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第75話 ピコの想い


 翌朝。

 魔王城を目指して出発した。


 一日置いて途中の中間地点にある街に到着した。

 ひとまず宿に入り、一休みしている時だった。


 「タカヒロー!いるかー!」


 どうやら魔王が来たようだ。


 「魔王、どうしたの?」

 「おお、タカヒロ、実はな。」


 聞くと、人間のラディアンス王国から特使がやってきて、今週そこの王が会談にやってくるそうだ。

 もちろん、それはラークなんだけども、意外に早く算段が付いたんだな。


 「でな、この前お前が言っていた、会談の内容なんだがな。」

 「ほう?」

 「特使の話では、国交樹立に向けた条件内容の摺り合わせをしたい、という事らしいのだ。」

 「へえー、思い切ったな、ラークも。」

 「それは良いのだが、国交を開くと言ってもだな、こちらとしてはどうすべきかをちょっと考えあぐねてな。」

 「なんで?貿易でも人員交流でも、なんでも確約すればいいんじゃないの?」

 「いやいや、それはどのみち話し合いはするんだが、問題はお前とアルチナの事なんだよ。」

 「あ。」

 「な。国交樹立は良いんだが、ついでにお前たちの婚姻を大々的に知らしめても良いかどうかで、な。」

 「あー、なるほどなぁ。魔界側としてはどうなの?問題ないの?」

 「こっちは問題ないが、人間側がどう思うかはまた別問題だろうよ。」

 「うーん、なるほど。」


 人間側では、まだ魔族との交流などという段階ではなく、魔族への誤解をどう解くか、という段階のはずだ。

 それにはまだ時間はかかるだろうし、誤解が解けないままそんな人間と魔族の婚姻とか、公表もできないだろう。

 ん?

 いや、

 ちょっと待てよ。


 「あのさ、別に今回のその会談でそれも議題に上げちゃえば良いんじゃないの?」

 「というと?」

 「俺とアルチナの事を議題に載せた事を公表しちゃえばいいし、それなら人間側としては納得するんじゃない?」

 「ま、まあ、そうだな。」

 「だけどさ、ひとまず今回の会談は、その場を設ける事が第一の目的なんだし、色々詰め込みすぎても良くないんじゃないの?」

 「そうか。ちょっと焦りすぎかもな。その話は無しにしておくがよいか。」

 「だけど、エスト王国とも話はしないといけないんじゃなかったっけ?」

 「ああ、そっちは既に終わっている。」

 「はい?」

 「あのエスト王国の王、何といったか、あいつは結構な食わせ物だぞ。」

 「あー、なんとなくわかるが、そっちの展開も意外に早いな。」


 俺たちがこの星の危機に対してあれこれしている間に、ずいぶんと各国は行動していたんだな。

 何となくだけど、シムネ王辺りが暗躍してくれている気がする。

 サクラもローズも、同じことを思っていたようだ。


 「でも、私達のこの先の事は、まだ言えませんね。」

 「そうだな。混乱に拍車がかかってしまうな、というか、パニックになる。」

 「ま、そっちの件はラーク、というよりシムネ様に当面任せておけばいいかもね。」

 「そうだな。で、魔王。」

 「ん?」

 「その会談には、俺たちは居ないほうがいいんだろ?」

 「公式の場ではな。裏なら別に会う事に問題はないであろうな。」

 「ごめん、気苦労かけちゃうな。」

 「ははは、良いって事よ。こういうのも、楽しみの一つだからな。」


 そう言って、魔王は帰っていった。

 色々と考えすぎて、また眠れなくなるな。


 温泉で疲れと汚れを落とし布団に入るが、やはり眠れない。

 ふと、窓から外を見ると、宿の前にある噴水の所に人影があった。


 「ピコ。」

 「あ、タカヒロ。」


 そこにいたのはピコだった。

 眠れないのか、物思いにふけっていたのか、ぼーっと月を眺めていた。


 「眠れないのか?」

 「うーん、そんな所かな。」

 「ピコ。」

 「ん?」

 「なんだ、その、色々と巻き込んじゃって、ごめんな。」

 「なんで?謝る事ないよ?」

 「それでもさ。」

 「タカヒロは、あの時わたしを助けてくれたでしょ。

 でも、ね、私はタカヒロをどうやったら助けられるのかな?どうやったら恩を返せるのかな?って思ったらね、眠れないの。」

 「ピコ、それで昨日も眠らなかったのか。」

 「あはは、さすがに昼寝はしたけどね。」


 「あのさ、ピコ。」

 「なあに?」

 「ピコは、お父さんとお母さんとで、幸せに暮らしたいんだろう?」

 「そうだね。でもね、いつかはお父さんとお母さんの元を離れて、独り立ちしないといけなんだよ。」

 「そうか。」

 「だけど、わたしはね、タカヒロと一緒に居て、タカヒロに恩を返したい。今はそれしか考えられない、かな。」

 「ピコ。」

 「迷惑、かな?」

 「ピコ、俺はさ、お前に危険な目に会ってもらいたくない。悲しみや苦しみなんて味わってほしくない。」

 「……うん。」

 「でも、それでも、だ。ピコには傍にいて欲しいと思っている。」

 「タカヒロ……」


 「初めて会った時の事、覚えてるか?」

 「助けてくれた時だね。」

 「ああ、傷ついたお前の怪我を直してさ、もうこんな怪我なんてさせたくないって思ったんだ。」

 「……」

 「それは今でも同じでさ、お前に怪我一つさせたくない。」

 「それは、どういう……」

 「だからさ、その、お前を守りたい。お前の傍にいて、危険から守りたい。」

 「タカヒロ……」

 「だから、その、俺の傍に、ずっといてくれないか?」

 「……うん!」


 ピコは俺に向かって飛び込んできた。

 そんなピコをがっしりと抱き留め、キスをした。

 唇を離したピコは、笑顔で


 「えへへ、こうなると思ってた。私は執念深いからね、もう、離れないよ。」

 「何を言う、離すつもりはないし、離れたら捕まえに行くさ。」

 「ありがと、大好き。だから、絶対死なないでね。」

 「ああ。」


 ふと宿の方を見ると、窓々にみんなの顔が見えた。

 バッチリ見られてたみたいだな。

 みんな、ピコを祝福してくれているみたいだ。

 お前も、みんなから愛されているんだな。


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