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第86話 大陸への渡航

 小手調べを終えて、俺たちは一旦拠点に戻った。


 「しかし、タカさんにあんな力があったとは……」

 「まぁ、俺というよりは、精霊やウリエルの力、みたいなもんだけどな。」

 「それにしたって、人間がほぼ丸腰でアーマーを撃退するなんて、考えられない事だぜ?」

 「まー、そうかも知れないけどな。が、これで今後の方針は概ね決まりだな。俺が敵の本拠地に殴り込み、という事だろ。」

 「それなんだけど……」


 ケンシロウが言うには、敵の本拠地は元のモンゴル自治区辺りにあるらしい。

 そこへ行くには、まずは海を渡らないといけないそうだ。

 そりゃそうだな。海の向こうだもんな。


 ちなみに、北米大陸はもはや人が住める場所ではないらしい。

 生存者は山岳地帯に数万人いるそうだが、そもそも北米大陸はメテオインパクトで壊滅的な状態になったそうだ。

 そこにアーマーの襲撃も加わっている為か、人々は限定的な場所だけで生活しているらしい。

 南米大陸も同様で、人が居住する環境はごく限られた場所なんだそうだ。

 よくよく考えたら、エルデの大陸と概ね一致しているようだな。

 ただ、エルデ側は1万数千年の時を経ているからか、ここよりも結構変化している。


 「で、だ。大陸に渡る方法は、やはり船なのか?」

 「そうだな、現状船か潜水艦しか手立てはない。しかし、それが一番危険ではあるな。」

 「やはり、あのアーマーどもか?」

 「それもそうなんだが、奴らが一番力を入れているのは海上戦力なんだよ。」

 「ん?アーマーって、空を飛べるんじゃないのか?」

 「正確には飛べる兵器はごく少数だ。この間のアーマーが空から飛んで来た様に見えたのは、あれは飛んだのではなく跳んだ、という言い方が正しい。」

 「??」


 「奴らは飛行に必要な推進力の手段を持たないんだよ。」

 「というと?」

 「奴らのエネルギー源は電力だ。小型の発電システムを実用化したらしくてな、電力だけなら無尽蔵に発生させられる。だが、内燃機関のような石油由来の燃料は使っていないんだ。」

