第69話 再会
第6章突入しました。
ファルク達の到着の翌日。
早速俺たちはアインフリアンへと出発した。
ファルク達は長旅の後なので、もうちょっと待っても良かったのだが
「心配いりませんよ、タカヒロさんの為なら僕達は疲れ知らずです!」
と、目を輝かせていたのだ。
まぁ、ありがたい事なんだけど、その眼差しはちょっと怖いからやめてくれな、ファルク。
それに、ラファールはもう浮かれまくっていたし。
聞けば、ラファールはアインフリアンの姫神子様の元で修行していたらしい。
なので、いわばある意味里帰りなんだそうだ。
こいつはこいつでアルチナに匹敵するほどの魔法の使い手だしな。
その姫神子様ってのは、アルチナをも超える魔法の使い手なんだろうな。
ラファール曰く
「姫神子様ってね、とっても綺麗な人なんだよ!」
だそうだ。
100年以上在位している女性だが、外見は20代中頃の黒髪の美人なんだとか。
その美貌も相まって、半端ないカリスマ性を放っているそうだ。
アインフリアンは、龍族が縄張りとしているロプロス領のすぐ西にある。
両国は古くからある街道で繋がっているらしく、そこは結界の影響はないんだそうだ。
いわゆる隠しゲートみたいなものだな。
もっとも、その街道の存在は姫神子を除いて知る人間はおらず、龍族も常に監視しているんだそうだ。
そんな一本道の街道を進むこと2日程度で到着した。
直径3kmほどの、城壁に囲まれた円形の城塞都市は、厳重な警備で入出国を管理している。
各国国王級の印が押された手形がないと、門をくぐる事もできず、申告した日にち以上滞在すると捜査の手が入り、その場合多くは強制退国となるそうだ。
門を守る衛士の目は厳しく、猫一匹通さないと言われ、魔法による監視網も厳重に張り巡らされているらしい。
そんな衛士の足元を三毛猫が素通りしているのは、まぁ、見なかったことにする。
宗教という思想がほぼ形骸化しているこの世界で、唯一神々への信仰をその是としているというアインフリアン公国。
実際は信仰ではなく魔法開発をしているという事だが、人間界で唯一魔法による病気の治療を無償で施すなどそういう神秘的ともいえる活動を行っている国家なんだそうだ。
しかも、驚くことに人間界で流通している風邪薬や鎮痛薬、果ては疫病のワクチンなどを販売している製薬会社みたいなものなんだそうだ。
ラディアンス王国があのポーションみたいなのを市場に流さない理由はこれだったんだな。
下手に軋轢を生まない為、何だと思う。
そして、この国がこれほどまでに唯我独尊なのは、貨幣の鋳造もこの国でしか行っていないから、なんだそうだ。
要するに世界の造幣局って事なんだな。
その辺の詳しい経緯やなんかはよく分からなかったので、後でサクラに聞いてみよう。
そんなアインフリアンに、手形もなくアポもなく、フリーでやってきた俺たち。
普通に考えて、そんな俺たちがおいそれと入国できるわけがない。
無いのだが。
「どうぞ、お通り下さい。」
俺の名を告げたとたん、簡単に通してくれた。
ラディアンス発行の手形や、その近隣国家の手回しとか、そういうものは一切ない。
何しろ、シヴァに言われてすぐに来たのだから。
もちろん、魔王やマリューさんの根回しでもない。まだ魔族との和解はそのきっかけすら為されていないのだから。
どういう事なんだろう。
すると、俺たちの前に数人の人影が現れた。
白を基調とした、神官服、とでも言うのだろうか、ビシッと皺ひとつない清楚な服に身を包んでいる。
みんなかなり年配の人たちのようだ。
何か、俺たちに用でもあるんだろうか。
「タカヒロというのはどいつだ?」
おおう、なにか高圧的に聞いてくるな。
「あの、はい、俺です。」
「貴様か。」
「はい。」
「こんなうだつの上がらぬような輩を?」
「なぜ姫神子様は……」
姫神子様?
