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第71話 鬼教官 ミト


 「もう!違うっていってるでしょ!パパのバカ!」

 「バカって、お前……」


 お怒りのミトが怖い。

 俺、何もしていないのに……。


 「何もしてないからでしょ!」

 「う、うん……」

 「ほら、もう一度、集中して!」

 「はい。」


 今、俺は胡坐をかいて合掌している。

 思考を無にして、魔力を消して、力を抜いて、ただし目をしっかりと開けて。

 目から入ってくる情報を処理しつつも、思考はゼロに。

 ゼロに……ならない!


 「ほら!また!」

 「すみません!」

 「もう一度!」


 そんな事言われましても。

 いや、弱音を吐いている場合じゃないな、うん。

 集中しましょ。

 そうしましょ。


 とはいえ……



 「しかし、姫神子様とやらは厳しいな。お母さまより厳しい。」

 「ふむう、指導の仕方は上手なんじゃが、いかんせんヌシ様がアレだからのう。」

 「タカヒロ様。やっぱり。すけべぃ……」

 「スケベというよりは欲深い、よね。」

 「でもでも、男だしお腹空いてるし、あれは私でも無理かも。」

 「タカヒロ様、僕は応援してます!ガンバ!」

 「姫神子様、ボクの時より怖いし厳しい……」


 ギャラリーがうるさいが、まあいいや。

 俺は今、修行中なのです。


 昨日の朝から、何も口にしておりません。

 そんな空腹状態なのに。

 目の前には、大好物の焼いたお肉が鎮座しております。

 いい匂いが漂っています。


 そして、その先には。

 蠱惑的な、煽情的な、とても魅力的な衣装を身に纏った女性が3人、恥じらいながらこちらを見ています。

 とっても眼福でございます。

 もはや女神様です。

 目を開けば目の前にいるのですから、イヤでも視界に入ります。


 この状況で、思考を無にせよ、と?

 ミトさんや、これは修行ではなく拷問では?


