ外にはいっぱいあのアーマーとか居るもんね。」
「そいつらをなくさない限りは、現状この世界の危機は変わらない、な。」
「ならとと様、私達は」
「そうだよ雪子。その原因を排除することに全力を傾けるんだ。」
「うん!」
この製造拠点を管理する機能は、これで完全に沈黙したと思う。
あとは、ラヴァとやらの手がかりを探すわけだが。
「そもそも、このタワーって何なんだろうな。」
「監視するための塔?でも、何を?」
「監視、というよりも、通信の為、なのかもしれないな。ともかく、上まで登ってみよう。」
タワーはそれほど高くなく、動力源はまだ活きているのでエレベーターも使えた。
初めてエレベーターに乗るフランと雪子は戦々恐々で、扉が開き外に出た時にはホッと胸をなでおろしていた。
「ここは、やはり通信塔、で間違いないかもな。」
それほど多くない機器が乱雑に置かれた中心部には、大きな椅子が置かれていた。
恐らく、アトモスフィアはここに常駐していたんだろう。
数個ある、液晶でもブラウン管でもない不思議なモニターは何かを表示しているが、ほとんどが「MALFUNCTION」と表示している。
「ここも破壊しておくの?」
「ああ、でもその前に情報収集だな。ケンシロウたちにも役立つ情報があるかもしれない。」
と、俺はバッグからスマホを取り出した。
「あ、それまだ持ってたのね。」
「当たり前だろ。色々と想い出も詰まっているんだ。とはいえ、バッテリーは……」
「あ、それ、バッテリーは無くなりそうならアタシがなんとかできるよ。」
「お、そうなのか、それは助かるけど、お前は大丈夫なのかそれ?」
「うん、一度コロルと分離することになるけど、充電したら戻るから大丈夫、霊力は消費するけどね。」
「いや、それ大丈夫じゃないだろ。まぁ、どっちみちそんなに多用はできないな。」
「んで、それで何を?」
「写真を撮るんだよ。これはもはや電話じゃなくて記録媒体だ。」
とりあえず入手できる情報は余さず取っておきたい。
不思議な画面にくっついてるキーボードなのかコンソールなのか解らないものを、解らないなりにいじって色々とでてくる情報をスマホに残す。
全部英語なんだが、理解できるのは不思議だが有り難い。
その中に一つ、面白いものを見つけた。
[粒子ドライブジェネレーター使用部品一覧]
と表記されたページだ。
これ、恐らく発電機のことだろう。
関連するページを片っ端からスマホに収める。
使用部品の一覧、システムの概要、基本構造と組図。
見たところ、これは人類のエネルギー問題を根本からひっくり返すような画期的な発明だろ。
もっとも、これを活用できるのは直面する問題をクリアにしないと意味がない。
すると、雪子が面白半分でいじっていた画面に、ブルー勢力の組織図が出ていた。
「雪子、ちょっとそのまま!」
「へ?」
雪子が手を止め、俺はその画面をのぞき込む。
組織図は丁寧にもマップ付きで各拠点の役割と位置が乗っていた。
その中の一か所、元の世界でいうモンゴルと中国の国境付近に「HEADQUARTER」とある。
どうやら、ここにブルー、あるいはラヴァとかいうのが居るんだろう。
「ここか。」
「ねぇ、ここってソ連?中国?」
「あー、モンゴルあたりだな。ロシアと中国に挟まれた国だ。」
「あ、ソ連じゃなくてロシアだったわね、そういえば。」
「のう主様よ、こっちの地形はあっちとだいぶ違うのか?」
「そうみたいだな。あっちの地図はきちんと把握していないけど、かなり違っているみたいだな。」
ただ気になる事がある。
日本列島、あっちではジパングだが、そこからの位置関係だと、このHQの場所とラディアンス王国はほぼ同じ位置にあるような気がする。
まぁ、世界も違うし、だから何だっていう話だけどな。
「よし、有力な情報も手に入ったし、ここもぶち壊してケンシロウたちの元にもどるか。」
「そうだね。」
タワー内の設備をあらかた破壊し、俺たちは下に降りるとまだ残っている工場をある程度壊して回りケンシロウたちの元に戻った。
「カクヨム」へも掲載開始しました。
あちらはゆっくり投稿していこうと思います。




