第80話 ファースト・コンタクト
渦から出た先は、何かの建物の中だった。
見たことのある様な造りの建物。例えるなら、奈良や京都にある寺、みたいな感じだ。
異様に埃っぽいが、恐らくはあまり人が来ない所なんだろうな。
光が差し込んでいるので中は比較的よく見える。
そう、よく見えるのである。
「で、なんでお前がここに居るんだよ。」
「え、えへへ……」
カスミがいた。
めっちゃいた。
「お前ねー……」
「だ、だってさー……」
「はぁー、まあ、いいけどさぁ、危険だってのはわかってるんだろう?」
「う、うん。」
「まぁ、仕方がないか。正直言うと、心強いって思ってるしな。」
「だってさ、アンタ一人でなんて、やっぱりさぁ。」
「ああ、わかったよ。良くはないけど、ま、ありがとうな、カスミ。」
「……ごめんね。」
まぁ、付いてきてしまったものは仕方がない。
遊びじゃないのは重々承知の上、というか、カスミなりに心配した末の苦渋の決断だろうしな。
とはいえ、ココがどこなのかを、まずは把握する必要があるか。
「なんか、お寺みたいな感じだけど、とりあえず外に出てみよう。」
「ここ、やっぱり日本っぽいね、なんとなく。」
「うーん、そうだと良いんだけど。」
そう言いながら、部屋の隅にあった扉から外に出た途端に
「動くな!」
銃というかライフルらしきものを構えた完全武装の男たちが俺を取り囲んだ。
ビックリして、思わず両手を挙げて動きを止めてしまったよ。
「どこから入り込んだ!ここは立ち入り禁止だぞ!」
いや、そんな事言われても……
というか、日本語、だよな?
「あー、あのですね。」
「お前ら、見ない顔だな。日本人か?」
「一応、日本人です。」
小銃、だよな?
64じゃないよな、89、いや20式か?
ちらっと見えたけど、安全装置は連発の位置にある。
ってことは脅しじゃない、よな。
その銃口をこっちに向けたまま
「日本人なら、どこの地区の者だ。」
地区?
「あの、地区って?」
「どこだ!?」
「あの、ひとまず銃口をこっちに向けるの止めませんかね?怖いって!」
「不審者が何を言うか。どこの者なのかを聞いている。」
えーっと、これはいきなり大ピンチですね。
流石に小銃相手では勝てないと思う、殺される。
でも、こんな所でくたばるわけにはいかないんだが……
「えっとですね、正直に話しますので、まずは銃口を向けないでください。決して、貴方たちに敵対する者ではない事は誓います。」
「ならばまず、お前が人型アーマーでないと証明しろ。」
「は?」
「人間ならばすぐに証明できるだろう。早くしろ。」
「ちょ、ちょっとまってクダサイ!人型アーマーて何だよ?証明ったって、どうすりゃいいんだよ?」
「証明できない、というなら仕方がない。死ね。」
いや、死ねってあなた。
出会いがしらに死ねって、どんな世紀末だよ。
「ちょっと待ってくだ……」
『待ってください、ケンシロウ……』
「ジ、ジーマ様!」
ケンシロウ?
この男、ケンシロウっていうのか?
何だ?やっぱりここは世紀末の世界なのか?
それに、ジーマって、確かエルデの……
『この者はこの世界の者ではありません。ただ、あなた方に害をなす存在でないことは、私が証明します。』
「し、しかし、ジーマ様……」
『タカヒロですね。エルデからの思念は受け取っています。私達の為に、申し訳ありません。』
「ジーマさんって、エルデの……」
『はい、双子の片割れ、と思っていただいて結構です』
「ジーマ様、エルデ、というのは?」
『ケンシロウ、まずはこの者を拝殿の間へお連れしてください。』
「し、しかし……」
『大丈夫です。これは、あなた方の未来にも関わる事なのです。』
「わ、わかりました。」
ケンシロウさんとやらは銃口を上にあげつつ安全ノブを「あ」の位置へ戻し、手を横にふり全員の構えを解いた。
そして俺に向き直り
「信用などはできないが、ジーマ様の言だ。ついてこい。」
「は、はい。」
まぁ、言う通りにしないといけないわな。
大人しくついていくか。
「ね、ねぇ、タカヒロ。」
「何だ?」
「この人たちって、何?自衛隊の人?」
「いや、そんな感じじゃないな。装備はなんというか米軍規格の軍隊のようではあるけど……」
「黙ってついてこい。話はあっちに着いてからだ。」
「は、はい……」
ケンシロウさんとやらに付いて行って、到着したのは拝殿の間という所だった。
というか……
所々見覚えがある場所だ、というか、ここ知ってる場所だ。
もしかしてここ、日光のあそこじゃないのか?