 「という事は、ジェットエンジンやロケットエンジンのような推進力の手段は持っていない、という事か。」

 「ああ、だからこちらのミサイルやロケットは、一応あいつらには脅威として認識されている。まぁ、効果はあまりない兵器なんだけどな。」


 「なるほどな。でも、こちら側は飛行機とかはないのか?」

 「あったところで扱える人間はいない、かな。飛行機という乗り物があったのは知っているが、見たことはない。」

 「そうなのか、で、あっちも陸上と海上が主戦場になっている、という事なのか。」

 「ああ、それ故に海上の防御は固い。普通に航海してりゃ、あっという間に捕捉され攻撃対象になる。」

 「ん?まてよ?あのアーマーが単体で海上攻撃を仕掛けてくるのか?」

 「いや、そこが唯一の突破口でもあるんだが、アーマーは海では活動しない。」

 「活動しない?できないではなくてか?」

 「恐らくだが、メンテナンスフリーなボディだからこそ、海水による腐食は長い目で見れば致命的なんだろう。海水を嫌っている節があるんだよ。」


 あー、何となくだが、わかる。

 塩害ってのは想像以上に機械にはダメージがくる。

 大型タンカーでさえ、外殻はともかく内部は定期的なメンテナンスが必要らしいし、直接触れるわけでもないのに飛行機だって塩害には苦労する。

 俺が沖縄で携わってた戦闘機の整備でも、あっという間にあちこちが錆びるし、その補修もめんどくさかったしな。


 「そういや潜水艦ってのは?」

 「残念だけど、日本には無いんだよ。大陸との貨物輸送で使うだけで所持は大陸側なんだ。」


 この日本には潜水艦は無い。

 かつて自衛隊で使用していたであろう潜水艦や米軍の潜水艦は一隻残らず破壊されたんだそうだ。

 もちろん、残っていたとしても原子力潜水艦とかディーゼル発電の潜水艦なんてのはこのご時世運用できないんだろう。

 現状動かせるのはバッテリーで動かす潜水艦のみらしい。

 そうなると、そうそう頻繁に運用もできない、というのが実情のようだ。


 「でも、考えようによっては海上だと戦力差はほぼイーブンってことじゃないか?」

 「あ、いや、しかし…」

 「まぁ、俺に限って言えば、そんな海上戦力は脅威にすらならないかも知れない。」

 「確かに、あちらの攻撃は有効とは言えないし、タカさんの魔法だったか?あれは場所の制限はなさそうだし……」

 「どちらにしても、赴くのは俺たちだけだ。どうだろう、船を融通できないか?」

 「うーん、そうだな……」


 「ケンシロウさん、船ならあれがまだ残っています。」

 「ああ、あれか。燃料もまだ残っているが、あれは……」

 「私なら操縦できます。」

 「なあ、アレって?」

 「ああ、足の速い船があるんです。水中翼艇とかいう高速の船です。」

 「水中翼艇か、あるんだな、そんなのがまだ。」

 「ただ、それを一人で扱えるのは、俺とテツオくらいしかいません。結構複雑で操舵も難しいんだ。」

 「あー、そうなのか。さすがに俺も船の操縦はしたことないな……」


 そうか、渡航する手段が極端に限られている、という事か。

 とはいえ、どうにかして早く大陸に渡らない事には物事は進まない。

 ならば……


 「なあ、ケンシロウ、俺に水中翼艇の使い方を教えてくれ。」

 「……いや、その必要はない。俺が一緒に行く。」

 「え?いや、でもお前がここを離れるとマズイんじゃ?」

 「俺はここのリーダーではあるが、すべてを統括しているわけじゃない。俺たちとていつ死ぬかはわからないからな。替えは居る。」

 「しかし」

 「それになタカさん。大陸に渡った後も案内役は必要だろう?大陸の人たちはたぶん、その余裕はないかもしれないしな。」

 「ケンシロウ……」

 「ぶっちゃけ、タカさんと一緒なら危険度も低くなると思うんだ。奴らから鹵獲した武器もあるし。」

 「そうか……それじゃ、頼んでもいいか?」

 「ああ、まかせとけよ。」


 ともあれ、これで虎の子扱いの水中翼艇を借りることになり大陸へと渡る手段は解決だ。


 「しかし、あのアーマーが海水に弱いとはな。」

 「海水もそうだが、極端な低温や高温にも弱いという報告もある。」

 「極端な低温や高温?」

 「ああ、精密機械故に極低温の環境下では動きが鈍るらしいな。もっとも、そんな環境は大陸の北側で冬に限定されるが。」

 「なるほどな。結局は機械か。低温下じゃパフォーマンスが低下する可能性がある、か。」

 「もっとも、奴らの進化速度は早い。すでに対策は成されている可能性も拭いきれないがね。」


 いずれにしても、ブルー側の詳細を掴むためにも、大陸への進撃は急務だ。

 幸いにも軍勢としての侵攻ではなく俺たち単独での作戦になる。兵站の心配はない。

 食料もある程度たんまりと持ってきてバッグの中に押し込んであるからな。


 「じゃあ、さっそく今から行こうか。」

 「い、今から?」

 「ああ、『兵は神速を貴ぶ』っていうしな。兵法の基本だぜ?」

 「兵法?」

 「あー、気にすんな。そういう諺だよ。」


 どうも、ブルーに対抗する勢力は軍勢としての基本は無く、急ごしらえの民兵がそのままレジスタンスになったみたいだ。

 まぁ、統制が取れるほどのあらゆる余裕がないのだろうし、そもそも自衛隊も各国の軍も真っ先に標的にされただろうしな。

 しかし、俺も元自衛官ではあるが職種が戦闘機の整備員だったから、似たようなもんだけどな。

 逆にこうしたゲリラ的な少数での行動のほうが統制は取りやすいかもしれないな。


 こうして、1時間ほどで準備を整え、船がある港へと向かった。

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