この人達って、姫神子様の関係者か何かか?
「あの、」
「発言を許した覚えはない。黙っておれ。」
「…………」
「姫神子様の言葉ゆえ、貴様たちを宮殿へ連れて行く。」
宮殿?
姫神子様の言葉、だって?
「本来ならどこの馬の骨とも知らぬ貴様のような輩を入れることなど憚られることだが。」
「やむを得ず案内する。粗相をしたら即刻消し炭にする故、心してついてまいれ。」
「あー……わかりました。」
ちょっと胸糞わるい態度ではあるが、姫神子様や宮殿は、それだけ神聖視されているんだろうな。
下手な国の首長よりも排他的のようだな。
イヤだなぁ、そんな場に行くのって。
俺たちは馬車を降り、徒歩で無言のまま神官らしき人についていく。
宮殿と呼ばれる場所にきたが、言うほど大きな建物ではないようだ。
ただ、近寄り難い雰囲気はある。
止まることなく宮殿の中まで進み、中庭を通り過ぎて長い回廊をさらに進む。
その行き止まり、そこは祈りの間とかいう部屋だった。
入口の扉に、小さく日本語で「わたしのへや♡」と書いてあった。
……胸がドクンと脈打つ。
どこかで見たことがある字。
いつか見たことがある文字。
扉が開かれ、俺たち全員が中に通された。
「姫神子様、命の通り、お連れしました。」
神官の一人がそう声を放つ。
中は広く、円形の部屋の中心には、床に魔法陣とかいうものか、そんなものが描かれていた。
そして、その魔法陣のようなものの中に、一人の女性が立っていた。
「ご苦労様でした。では、下がりなさい。」
その声を聴いた途端、また胸を打つ感覚。
聞き覚えのある声。
段々と、思考が収縮していく。
意識が、思考が、止まりそうになる。
薄暗い部屋になれてきて、その女性の姿が良く見えるようになった。
その刹那、俺はその女性に向かって走り出していた。
「なっ!」
「こやつ!おい!止めるのだ!」
神官らしき人達が何か叫んだ。
「タカヒロ様!?」
「タカヒロ!?」
サクラ達も俺の名を叫ぶ。
が、俺は止まらない。
すると、その女性も、持っていたロッドみたいなものを放り投げ、俺に駆け寄ってくる。
もう、何も考える必要もない。
もう、何も気にしている場合じゃない。
既に、涙があふれているのが分かる。
その女性も、顔を歪ませ涙を零しているのがわかる。
そして
言葉もなく、俺はその女性をしっかりと抱きしめた。
その女性も、俺をしっかりと抱きしめてくれた。
「ミト!ミトッ!」
「パパ、パパぁ!」
頭の中は真っ白だ。
ただただ、おれは涙を流し、嗚咽を漏らし、愛しい娘を抱きしめている。
ミトも、ただただ泣きじゃくって俺を抱きしめている。
空間の時が止まる。
その場にいる誰もが、何も言えず、ただ俺たちが抱き合って泣いているのを見ている。
その様子に、誰一人として動けないでいた。
娘を抱きしめる腕に力が入る。
俺を抱きしめる腕に力が入る。
あの時、消滅してしまったと思っていた。
もう、二度と逢えないと諦めていた。
もう、この世にいないと諦めていた。
大切な家族。
大切な娘。
そんなミトが、生きて、俺と抱き合っている。
そんなミトが、俺をパパと呼んでいる。
もう二度と、手放したくない。
そんな事しか考えられなかった。
俺とミトは、そのままずっと抱き合っていたんだ。
―――――
「もう、ちゃんと顔拭きなさいよ。」
「お顔が、ひどい事になっていますよ、はい、失礼しますね、ふきふき、と。」
サクラとローズが、俺の両脇で顔を拭いてくれている。
ミトもお付きの女官に顔を拭いてもらったりと介抱されている。
