表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/121

第81話 敗北

ちょいグロ表現があります。

ご注意ください。

 ジパングにあるゲート付近。

 タカヒロを見送った後に残ったフラン、ジャネット、リサ、雪子は、祠入り口からほど近い場所にある社にいた。

 見送ってから2日が経過していた。


 「しかしまぁ、こうなるだろうとは思ってはいたが……」


 ジャネットは嘆息する。

 結局、サクラ、ローズ、アルチナ、シャヴィ、サダコ、ピコが勢ぞろいしていた。


 「だってさ、やっぱり心配だもの。」

 「少しでもタカヒロ様のそばにいてあげたいと……」

 「私は妻ですもの。出迎えは必須ですからね。」

 「うむ、凱旋を労うのは妻の務めじゃからの。」

 「タカヒロにおかえりーって、最初に言いたいの。」


 「……シャヴォンヌ様も、これだけを載せて飛ぶのは大変だったのでは?」

 「なに、このような苦労、タカに比べればな。それに、気持ちは皆と同じだよ。」


 なんだかんだと、ラディアンス王国でひと悶着あったらしいが結局はこうなった。

 タカヒロ殿がいつ帰還するのかもわからないのに、帰ってくるまでここで待つ、と言い張ったらしい。

 多少手狭な社だが、この人数なら数日間は居住しても問題ないとは思う。

 ただ、何もないこの場所で待ち続けるのも、無理はあるだろう。


 「という事で提案なんだが。」

 「お母様?」

 「ここに全員が詰めるというのもかなり無理がある。なので班分けして日ごとで交代で、というのはどうだろう?」

 「そう、ですね。城なら居住には問題ないですから、兄に掛け合ってみますけど。」

 「でも、できれば全員一緒に出迎えたいです。」

 「その気持ちはわかるんだが……」


 まったく、この子たちは真っ直ぐすぎるな。

 それもこれも、タカヒロ殿がそれだけ大きな存在だから、なんだろうが。

 とはいえ、このままという訳にも……うん?


 祠の奥が、赤く光り出した。

 もしや、タカヒロ殿が帰ってくるのか?


 「帰ってきた!?」


 全員が明るい表情を浮かべ、あの渦の前まで走っていく。

 どうやら帰ってきたみたいだ。

 行く時とは違い、渦は赤い光を放っていた。

 その渦の奥から、3人の人影が浮かんできた。

 そして。


 「助けて!み、みんな!助けて!!」


 カスミの悲痛な叫びが祠内にこだまする。

 カスミともう一人が抱えているのは、血まみれになりぐったりしているタカヒロだった。


 「タカヒロが!タカヒロが死んじゃう!助けてー!!」

 「「「「「「「 !! 」」」」」」



 タカヒロの状態は見るも無残な状態だった。


 左腕は骨も寸断され皮一枚で繋がっていて千切れかかっている。

 右足も同様で太腿の外側部分が大きく喪失している。

 体中から血が吹き出ていて、顔も傷が深い。

 左目は眼球も喪失し、深く抉れている。

 もはや死んでいると言われてもおかしくない状態だ。


 カスミの叫びを聞いた皆の動きは素早かった。

 誰も一声も発せず、タカヒロを取り囲むとアルチナとシャヴィ、リサ、ピコ、雪子が治癒の魔法をかけ、なんとか生命が維持できる状態にすると、シャヴィに載せて城までタカヒロを運んだ。

