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第77話 ロクテュプルマリアージュ

第六章最終話になります。

 人間と魔族の歴史的会談から、はや10日が過ぎた。

 もう既に細々とではあるが、民間レベルでの交流は始まっていた。

 意外に、というか、地理的条件でというか、エスト王国での交流が顕著だった。


 魔王が門の所に迎賓館を建設したことが大きな要因ともいえるが、未だ結界は通行不可としている事も理由だ。

 魔族からすれば問題ないのだが、まだ軋轢が残っている現状ではこの方が良いとの魔王の判断だ。

 もっとも、結界の解除の方法は誰にも分からないらしい。

 シヴァか、あるいは姫神子ならば、という話もあるらしいが、雪子によればシヴァでも分からないらしい。

 とはいえ、ここから徐々に蟠りも解けて、種族間交流が盛んになればいいな。


 これで、この世界の心配事は一つ片付いた、と言っていいかもしれない。

 ブナガ国王、ヨシム国王、ラーク、この3者の手腕なら、悪い方向へ行くことはないだろう。

 もとより、魔王主導で魔族側が平和主義寄りに導いてくれると思うしな。

 500年の時を経て、ようやく勇者が望む世界への足がかりができた、って事だな。


 そうなると、俺がすべきことはあっちへ行くことに集約される。

 いよいよ、この星の未来を拓く為に行動すべき時がきた、と言える。


 で、だ。


 悩んだよ、そりゃあすごく悩んだ。

 とはいえ、俺が決断する前にこうなってしまっては、それも無駄な悩みでしかなかった。


 明後日、俺はラディアンス王国の王城にて、結婚式を挙げることになった。


 まぁ、いままでできなかったので丁度いいタイミングではあるのだが。

 問題は、サクラとローズ、だけでなくカスミ、リサ、アルチナ、シャヴィ、サダコ、ピコ、と。

 要するに8人全員との結婚式、という事だ。


 既にラディアンス王国内では知られている事なので、国内で済ます分については問題は、たぶんない。

 が、国外からの来賓を招くと、これが今の微妙な時期にどう影響を及ぼすかは未知数なのだ。


 何しろ、リサは人狼族の姫と言えるし、アルチナは魔王の娘、つまり魔族の姫だ。

 シャヴィに至っては、未だ接点のない龍族の姫ときた。

 カスミとピコ、サダコは言われなければ人間と同じなので、こっちはまぁ、いいとしても、だ。


 そういう事情も鑑みて、ほぼ内々で行おうと進言はしたものの


 「いやぁ、各国の王や首相はぜひ参加したいときかなくてさ。」


 とはラークの弁だ。

 それぞれの首長にはそれとなく俺と魔族の娘が、という話は伝わっている。

 というか、どの国にも諜報機関は存在するので知っているとは思っていた。

 まぁ、その辺はさすがの王様達なので、式には参加はするが来国の名目としては国交樹立の祝賀会として参加する、と表明した。

 気遣い、というよりも先を見据えた外向的な戦略、という面もあるんだろうけどね。


 という事で、俺は晴れてみんなと結婚式を挙げる事になった、のだが。

 俺の悩みは別の所にあった。


 せめてあっちの世界へ行って、帰ってきてからの方が良いと、やっぱり思ってしまうからだ。

 あっちへは俺一人で行くことになる。

 そして、返ってくる、というか生き残れる確率は50%程度。

 という事は、あの子たちが結婚早々未亡人になる確率も同じ、という事だ。

 前にカスミとはそういう話はしていたものの、やっぱり俺としてはどっちがいいかは判断しかねるわけだ。


 マリッジブルーなんてモノとは比べ物にならないプレッシャーだよな。

 マリッジブルー知らんけど。


 そんなわけで、俺は今一人で城の塔の上にいる。

 ここは考え事をするには丁度いい場所なんだ。


 「やはり、こちらにいらしたのですね。」

 「サクラ。」

 「タカヒロ様はここが好きなんですか?」

 「あ、ああ、そうだな。何となくだけど、ここは落ち着くんだよ。」

 「うふふ、お父様と同じですね。」

 「そうなのか?」

 「はい。お父様もよくここで考え事をしていました。」

