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第66話 氷の国フリーズランド

 魔王城の城下町を出発することになった。

 ここからは、俺たちだけで行くことになり、ファルク達一行はここで連絡係として待機となった。

 なったのだが……


 「ダメ。絶対!」


 フランが、今まで見たことのないような、鬼気迫る表情でファルクに詰め寄る。

 何でも、フランはどうしても俺たちと行くと言ってきかないらしい。

 フランは今度は俺を見て、瞳をウルウルさせて


 「お願い。じゃないと、泣く。」


 いや、それはちょっと卑怯ですよフランさん。

 俺が女性の涙に弱いの、何で知ってんの?

 怖い。


 「よろしいのではないですか、タカヒロ様。」

 「そうねー、何かあった場合の伝令とか、フランさんなら適任だし。」

 「まー、そう、だな。」

 「やた!」

 「タカヒロ様が良いというなら、僕は反対しませんが……よろしいのですか?」

 「いいさ。ローズの言う通り、伝令役も必要かもしれないしな。」

 「わかりました。」


 という事で、シヴァ様の元へ赴くのは

 俺、サクラ、ローズ、カスミ、リサ、ピコ、アルチナ、シャヴィ、サダコ、そして、フランの10人だ。

 結構な大所帯となったな。

 まぁ、馬車は10人までならなんとか大丈夫だろう。


 そんな事もありつつ、魔王城を出発した。

 4日ほどの馬車旅だが、前回とは違って乗り心地がよいので苦痛ではない。

 基本御者は俺が担い、補助は両脇に2名。

 となると、荷台には7名だが、2階の寝室には3名が仮眠することになるので実質荷台で寛ぐのは4名だ。

 夜通し。というのも考えたが、肝心の馬のほうが厳しくなるのできちんと3泊することにした。


 龍族の里には4日目の早い時間に到着した。

 ここからは、龍族で飼っている飛竜で行くことになるのだが、馬車旅の疲れもあることから今日はここで一泊だ。

 龍族の里の楽しみと言えば、温泉。

 今日は温泉で、旅の疲れを癒そうという訳だ。


 マリューさんの計らいで、夕食前にみんなで温泉に浸かるよう促された。

 なので、入浴しにきたのだが……


 「なんで魔王がここに居るんだよ。」

 「うん?まぁ、結局オレもシヴァに会おうと思って、な。」

 「な、じゃないよ、まったく。それなら最初に言ってくれればよかったじゃないか。」

 「まぁ、そうなんだがな。実は会う気はなかったんだが、その妻がな、行け、と。」

 「魔王、あんた最強の存在じゃなかったのかよ。」

 「何を言う、最強の存在は、“女房”なんだぞ。」

 「あー、それは、うん、わかるけどね。」


 そんな話をしている俺たちの前には、サクラやローズ達がワイワイと温泉を堪能している。

 普通に眼福なのである。


 「ところでな、タカヒロ。」

 「何?」

 「シヴァの事なんだがな。」

 「そういや、魔王はシヴァと古くからの知り合いなの?」

 「まぁ、そうだな。あ奴の方が長く生きてはいるがな。」

 「そうなんだ。結構、冷酷で非情な方なんだろう?」

 「あーそれはな、間違いではないんだが、なんというか、その、気をつけろよ。」

 「なんだよ、それ?」

 「ああいや、一つだけ言っておくとだな、あまり拒絶しないで、なおかつ適度な距離感を保つことを推奨する。」

 「???」

 「殺されはしないから、それだけは安心してよいと思うぞ?」


 ちょっと、何言ってるかわからない。


 それはあれか、冷たくあしらわれても気にするなって事か?

 あるいは、怒りを買ったら平謝りして機嫌を直せって事か?