 即死状態のタカヒロに、もはや意識などない。



 翌日。

 タカヒロは城の一角にある客間で寝かされていた。

 非常に危ない状態ではあったが、アルチナとシャヴィの治癒魔法、そしてサクラが持ってきていた秘密の治癒薬によって一命はとりとめた。

 魔法によって左腕も右足も左眼窩も元に戻っている。

 死亡してはいなかったので、そこまで治癒できたのだ。

 ただ、意識は戻っていない。


 皆がタカヒロの寝ている傍にいて座っている。

 そして、カスミはまだ体の震えが収まらないようだが、事の顛末を説明し始めた。


 「ダメ、ダメだったよ。相手に……敵わなかった……」

 「それ程の強敵、なのですか?」

 「たぶん、今のままじゃ勝ち目はないかも。あっちの兵隊さんも、勝てる見込みはないかも……」

 「そ、そんな……」

 「それで、タカヒロ様はなぜここまで?」

 「そ、それは……」


 拠点近くに来たアーマーとかいう兵器は、あのトラもどきと同じか、それよりかは強かった。

 数体を破壊した所で、タカヒロの剣は砕け、あとは魔法を交えた肉弾戦になったのだが、ケンシロウたちが窮地に陥った所でタカヒロが盾になりケンシロウたちを逃がした。

 ケンシロウ達を守りながら残りのアーマーの相手するのは困難だったようで、徐々に押されつつあった。


 そんな時に、敵の増援がやってきたのだ。

 通常兵器、そして光学兵器。

 その集中砲火を一身に受けたタカヒロは、最後まで抵抗したものの、このような惨状になってしまった。


 敵から入手したといっていた光学兵器を持ち出したケンシロウたちの反撃によって、なんとかタカヒロを救い出すことには成功したが、その時すでにタカヒロの意識はなかった。

 そのまま最初に出た社まで撤退し、医療手段のないあっちから急遽、こっちに戻ってきた、という事らしい。


 「なるほどな。しかし、タカの魔法や技が通用しないのか……」

 「それなんだけど……」

 「というか、この人、誰?」

 「あ、そうか、忘れてた。この人は」

 「申し遅れました。私は佐竹鉄雄と申します。」

 「あっちの世界の人だよ。タカヒロの救出を手伝ってくれたの。」

 「そうでしたか、タカヒロ様を。」

 「ありがとうございました。タカヒロ様を……」

 「いえ、むしろ私共のほうが、彼に助けられましたので。」


 テツオと名乗った男の人は礼儀正しく正座から平伏して自己紹介をした。


 「しかし、本当に別世界が存在したとは……」

 「あのね、無理に理解しようとしなくてもいいよ。ケンシロウにはありのまま報告すればいいと思う。」

 「わかりましたカスミ殿。」

 「でね、あっちでの事なんだけど……」


 カスミの話によれば、あっちではタカヒロもカスミも本来の力の1割も出せないようだった。

 タカヒロに宿っていた精霊も、力の限りその能力を使ってはいたのだが、それも上手く引き出せないままだったそうだ。

 スターファイターで敵を攻撃した時も、魔法を剣に載せての攻撃は殆ど効かず、魔法そのものも魔術以下の威力しか出ていなかったそうだ。

 その頼みの綱のスターファイターも、信じられないくらいに簡単に折れた。

 端的に言えば、何か力が出せず、抑えつけられていたような感じだ。


 「聞き及んだ限りでは、タカヒロ殿は本来、もっと強かったそうですね。」

 「あの兵器程度なら、剣なしでも一撃で破壊できるはず、だとは思うんだけど……」

 「あの、魔法が通じなかった、という事なのですか?」

 「うーんとね、通じないとうより、魔力がメチャクチャ弱かったって感じかなぁ。」

 「魔法というのは、そもそもどういった力なのですか?」

 「あ、そこから説明しないとね。」


 あちらの世界では、そもそも魔法などは存在しない。

 魔法どころか、魔術でさえ眉唾な手品としか認識されていない。

 それはそうだろう。

 物理法則がある程度確立し科学が常識として認知されている世界だ。

 ともすればそうした人知を超えた現象は「オカルト」として娯楽の対象としか見られていない。


 そんな世界のテツオに、この世界の有り様を説明したものの、まだ理解に及ばないだろう。

 しかし


 「そのような力があるのであれば、いや、その力を本来通りに行使できていれば……」

 「少なくとも、こんな事にはならなかったと思う……」

 「そうですか。信じられませんが、実際瀕死のタカヒロ殿があそこまで治癒されたというのは、そういう事なのでしょう。」


 彼なりに納得はしたようだ。

 が、それをケンシロウへそのまま報告したところで、恐らくはこの人が気がふれた、くらいにしか受け止められないと思う。


 「そういえば、その精霊様たちはどうしたのですか?」

 「それなんだけど……」


 フェスターやムーンをはじめ、力を使い果たして今は休止状態のようだ。

