第70話 真実
「さて、パ……皆様にここへご足労していただいたのは、真実とこれからを知って頂きたいからなのです。」
「ちょっと待ったミ、姫神子様。」
「姫神子様、タカヒロ殿、進言よろしいでしょうか。」
「「 ん? 」」
いぶし銀の大神官様は、話をぶった切り
「不躾ながら、その、今ここでは普通に呼び合った方が良いと思います、よ?」
と言った。
「そ、そうですね。」
「そ、そうだな。で、だ、ミト。ご足労って、俺たちは勝手にここに来たんだが?」
「あのね、シヴァ様がここへ、と言ったんでしょう?」
「そうなんだけど…」
「この星が、そうアドバイスしたのよ。もちろん、それは私にも届いていたの。」
「そういう事か。わかった。話の腰を折ってスマン。」
「いいよ。それで、まずは、今この星に何が起こっているか、を説明します。」
ミトが話した内容は、到底考えられない、信じられない話だった。
今、この地球は、『半分』なんだそうだ。
あの流星群衝突の衝撃により次元時空が極端に変動し歪み、理屈はわからないがこの星の世界は二つに分裂したんだそうだ。
憶測にはなるが、星は二つの世界に分ける事で、どちらかでも助かる道を残そうと考えたのではないか、という事らしい。
同じ空間に二つの世界。
異世界でもなくパラレルワールドでもなく表裏一体でもない。
ありえない現象。しかし、確実に存在しているのだそうだ。
そして、こことは違うもう一つの地球とその世界。
そこも同じく消滅の危機が迫っているらしい。
さらに、お互いの星はその力を奪い合う形となっていて、分裂したままではこの流れを止めることは不可能なのだと。
「それって、どうやって知ったんだ?」
「この星そのものが、私に話してくれたの。」
「あの“声”か……」
すると、突然、その声が響いた。
『ごめんなさい、このような複雑な手段を取らざるを得なかったのです。』
「この声……」
『ここからは私が話をします。私はこちらの地球の意思、エルデと申します。』
「エルデ?」
『二つに分かれた地球の一つ、と思ってください。そしてもう一つの地球は“ジーマ”と呼んでいます。』
「そっちにも、あなたのような意思があるのですか?」
『そうですね、その通りです。しかし、ジーマは意思も含め、あるモノに浸食されています。
その為、ジーマの自由意思による星の融合が出来ない状態になっているのです。』
あるモノ?
『その“あるモノ”は、こちらにも浸食の手を伸ばそうとしていますが、その目的は実は、私達と同じ、星の融合にあります。
ただし、それは星に住む生命は視野にありません。地上の生命のことなど関係なく、自身の存在維持のみを目的としているのです。
私達地球は、地球に生きる生命を守りたいと考えています。しかし、その“あるモノ”は全く逆の思惑なのです。』
にわかには信じられない話ではあるが、引っかかる事も事実としてあった。
あのトラもどきの件だ。
「エルデさん。」
『なんでしょう?タカヒロ。』
「その“あるモノ”とは、いったい何なのですか?それに、ジーマの世界って、ここと同じ文明レベルなんですか?」
『“あるモノ”とは、貴方たちが良く知る“人工知能”から派生し進化した人工生命体ともいうべき存在、その名は”ブルー”と呼ばれています。そして、その事からわかる通り、機械化文明の側面が発達しています。』
「そういうことか……」
『さらに言いますと、あの日からこちらは12,000年後ですが、ジーマ側ではまだ500年後です。』
「え?時間の流れが違う、という事ですか?」
『理由はわかりませんが、概ねその通りです。』
つまり、あのトラもどきはあっちの世界のモノという事だ。
という事は、あっちの世界とこっちの世界は何らかの方法で繋がっている、という事でもあるわけだ。
自由に行き来できるかどうかはわからないが、事実としてあっちの物体がこっちに来た。
この時点で、何となくだが俺がこの後何をすべきかが見えてきた。
「あの、エルデさん?」
『はい。』
「状況は概ね理解できました。その上で、俺はどうすれば良いのですか?」
『察しが良くて助かります。今、あなたが考えている事ほぼそのままです。』
「まじか……」
『当然ですが、命の保証は出来かねます。しかし、その力を持つ者はあなた以外存在しないのも事実なのです。』
「……マジ、か……」
『あなたにココにきてもらったのは、あなたの生存確率を可能な限り上げるため、そして、ブルーを確実に活動停止にしていただくため、力の底上げをしていただきたいのです。』
「……」
『あなたにお願いする事しかできない、頼りない私を、許してください。』
「いや、許すも何も、地球あっての命です。俺たちが感謝すれど、あなたに謝られる理由はありません。とはいえ……」
『ありがとう、タカヒロ。』
「俺にそのブルーを活動停止にすることはできるんですか?」
『可能性はあります。それも、確率的には半分ほどもあります。』
五分五分か。なるほど。そこから少しでも確率を上げれば、という事か。
「わかりました。エルデさん。どこまでできるかは確約できませんが、やりましょう。」
『ありがとうございます。』
「それで、あっちへ行くにはどこか通り道があるはずですよね。」
『あります。ただ一か所、“ゲート”が繋がっています。』
「では、準備が整い次第、実行しましょう。」
『その時は、私が空間転移の補助をします。』
「わかりました。」
『それでは、また』
声は聞こえなくなり静寂が部屋を支配する。
えらい事になったな。
星を救う、なんて。
まいったな、こりゃ。
「パパ……」
「まぁ、やるしかないか……」
話を聞いていた皆を見る。
皆悲痛な表情だ。
「みんな、聞いてたよな。」
「…………」
「大丈夫、だとおもう。この星、そしてみんなは、かならず救うよ。だから、そんな顔……」
「違うのよ!」
「ローズ?」
「私達が助かっても、貴方は死ぬかもしれないんでしょ!?そんなの!」
「ばか、俺は死ぬつもりはないぞ?」
「でも……」
他のみんなも同じ事を考えているのだろうか。
サクラもローズも、目に涙を浮かべている。
アルチナやシャヴィ、リサも同じだ。
「まだ時間はある。行く前に少しでも生き残れるように鍛え、力を付ける。それが、今俺が全力ですべき事だ。」
「……」
「みんな、協力してくれるかな?」
「「「「「「 当たり前よ! 」」」」」」
「ありがとう、みんな。」
「パパ、新しいママはみんな素晴らしいママだね。本当のママと同じくらい好きかも。」
「ああ、そうだな。」
もう、大切な人たちを失いたくない。
助けられるはずの命を、傍観して手放したくない。
決意は固まった。
今はそれに向け、日々全力で邁進するだけだ。