 という事を、昨日から続けている。

 これだけでも苦行なのだが、この修行はまだ先がある。


 心と魔力を無にした状態で、お肉様と女神様たちの間に横たえてある剣から魔法を放ち、剣の右にある蠟燭に火をともす。

 これを、精霊たちの助力なしで、だ。


 理屈すらわからないプロセスを自分で構築しつつ、しかし思考はしない。

 矛盾だらけの難題だ。


 しかし、ミト曰く


 「魔法は直感でしかもその先を読んだ最適なものを、どんな状態にあってもリモートでも放てるようにする。

 これはパパには必須の最低限の技術です。

 さらには魔力を体力へと変換する方法も、その逆も必要なんです。」


 無意識に発動した、あのブラックホール。

 あの手の技を、コントロールした状態で任意に、自在に行使できるようにならないといけないらしい。


 ちなみに、現時点で魔法の能力に関してはアルチナを遥かに超えているらしい。

 それが精霊のサポートで増幅されているのだとか。

 が、コントロールがまるで素人だとミトに指摘された。

 そりゃそうだ、素人だもん。


 しかし、それでは足りないらしい。

 あのトラもどき程度、一発の魔法で粉砕できないと、この先はかなり厳しいらしい。

 それだけの大きな障害に挑むわけだ。

 それはすなわち、この星、人達、なにより自分の命を守る為の力が絶対に必要、という事だ。


 とはいえ、その一歩目でこの体たらくなのである。

 まぁ、真剣味が足りない、と言われればそうなんだろうけども。

 いや、うん。拘泥している時点でダメなんだな。

 寒い中、バニーガールと化しているサクラとアルチナとリサにも申し訳ないしな、うん。

 集中、集中……

 この修行は3日間続いた。





 久しぶりののんびりした時間。

 庭園の一角で、椅子にもたれかかり紅茶を嗜む。

 お日様が暖かく、そよぐ風は優しく通り過ぎていく。

 ここには俺とミトの二人だけだ。


 「しっかし、よくクリアできたねパパ。」

 「まー、なんとか、なぁ。」

 「私は絶対無理かなーと思ってたけどさ、まさか3日で会得できるなんてね。パパ、普通に凄い。」

 「だってお前、俺も必死なんだぜ?」

 「必死だから会得できるってもんじゃないのよ、アレ。私は5年かかったんだから。」

 「お前も凄いじゃんか。」

 「まぁ、私も必死だったからねー。」


 ミトがこの世界へ来た経緯は先日聞いた。

 最初にカスミと話をした時に、フォローって言っていた。

 そのフォローってのは、あの時話してたことをヤマトとミトに説明する事だったそうだ。

 が、ミトは幽体で掴めないはずのカスミをがっしりと掴み、自分も連れてけ!とすごい剣幕で迫ったのだとか。


 カスミはその依頼主に助けを求めた結果、ミトもこっちへ飛ばされることになったそうだ。

 しかし、すでに力を使った後だからか、コントロールを誤って今から120年前の時間軸に来てしまった。

 その後、その依頼主の計らいでシヴァの元で魔法を習得し、先代の姫神子の元で修行して今代の姫神子になったんだそうだ。

 シヴァの元に居た事、姫神子になったことで、身体の成長というか代謝は止まり、以来歳をとっていないのだとか。

 ちなみにその依頼主というのは、他ならぬエルデだった、と。


 で、息子のヤマトはこっちへ来ることなく、あの時間軸に残ったそうだ。

 嫁も子供もいるから、と。

 当然なんだけど、親父としては寂しいが、誇らしくもあった。

 もう、ヤマトは家族を守る男になっていたのだから。


 「無事だといいなぁ、とは思っちゃうな、やっぱり。」

 「……そうだね。」


 それは叶わぬ願いだという事は理解している。

 天災どころじゃない、破壊そのものが全世界に降り注いだんだ。

 どう考えても、だよな。


 「さて、今日はゆっくりしよう。明日から、バリエーションの特訓だよ。」

 「ああ、そうだな。ところでさ。」

 「なあに?」

 「あの“技”ってのは、結局何なんだ?」

 「それねー、言い換えると“スキル”ってやつかな。この世界で使える人間はまず居ないよ。」

 「スキル?あの、よくアニメとかゲームで出る奴か?」

 「うまく説明できないんだけどね、超能力って言った方がしっくりくるかな。ここでは私とパパ、あとはちょっとだけ、だけどラファールだけが使えるみたいだね。」


 「ラファールもか。あいつ、実はすごく優秀なんじゃないのか?」

 「あの子はマジで優秀だよ。私の次の姫神子候補だね。」

 「姫神子候補て、あいつ男だろ?」

 「ふふーん、すでにこの世界はジェンダーレスなんだぜ?」

 「そ、そうなのか。」

 「もっとも、あの子はもうアレでしょ。男の娘だし。」

 「あー、そうだな。」

 「何、もしかして迫られた?」

 「積極的に、な。」

 「手、出したの?」

 「するかよ。俺はノーマルだ。」

 「あはは、そうだね。でもさ、気を付けなよ、ファルクもそっちだよ。」

 「知ってる。」

 「あ、やっぱり。」


 午後にサクラ達とアインフリアンの街を見て回ることになっている。

 それまで、ここでミトとまったり過ごすこととした。


 ミトとゆっくり過ごした後、昼食がてらみんなで街に繰り出した。

 俺とサクラ、ローズ、カスミ、フラン、サダコ、シャヴィの7名だ。他のメンバーは宮殿で何か用事があるとかで来られないとの事だ。


 アインフリアンは小さな都市だ。性質上、来訪者向けの店は殆どなく、住民生活がメインの商店が多い。