 ほぼ即死状態のタカヒロの生命線を維持していた事も、力の損失に拍車をかけたようだ。

 カスミの依り代であるコロルも、その力を使い果たしている。


 「ともあれ、タカ本来の力が出せない以上、何度向かったところで同じ結果でしかないのではないか?」

 「それでしたら、私達が一緒に行って補助するというのは?」

 「それがね、たぶん、こっちの世界の人は向こうへ行けないかもしれないのよ。」

 「それは、どういう事ですか?」


 私とタカヒロは、そもそもこの世界ではイレギュラーな存在だ。

 基本、あっちの世界とつながりのある者しか世界間の移動はできない気がする。

 事実、こっちからあっちへ行ったという話は皆無だが、あっちからこっち、というのはあのトラもどきやテツオの例がある。

 どうも、こっちの世界こそがそのまま「異世界」という扱いなのかもしれない。


 「しかし、こうしていても事態は確実に進行しているのであろう?ならば、打開策は考えないとな。」

 「現実問題として、向こうへ行けると思われるのはアタシと雪子とサダコだけ、だもんね。もしかするとフランも、かも。」

 「しかも、本来の力が引き出せない、という事は、ワシとカスミもほとんど戦力的には意味がない、という事か。」

 「まずは、その辺を解決しないと、ですね。」

 「シヴァ様なら何かわかるかも知れないが……」

 「かか様になら、わたしが話をつなげられるけど?」

 「おお、雪子、頼めるか?」


 『それには及びません。』

 「エルデ様?」

 「こ、これは、ジーマ様?」

 「ううん、ジーマさんの片割れ、だよ。」

 『ジーマの世界でタカヒロが力を発揮できなかったのは、異世界の力を開放できなかったからなのです。

 それを開放する為の“月の欠片”の力を使えなかったのと、タカヒロに課せられた制限を解除する為の装具が無かったからなのです。』


 月の欠片?

 それは以前、タカヒロがあの天狗から受け取った宝玉のこと?

 でも、あれにそんな力があるなんて、エルデも教えてはくれなかったじゃん。


 『今回、タカヒロは月の欠片を所持していましたが、その力は解放されずにいました。』

 「解放?」

 『はい。少なくとも、月の欠片の力が有効になれば、もう少し本来の力を出せた可能性はあります。』

 「可能性なの?確実じゃなくて?」

 『確実に、というのであればやはりそれ用の装具が必要と言えます』

 「それは、どういう物なのですか?」

 『これはとても難しい問題に発展してしまいますが、サクラ達の助力があれば、それを入手することは可能かと思います。』

 「わたしの助力?」

 『その為にまずは、タカヒロが気が付かないと話は進まないでしょう。』

 「そうなのですか……」

 『今、タカヒロには生きるための血液が足りません。体力を回復させ、話ができるようにすることが最優先となります。』

 「わかりました。」


 血液ったって、この世界で輸血なんて無理だろうし、どうすれば……

 仮にあっちの世界に輸血ができる体制があったとしても、あっちはあっちで血液のストックがあるかどうかもわからない。

 ひとまず、食事ができる状態にまで回復させる必要があるのか、な?


 「ねぇ、テツオさん。あっちで輸血って可能なの?」

 「申し訳ありません。すでに私達には血液のストックが無いのです。まして、適合する血液型の者がどれだけいるかも……」

 「ああ、ごめんなさい、いいの。聞いてみただけだから。」

 「すみません……」

 「というか、テツオさん。お願いがあるの。」

 「何でしょう?」


 「あなたはすぐにあっちに戻って、タカヒロの現状をケンシロウに伝えて欲しいの。そして、タカヒロが元気になったら、再びそちらへ向かうと伝えてほしいのよ。」

 「それは……」

 「うん、言いたいことはわかるわよ。でもね、タカヒロがあっちに行ってブルーを阻止しない限り、どのみちみんな消滅を待つだけなのよ。」

 「そうなのですか……」

 「ごめん、感謝しているけど、大したお返しもできなくて……」

 「そんな事はありません。わかりました。ケンシロウさんに事の詳細を伝え、我らはタカヒロさんを待ちます。」

 「テツオさん、ありがとう。」


 カスミにそう言われ、テツオさんはその日のうちにジーマへと帰っていった。

 報告の後、またこちらへ来ると言って。


 「という事で、私達はタカヒロへ回復魔法と回復薬を投与して、食事ができるまでに回復することに尽力しましょう。」

 「でも、カスミさんも疲労がたまっているようですよ。あとは私達に任せてお休みになってくださいな。」

 「う、うん。やっぱりわかっちゃうよね。ごめん、ちょっと休ませて……」

 「はい、休んでください。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