 「そう、か……」

 「……タカヒロ様。」

 「ん?」

 「まだ、迷っていらっしゃいますか?」


 真剣な、それでいて優しい眼差しで、そう聞いてくるサクラ。

 サクラ達に不安を抱かせるのは本意じゃない、けど。


 「……迷っている、訳じゃないな。サクラ、本当の事を言うと、俺、怖いんだよ。」

 「怖い、ですか?」

 「ああ、怖いな。この星の未来、俺が帰ってこられるか、というのもあるけどさ。」

 「タカヒロ様……」

 「一番怖いのは、お前たちを残してしまったら、と思うのが一番怖い。」

 「それは……」


 「あるかどうかもわからない闘いに挑むのは、別にいいんだ。そんなのは気にならないんだ。でも……」

 「タカヒロ様。」

 「え?」

 「私も、一度そのようにあなたを置いて、悲しませてしまいました。ですから、そのお気持ちは痛いほどわかります。」

 「サクラ……」

 「でも、あなたは、必ず帰ってくる、必ず、私の、私達の元へ帰ってきてくれると信じています。」

 「…………」


 「もし、あなたが帰ってこなかったとしても、私達は、悲しみはしますが、むしろ誇りに思いあなたを慕い続けます。」

 「サクラ。」

 「ですから、私達の事は、心配しないでください。これでも、私も強くなったんですからね。」

 「そう、そうだな、うん。」

 「それに……」

 「うん?」

 「あなたは、この子の顔を見る責任がありますのよ?必ず、返ってこなければいけませんよ?」

 「この子?」

 「はい。」


 そう言って、サクラは自分のお腹を撫でた。


 「え?じゃあ、サクラ……」

 「はい。」


 思わず、サクラを抱きしめた。

 自然と、涙があふれてきた。

 こんな土壇場で、生きて帰らなけりゃならない理由がまた一つ増えた。


 「ちょーっと!ちょっとちょっと!」

 「マジ?マジなの?」

 「サクラ様、本当に?」

 「うむぅ、先を越されたか。」

 「え?サクラお母さんになるの?」

 「うわー、すごーい!」

 「うむ、まぁ、こうなるであろうな。」

 「赤ちゃん……」


 君ら、ずっと見てたのね、そこで。



 そして、祝言当日。

 来賓は、各国首脳とそのお付きが一人ずつ。

 そして、ここには魔王と魔王の奥さん、エイダムの姿もある。

 龍族代表としてマリューさんの姿もあった。

 ピコの両親、ジャネットさんまで出席している。

 そして


 「おお……」


 人間側の首脳陣が驚きの声を上げたのは


 「姫神子様だ……」


 ミトが来ていたからだ。

 もちろん、ミトが俺の娘という事は彼らは知らないし、知らせる事はしない。

 姫神子が誰かの結婚式に出席するなど、あり得ない事なのだ。


 そもそも、国王レベルの人くらいしか、姫神子の顔は知られていない。

 口をきいたものすら、国王の中でも数えられる程度の人だけだ。


 人間、魔族、龍族、姫神子。

 過去、これだけの種族が、人々が、一堂に会する事はなかっただろう。

 しかも、それがただの一般人のお祝いに。

 この祝言が、ただ事ではない事はこれだけでも充分理解できるだろうな。


 滞りなく祝言の儀は進められた。

 美しく着飾ったサクラ、ローズ、カスミ、リサ、アルチナ、シャヴィ、ピコ、サダコ。

 サクラとローズはそのまま、その他は皆人間形態だ。

 花嫁衣裳は純白のウェディングドレスではなく、この地方の伝統的な花嫁衣裳なんだそうだ。

 これはこれで、とっても美しかった。


 俺はミトの提案で羽織袴だ。

 これは俺の国の婚姻衣装だと言っておいた。

 フランは知っているようで、カッコいいと言ってくれた。

 みんな、嬉しそうに微笑み、うれし涙を流してくれた。

 俺は、この笑顔と涙に応えようと、決意を新たにしたんだ。



 そんな祝言から1週間後。

 いよいよ、ゲートへと向かう日となった。


次回より第七章突入です。

物語はいよいよ佳境に入ります。

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