第79話 ゲート
長のいる部屋、将軍の間へ入ると、そこには羽織袴というか、昔の日本の殿様みたいな服を着た人が居た。
しかし、チョンマゲではなく、そこそこ長髪のかなりイケメンな人だ。
「久しいな、フラン。息災だったか?」
「お久しぶりでございます、殿もご健勝そうで何よりでございます。」
「して、その者が?」
「その通りに御座います。私の夫になる、タカヒロ様にございます。」
「ちょ!?」
「ふむ、良い目をしておられるが、何か驚いているように見えるが、如何いたした?」
「ジパングの文化が珍しいようで、驚いている次第です。」
「そうであるか。」
「御意。」
「してフランよ、その者があの祠に用があると。」
「御意。」
「あの祠は何人も近寄ってはならぬ場所であるぞ、何故そのようなところに行く?」
「文にて報告致しました通り、あの祠に、この世界の命運を左右する事象が置かれている、とのことでございますれば。」
「なるほどのう。しかし、過去にあの祠に行ってそのまま帰ってきた者はおらぬのだぞ?その様な危険な所に行くと申すか?」
「我が夫タカヒロ様が、この世界を救う唯一の者、そして、あの祠はその為に存在する、とのシヴァ様の言にございます。」
「なんと、シヴァ様が……そうであるか。」
「御意。」
「して、まさかとは思うが、お前も行くつもりなのか?」
「某は祠までの案内人。その先はタカヒロ様お一人で赴く事になっております。」
「ふむう、なるほどのう。タカヒロ殿、とやら。」
お、おう、いきなり話を振られてちょっとビビった。
「はい。」
「そなたはそこで何をしようとしているのだ?」
「正確にはわかりません。しかし、この世界に徒なすモノを止める、それが役目であるとの事です。」
「うーむ、にわかには信じられない事であはるが、シヴァ様とフランの言う事である。真実なのであろうな。」
「はい。」
「あい分かった。行くがよい。関所は通れるよう図らっておこうぞ。して、この町への滞在も許す。」
「有難き幸せ。」
「というかだな、フラン。」
「は!」
「普通に話そうか。僕も疲れる。」
「兄上が宜しいなら。」
「いいに決まってるだろう。」
「はい。」
あ、兄妹なのに妙に硬い話し方だなぁと思ったら、いつもは普通に話しているのね。
「で、タカヒロ殿。」
「はい。」
「帰ってくるんだろう?」
「もちろんです。」
「では、フランとの祝言はその時、で良いのだな?」
「あ、いえ、それは……」
「どうした?何か不味い事でもあるのか?」
「兄上、それはまだ気が早いというか時期尚早、待ってて。」
「気が早いも何も、こういうのは早い方が良いだろうよ?」
「でも、私の都合もあるし……」
「う、うむ、そうか。まぁ、余はいつでもできるように準備はしておこうぞ。」
「兄上、ありがとう。」
フランの兄、殿様か、なかなか話が通じる王様のようだな。
もっとも、兄妹だからこそ、なのかもしれないけども。それより、だ。
「あのさ、フラン?」
「申し訳ありませんタカヒロ様。あのようにしておかないと、話が滞ると思いましたので。」
「いや、そ、そうか。」
「不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。」
「いや、不快じゃないよ、全然。というか、なんというか、その、むしろ嬉しいよ。」
「タカヒロ様……」
「なし崩し的ってのは良くないし、きちんとしたい。まぁ、後の話は帰って来てからにしようか、ね。」
「はい!」
その日はそのまま休む事になり、翌日、その祠、つまりゲートへと向かった。
石でできた祠はそのまま洞窟のような所に繋がっていた。
その最深部。
見たことのある、時空の渦のようなもの。天狗のおっちゃんの所にあった、あの渦と同じだ。
こっちはあれよりもだいぶ大きくはっきりとしている。
「いよいよ、だな。」
「タカヒロ……」
「心配すんなカスミ。大丈夫だよ。」
「だけど……」
「タカヒロ、私はここでずっと待っているからね。だから、帰ってきてよね。」
「リサ、ああ、わかったよ。すぐに帰ってくるさ。」
「くれぐれも気をつけてな。一度きりのチャンスではないはずだ。危険と判断したら、一度引くがよいと思うぞ。」
「ジャネットさんも、ここまでありがとう。」
「何を言う。これからも、だぞ?」
「あはは、そうですね。」
「タカヒロ様、その、ずっと待っています。」
「フラン、ありがとう。待っててくれ。」
昨日までの緊張感や震えは、いつの間にか無くなっていた。
俺の深層心理も、覚悟が決まったという事なんだろうか。
みんなが俺を心配してくれている、というか信じて待ってくれている。
ジャネットさんが言う通り、危険なら逃げて出直せばいい。
まだそれだけの時間的余裕はあるだろう。
そして、意を決して
「じゃあ、行ってくるよ。」
渦に向かって歩き出した。




