第87話 ブルーの本拠地
港を出発してから1日半で、大陸側の海岸線に到着した。
ここは元中国らしいが、詳しい場所はわからない。
一応の港っぽい造りはしてあるけど、至る所に色々なスクラップが積まれて偽装されている。
ここに到着するまでに、やはり海上ではアーマーの激しい攻撃があった。
プロペラで飛ぶ飛行型のアーマーもいたが、基本は船からの攻撃だったので、こちらの迎撃もやりやすかった。
基本戦術としては雪子が絶対零度の魔法を浴びせ、そこに俺が超高温の火の魔法をぶち込む。
これがかなり有効で、しかもレンジは5キロ以上と遠距離での攻撃が可能だったことからこちらは全く損害を受けずに済んだ。
ただ、俺は兎も角雪子の魔力消費が激しいので、あまりこの戦術ばかりは使えない。
港から数キロ歩いた所でケンシロウは歩みを止めた。
少し岩山が多く、港と同じく武器やアーマーの残骸などがそこかしこに放置されている。
「タカさん、ここが大陸側のレジスタンスの拠点だよ。」
「ここがって、瓦礫の山しかないじゃないか。」
「こっちの、というか日本以外の拠点は基本地下なんだ。地上だとあっという間に発見されて殲滅させられてしまう。」
「そうなんだな。敵はセンシングも発達してるってことか。」
「んー、そうでもないかも。恐らく使っているのは赤外線とサーモ、X線といった古典的なセンサーだと思う。」
いかに進化したAIとはいえ、人間の想像力や発想・創作力は会得できないんだろうか。
それはそれでこっちとしては打開策も見えてくるが、いかんせん兵器の先進性と強さはそれだけで果てしない脅威だろうな。
無尽蔵に電気を生み出すシステムってのがちょっと興味をそそられるが。
「ケンシロウさん、久しぶりです。」
「元気そうで何よりだよマイケル。」
「こちらの方は?」
「俺たちの仲間、というか、切り札、といってもいい、タカヒロだ。」
「初めましてミスターマイケル、お会いできて嬉しい。」
「へぇ、流暢に英語ができるんですね。」
「え?いや、しゃべれないけど?」
「え?」
「え?」
まぁ、あっちの世界に行った時も普通に会話が成立してたけど、何だろう、俺、言語機能までチートになってたのか?
とにかく、言語の壁がないってのはありがたい話だ。
「ま、まあ、それはいいか。ところでケンシロウさん、切り札というのは?」
「アーマーたちを殲滅できるほどの力を持っている。タカヒロさんだけでアーマーの軍勢を叩けるほどだ。」
「それは本当か?そんな事が可能なのか!?」
「俺も信じられなかったけど、実際目の当たりにしたからな。今は信じられる。」
「それは凄いが……じゃあ、俺たちはこの人に付いて行ってフォローするわけか。」
「いや、マイケルさん、それも不要だと思う。俺とこの4人だけで本拠地に突入するよ。」
「無茶だ!行けるわけがない。あっという間に死んじまうぞ?」
「無茶でもさ、行くしかないんだよ。それに、マイケルさん達はこれ以上死者を出すわけにはいかないだろう?仮に俺たちが死んでも、マイケルさん達は生き残らなきゃな。」
「し、しかし……」
「正直言うと、俺が死んだらもう後は無い。人類どころか、ブルーもまとめてこの星ごと消滅するんだ。」
「なんだって?」
「その為にブルーとの交渉も、もしかすると可能かもしれないんだ。奴らもこの星の状態は把握しているとみていいだろうし。」
「それは……」
「とにかく、行くしかないだろうさ。」
「では、せめて長旅の疲れを癒してから行動をとることにしましょう。我々のサポートも可能な限り行いますので、その内容も詰めておかなくては。」
「ありがとう、お世話になっちゃうな。」
「良いんですよ。ケンシロウさん達にはお世話になりっぱなしなんですから。」
俺たちはマイケルさんから暖かい食事をもらった。
聞けば、こういう食事は滅多に摂らないそうだ。
主食になるのは、ケンシロウたちが提供している簡易戦闘糧食なんだそうだ。
ケンシロウたちが提供というのは、実は、その戦闘糧食を生産できるのは日本だけのようなのだ。
アーマーが立ち入らない安全な拠点の一つ、そこで生産しているそうだ
原料なども、日本産の大豆が主原料なんだそうだ。ただ、それ故に全世界に流通させるほどの量はないのだとか。
もともと俺が居た頃の日本は自給率が極端に低かったんだけどな。