 街を見ながらどこで昼飯を食べようかと思案していると、あの入城時に先導していたいけ好かない態度の神官のじいさんにであった。


 「ふん、貴様らか。」

 「こんにちは。」

 「何をしておる?」

 「いやぁ、どこかで昼食を、と思って探しているんですよ。」

 「何じゃと、宮殿の食事は合わぬというか!」

 「いえ、宮殿の食事は大変美味しいんですけど、せっかくなので街を見学がてら外食しようと思いまして。」

 「何たる事か!外食じゃと?」

 「はい。」

 「貴様ら、ならばどういうのが好みなんじゃ!?」

 「うーん、特にコレ、というのは無いですね。できれば、アインフリアンならではっていうのがいいかなぁ、と。」

 「何じゃと!ならばこの先に赤い布を垂らした食堂がある。そこならそういうのが食せるじゃろう。」

 「この先?」

 「そこは姫神子様がお忍びで行くほどの店じゃ。」

 「おお!」

 「街中で騒ぎなど起こしたら消し炭にしてくれる。さっさと行け!」

 「ああ、ありがとうございます。」

 「待て!貴様ら!」

 「はい?」 

 「これでも持っていけ!」


 神官のじいさんは何やら紙切れを手渡してきた。


 「若干お得になる“くーぽん”なる手形じゃ。ちなみに、お勧めは“えびちり”という料理じゃ。」

 「あ、ありがとうございます。」


 そういって、神官のじいさんは去っていった。


 「あのおっさん、口が悪いだけみたいだな。」

 「意外と面倒見の良い人のようですね。」

 「最初にあった時よりイヤな気は感じなかったね。」


 あの神官のじいさん、あれが普通なんだろうな、きっと。あれだといろいろ苦労してんじゃないのかな。

 ま、それよりもメシだメシ。

 言われた通りそのまま進むと、赤い暖簾のかかった店についた。

 ……赤い暖簾。

 それには「中華飯店 来々軒」と漢字で書かれていた。


 「…………」

 「タカヒロ、これ、普通に町中華だね。」

 「何じゃ、ここは日本じゃったのか?」

 「あの、タカヒロ様、これは何て読むのでしょうか?」

 「中華。美味しい。好き。」


 これは、あれだな。ミトの手がかかっているな、きっと。

 たぶん、料理は中華に似た何かだろう。


 「いらっしゃいませー。」


 チャイナドレスを着た元気な女性が来た。


 「何名様ですかー?」

 「えーと、7名です。」

 「では、こちらが空いてますのでそちらへどーぞ!」


 大きな円卓に通された。何というか、町中華というか、どこぞの中華街の店みたいな感じだ。


 「こちらメニューです、お決まりになりましたら、お呼びくださいね!」


 なんというか、異様にテンションが高いな、この人。


 「あー、すみません、なにかお勧めとかありますか?」

 「それでしたら、今日のランチがお勧めですよ!今日は点心メインで飯モノは少な目ですが、その分お得感がありますよ?」

 「ランチなんてのもあるのか。あ、じゃあ、それを7人分お願いします。」

 「承りましたー!」


 と、待つ事10分くらい。出てきたのはマジで中華料理だった。

 とはいえ、食材等はやはりモノホンではないが、盛り付け、味付けはまんま中華である。

 そして


 「「「うんまー!」」」

 「「美味しい!」」

 「ほう!」

 「絶品。」


 とても、いや、かなり美味だった。

 薄くもなく濃くもなく、一点毎に味の方向が違って自然と味変になり、それでいて品数が多い。

 これほどの料理をこの短時間で、しかもランチ扱いで出す店って、凄ない?

 食後のお茶を注ぎに来た、あの女性に向かってご馳走様を言った。


 「いや、とても美味しかったです。」

 「でしょう?うちのダンナの料理は姫神子様も太鼓判を押すほどの腕なんですよ。実を言うとね、料理も店の内外装も、全部姫神子様が助言してくれてねー。」

 「姫神子様が?」


 あいつ、元々中華も好きだったからなぁ。

 というか、何やってんだよミト。

 まぁ、美味しかったから結果オーライだけどな。


 「あ、それとこんなの頂いたんですけど、使えます?」

 「あ、これ……」


 さっき神官のじいさんからもらったクーポンだ。


 「お客さんたちは宮殿関係者でしたか!失礼しました!」

 「いや、関係者ではない、こともないですが……」

 「あ、姫神子様のお客様って、お客様達だったんですね!では、お代は半分で結構でーす!」

 「半額?」

 「はーい!」


 安い!安すぎる!大丈夫か、この店。


 「ありあとーざいあしたー!さいつぇん!」


 店を後にして宮殿へと帰る事にした。


 「いやぁ、美味かったなー。」

 「タカ、あれはどこの国の料理なんだ。初めて食べたが、とても美味かったな。」

 「タカヒロ様の国の料理なのですか?」

 「いや、俺の国ではないけど、そうだな、日本人に寄せた味付けではあったな。」

 「日本人?」

 「ああ、俺の国の人の呼称だな。」

 「でも、マジ中華だったよねー。」

 「ワシも初めて食べたが、美味じゃったのぅ。」


 その後、皆にその中華の話をしたところ、全員が


 「食べたい!」


 となったので、翌日朝に予約を入れて夜に行くことになったのだ。

次回投稿は仕事の都合により週末になりそうです。

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