「ここだ。入れ。」
「あ、はい。」
促され入ったのは、少し小さめの社だった。
内部は綺麗にされていて、青白く光る宝玉らしきモノがご神体として祀られている。
『ご苦労様です、ケンシロウ。』
「はッ」
『では、時間もあまりありません。話をしましょう。ケンシロウもここで一緒に聞いていてください。』
「はい。」
そうして、ジーマさんは話し始めた。
『まず、この者はもう一つの地球から、この星を救うためにここへ来たのです。』
「もう一つの地球?」
『あの日、メテオインパクトがあった日に、この世界は二つに分かれました。これについては、以前話しましたね?』
「そういえば……あれは、本当だったのですか?」
『冗談を言う理由はありません。信じられないのも無理は無いと思います。ですが』
ジーマさんはエルデが俺に話したのとほぼ同じ内容の事を、ケンシロウさんとやらに話した。
そして、衝撃的な事実も明かした。
『タカヒロ、このケンシロウは、あなたの子孫です』
「は?」
「え?」
『タカヒロの、17代後の子孫です』
「え?ちょ、ちょっとまって下さい。俺の子孫って……」
『あの日、あなたがエルデの世界へ移送された後、あなたの娘もあちらへ行きました。しかし、息子は残りましたね?』
「娘から、そう聞きました。」
『その息子のヤマトは、妻子とともにあの惨劇を生き延びました』
ヤマトは無事だったのか、そうか……
心の底から安堵した。
というか、それでも、既にもうこの世にはいないのか。
「そ、そうだったんですか……」
「え?何?この人が、俺の……先祖さんだって?」
「えーっと、アンタ名前は?」
「あ、友部 健志郎って言うんだが」
「俺は友部 貴弘……」
「姓は一緒だな。しかし、ご先祖って言われてもな……」
「うーん、俺の子孫か……」
なんか、やっぱり信じられないけど、実際そうなんだろうな。
とはいえ、どんだけ世間は狭いんだ。
よりによって俺の子孫って。
『詳しくはまた別の機会でお話ししましょう。今はあなた方の協力が必要なのです。』
「ジーマ様、それはわかりました。が、この人は俺たちと何を」
『タカヒロはこの世界にはない力を持っています。しかし、その力をもってしても、彼だけでブルーを阻止することはできません。ケンシロウ、あなた方の協力は不可欠なのです。』
「そ、そうなのですか……」
「あー、ジーマさん。」
『何ですか?』
「そのブルーっていうのは、本当は何者なんですか?」
『エルデから聞いているとは思いますが説明しましょう』
ジーマさんはブルーについてさらに詳しい話をしてくれた。
そして
ブルーの下にはその護衛というか実行部隊のような軍隊があるそうだ。
ブルーがすべてを統括し、その軍隊の製造もしているという。
あの、トラもどきはその一部なんだそうだ。
なぜ、そのトラもどきがエルデの世界に居たのかはまた別の話、としてはぐらかされた。
『一番の障壁は、その軍を率いるアトモスフィアです。生物兵器としてブルーが作った人造人間。』
その、アトモスフィアが目下最大の目標という事らしい。
しかし
「アトモスフィア率いる兵器軍は、とてつもなく強大で強すぎるんだ。俺たちが持つ兵器では、足止めにもならない。」
「それって、打てる手立てがないって事なんじゃ?」
「無いに等しい。あの兵器一体を破壊するのに、こっちは100人以上で集中攻撃をかけてようやく機能停止が可能なレベルだ。」
「集中攻撃って?」
「物理兵器、この銃や古い砲弾やミサイルとか、だな……」
「光学兵器とかって」
「それは俺たちは実用化できていない。いないが、向こうは持っている。擱座した兵器から入手し使えるまでになった兵器もあるが、それも限られているんだ。」
「うーん……」
「でも、アンタ、ご先祖さんは旧型とはいえその兵器を一人で屠ったんだろう?」
「そうだけど……旧型?」
「聞いた限りじゃ、かなり旧式の獣型のアーマーみたいだな。それなら俺たちでもなんとか抵抗くらいはできるクラスだ。」
そうなのか、あれが旧型でボロい兵器か……どうもアップデートはかなり進んでいるようだな。
「兎にも角にも、まだ信じられないがご先祖さんは俺たちと共に戦ってくれる、という事でいいんだよな?」
「タカヒロでいいよ。というかだな、そのために俺はこっちに来たんだよ。」
「そうなのか。そういや、自己紹介がまだだったな。俺はケンシロウ、日本地区のレジスタンス幹部だ。主にここの防衛のリーダーをしている。よろしくな。」
「ああ、俺はタカヒロ。別の地球から来た。どれだけできるかは分からないが、やらなきゃこの星が危ないんだ。死力を尽くすさ。」
『ふたりともありがとう、苦労を掛けます。ただ、気を付けてください』
「何を、でしょうか?」
『タカヒロ、あなたが死ねばこの世界、この星は消滅を免れません。すべてが終わってしまいます。』
「責任、重大ってことか……」
まぁ、わかってはいたけど、こうも直接的に告げられるとな。
とはいえ、やるしかないってのも事実だし。
ところで
「ここって、その敵に攻撃されたりはしないのか?拠点、なんじゃないの?」
「この敷地一体は、なぜかあいつらは入ってこないんだ。だから拠点としても避難所としても使えるってことだ。」
「避難所?」
「現状、多くの日本人がここに避難している。」
「それって、どのくらいの人が?」
「およそ三千人だ。」
「さ……」
「こことあと7か所、同じような拠点兼避難所がある。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、今、日本の人口ってどのくらいなんだ?」
「5万人ちょっと、だな。」
「……」
想像以上に酷い状況みたいだな。
そういや、前にエルデが全世界で生存者は数億人とかいってたな。
で、ブルーの台頭で人間が攻撃され始めてさらにその数を減らしている、ということか。
なんてこった。
「今も大陸の方じゃブルーの攻撃によって死者が毎日のように出ている。大陸には、ここのような安全地帯がないらしいんだ。」
「日本は島国っていう地理的条件もあるから、か?」
「それもあるが、さっきも言ったように奴らが侵入できない何か、があるんだろう。」
そんな話をしていると
「ケンシロウ!アーマーが10体、北の山地に飛来した!」
「ちッ、こんな時に……」
「例の兵器、か?」
「ああ、10体って規模は滅多にないんだが。アンタはここで待っていてくれ。排除してくる。」
「待ってくれ、俺も行く。そのために来たんだしな。」
「武器は余分にないんだが」
「俺にはこれがある。これで旧型を破壊したんだしな。」
「剣で、か?」
「ああ。とにかく、行こうか。」
「あ、ああ…」
俺とカスミはケンシロウの後を追って、迎撃にでた。