「ぶええええーん!」
「なんでカスミまで泣いておるんじゃ?」
「だっでぇ、だっでえええ!」
「あー、ほれ、チーンするのじゃ。」
「ぢーん!」
「まったく。」
俺たちは場所を移し、応接室のような部屋へと通されていた。
割と広い部屋には円卓があり、俺たち全員と、姫神子側数人分の椅子がある。
神官達は一人だけ残っている。
少し落ち着いた俺たちは、促されて円卓を囲む椅子に座る。
俺は姫神子ことミトの隣だ。
「それでは、改めて自己紹介をします。私は姫神子と呼ばれています、トモベ ミトと申します。先程来の通り、パパ、いえ、タカヒロの娘です。」
サクラ達はざわつく。
分かってはいたものの、本人から告げられて改めて驚いた、という感じか。
「そして、この者はこのアインフリアンの長であり大神官のビリーです。」
「ビリーと申します。タカヒロ様はじめ皆様、先ほどの私の部下どもの失礼をお許しください。」
ビリーさんとやらはいぶし銀のおっさんだ。まだ40代くらいだろうか。渋いな。
「じゃあ、こっちは俺から」
「あ、パパはいいよ、知ってるから。」
「あ、そう。」
「では、私からですね。私はサクラと申します。元ラディアンス王国王女、現在はタカヒロ様の妻です。」
「妻?」
「はい。」
「パパ?」
「あー、あとできちんと説明するよ。」
「まぁ、いいわ。ラディアンスの王女様ですのね、よろしくお願いします。」
「はい。」
「私は、ローズと申します、サクラの妹で、同じく妻です。姫神子様にお会いできて光栄です。」
「妻?」
「はい。」
「パパ?」
「あー、後できちんと説明するよ。」
「ローズさん、よろしくお願いしますね。」
「わたしはカスミです。ミトちゃんは声だけしか聴いてないかもしれないけど、前に会ってるよ。」
「あ、もしかしてあの時の幽霊さん?」
「そ。で、今は生き返ってタカヒロの妻だよ。」
「妻?」
「うん。」
「パパ?」
「あー、以下略。」
「わたしはリサ。人狼族の魔族です。同じく、タカヒロの妻です。」
「……」
「ミト、言いたいことはわかるが、全部あとで、な。」
「わかった。では、リサさん、よろしくお願いしますね。」
「はい。」
「私はアルチナと申します。魔王の長女で、同じくタカヒロ様の妻です。」
「アルチナさん、よろしくお願いしますね。」
「私はシャヴォンヌ、龍族で龍王の次女。同様にタカの妻です。」
「シャヴォンヌさんですね。よろしくお願いします。」
えーっとだな。ミト。
笑顔がかなり引きつっているんだが。
「パパ?」
「おう?」
「ちっとばっかし、話があんだけど……」
「お、おう……」
これは、あれだ。
ミトが本気で怒っている時の言い方だ。
「みなさん、ちょっと、失礼しますね……パパ!」
「……あい。」
俺はミトに連れられ、別室へと消えた。
「あー、あれはミトちゃん、怒ってるねー……」
「まぁ、あっちの文化だと、しょうがないかのぅ。」
「あの、私が悪いのでしょうか?」
「いやいや、サクラ達は何も悪くないから心配ないよ。むしろ、サクラ達がタカヒロに怒っても良いくらいじゃないかな、たぶん。」
「何?それ?」
数分後、俺とミトは戻って席に着いた。
「皆様、失礼いたしました。」
「みんな、ごめん。待たせた。」
結局、これまでの経緯を全部説明したことで、ミトの溜飲は下がったわけだが。
俺とて、悩んだんだよ?マジで。
この後同じようにピコとサダコの自己紹介も済み、ファルク達は旧知だったようで省略された。