農家の人以外、誰もが無意識に一次産業を忌避したりないがしろにしていたもんな。
マイケルさんとの話し合いの結果、俺たちはブルー側の兵器の製造拠点をまず叩くことにした。
幸いなことに、あのアーマーなどの製造はそこだけで行われているそうだ。
ただ、それだけに防御は鉄壁で、防衛用のアーマーが多数配置されているそうだ。
その近くまで、俺たちとケンシロウを輸送する役目を負ってくれることになった。
「ケンシロウ、お前まで行かなくても」
「いや、タカさん。ここまで来て俺だけ帰るわけにもいかないだろうよ。なに、戦闘はタカさんに任せて俺たちは後方支援に徹するさ。」
「うーん、まあ、事の成り行きは見ておきたいんだろうけどさ。」
「あはは、それもあるかな。」
「じゃあ、約束だ。危険と判断したら、俺たちを置いてすぐに撤退してくれ。俺たちは大丈夫だからな。」
「ああ、わかった。」
「じゃあ、明日日の出とともに行動開始だ。」
俺たちは狭い一室をあてがわれ、そこで休むことになった。
俺とカスミ、フラン、サダコ、雪子の4人はザコ寝だ。
「ねぇ、アンタさ、実際どうなの?」
「うん、勝つか負けるかでいうと勝てるだろうな。たださ、ブルーが執拗なまでに人類を殲滅しようとしているのと、この星の行く末がどう関係しているのかってのが気になる。」
「のう主様、それはそのブルーとやらの行動の根拠に、星の未来が関係していると?」
「いや、これは完全に俺の勘なんだけどな。」
「でもさ、それにしたってブルーが人間を根絶やしにしてどうするつもりなんだろうね。」
「それも全くわからんな。もしかすると、ブルーの真意は人類殲滅じゃないような気もする。」
「なんで?」
「いや、何となくだけど、根絶やしにしようと思ったら、拠点めがけて核兵器を打ち込めばそれで終わりだろう?」
「核兵器、ね。」
「旦那様、かくへいき、というのは?」
「えーっとね、人間が作り出した悪魔の兵器だよ。一発で数万人を灰にできる恐ろしい爆弾だ。」
「そんな物が存在するなんて……」
「俺が居た世界では、実際に戦争で使われたのは2度だけ。それ以降は使われていない。」
「それはなぜ使われた?」
「人間同士のくだらない戦争だよ。」
「人間同士が戦争を?」
「ああ、人間同士、というか、権力者がある意味欲に取り憑かれたってのがそもそもの原因なんだけどな。
物資や経済的に窮地に追い込まれた国が反撃を考えたのが始まりだよ。」
「あ、あの大戦ね、それ。歴史の時間じゃ言わなかった真相ってやつでしょ?それ。」
「うむ、人間というのはおろかだからのう。」
「少なくとも、俺の知る歴史ってのは、そういう争いの連続だな。その殆どが、認め合いや協力、つまりは譲り合いや助け合いをすれば戦争なんてせずに済んだ話なんだが、権力を持った人間ってのは、そういう事すら判断できなくなるようだ。」
「なんでそんな……」
「人間はさ、欲深いんだよ。権力ってのは本来、責任を全うさせる手段にすぎないんだけど、一度権力を握っちゃうとさ、それが逆転してしまう。あまつさえ、責任なんて重圧は放棄してしまうんだよ。」
「業が深いのですね……」
「だからさ、ブルーはそんな所をよく理解しているのか、あるいは理解できないからなのか、という所が気になるんだよ。」
「まぁ、かなり複雑よね。考えるだけで頭が痛くなってくるわね。」
「たださ、エルデの世界って、そういうのが正しく機能しているじゃないか。理想郷と言ってもいい。この星の行方も大事だけど、俺個人としてはあの世界を守りたいって気持ちが大きいんだ。」
「私達の世界……」
「ま、まぁ、お前たちも含めて、サクラ達全員が好き、愛してるって事が一番の要因だよ。」
「アンタ……」
「旦那様……」
「主様……」
「とと様、私も?」
「あはは、雪子もだよ。大好きだよ。」
「とと様!私もダイスキ!愛してる!」
「ちょっとアンタ、まさか雪子まで?」
「ちげーよ!」
「とと様?違うの?」
「あ、いや、その……」
「ふぅ、主様は雪子を愛してるのじゃぞ。心配いらぬぞ?」
「ホント?」
「ああ、本当じゃ。何なら、お主も主様のお嫁さんになるか?」
「うん!かか様の代わりに、とと様の奥さんになるのが私の役目だもん!」
「……」
決行前の夜は更けていく。