 まぁ、行けばわかるだろ。


 そんな軽く考えていたことが、私にもありました。

 まさか、あんなことになるとは、ねぇ。


 体も温まり、美味しい食事もいただいてその日はぐっすりと休めた。

 そして、朝。


 俺とカスミはシャヴィが載せてくれる事になった。

 サクラとローズは、なんとマリューさんが載せてくれるとか。

 リサとピコは赤い鱗の飛竜に。

 フランとサダコが黒い飛竜に。

 アルチナと魔王は自分で飛んでいくと言った。


 揃ったところで出発となり、龍族の里の人たちに見送られて飛び立った。

 フリーズランドという所にはすぐに到着した。

 国、なのかどうかわからないのだが、一面雪に覆われた荒野で人が居る気配はない。

 降り立った所の300メートルほど先に、地下洞窟の入口のような、ぱっくりと口の空いた大きな岩がある。

 どうやら、あそこがシヴァ様とやらのいる所への入口のようだ。


 「さて、あの洞窟がフリーズランドへの入口じゃ。そちたちはわらわの後に続くがよい。マオよ、よいか。」

 「ああ、行くとするか。」


 マリューさんと魔王が入口に入っていく。

 洞窟の中は暗く明かりは無い、が、マリューさん達について歩いて行くうちに中の方が明るくなっているのが分かる。

 すると、洞窟の奥は大きく開かれた空間になっている。

 なんとそこには、小さいながら居住空間があった。

 その奥には、大きな神殿がある。


 「あの神殿が、シヴァ様の居られる所じゃな。」

 「あー、じゃあ、オレは先に行ってシヴァに到着したことを報告してこよう。」

 「おお、マオ、頼めるか?」

 「まかせとけ。」


 そう言って魔王は一人先に神殿に入っていった。

 俺たちは居住空間まで下っていき、神殿前で待機となった。



 ―――――



 「……来たか。」


 大きな椅子、いわゆる玉座に座り肘をたて頬を手で支えるその者はそう呟き、口角を上げニヤリと笑った。


 透き通るような青い体、氷のような、しかし滑らかな肌。

 天女の羽衣のような薄衣を上半身に纏い、腰から下は前後に布が垂らされているだけで、両サイドは素肌が露になっている。

 長い髪は全て後ろに流されており、その表情が良く見えるようになっている。

 切れ長の冷たい目、気品ある美しい顔立ち、目立つ赤い唇。


 氷の女王、という表現がとてもしっくりくる、この世界唯一の原始精霊であり精霊女王のシヴァ。

 その両脇には、侍女らしき女性が数人控えている。


 「おーい、シヴァ。」


 魔王が玉座の前まで来て気軽に挨拶した。

 シヴァは立て肘からガクっと顔を落とす。


 「何じゃ、何でお前が先に来るのじゃ!」

 「何でって、教えに来たんじゃないか。」

 「そ、そうか。じゃなくて!あの子は、あの子はまだか!早う連れてこんか!」

 「まてまてまて、今のお前は普通に危ない人だからな、威厳も何もないただの危ない人だからな?」


 「う……コホン、すまぬ、取り乱した。」

 「あー、気持ちはわかるが、タカヒロだけじゃないんだからな。落ち着いてな、その」

 「わかっておるわ。威厳を損ねるような振舞はせぬ。わらわを誰だと思っておるのじゃ。」

 「もういいか、連れてくるぞ。」

 「う、うむ。」


 先ほどの不敵な表情は、今はいささか緊張味を帯びている。



 ―――――



 神殿から魔王が出てくる。

 ちょっと心配そうな表情は、やはりシヴァ様とやらは気難しい人?なんだろうか。

 そりゃそうだよな、大精霊だし、精霊女王だし、冷酷非情らしいしな。


 「では、案内しよう。そのまま全員で来るといい。」

 「じゃ、行くか。」

 「あー、それと、あまり不敬でなければ、特にかしこまる必要はない、そうだ。が、一応礼節は守るようにな。」

 「ああ、わかった。」


 魔王とマリューさん、俺は普通に歩き始めるが、他のメンバーは緊張の色が隠せないようだ。

 神殿の入口を過ぎ、玉座の前までくると、そのシヴァ様が見えた。

 遠目からでも、威厳溢れる風格と全体の美しさが見て取れる。

 これは思わず畏まってしまう。

 歩みを止めて、俺たち全員が跪き頭を垂れる。


 「初めまして、シヴァ様。トモベタカヒロと申します。」

 「……」


 返答がない。

 これは、かなり気難しそうな感じだ。

 あれだ、人間如きに開く口は無い、みたいな感じか。


 (こ、こら、シヴァ、顔!顔!)

 (はっ、し、しまった!)


 シヴァ様はこの時、両手を頬に当て、ウットリとして俺を見つめていたのだそうだ。

 これは後で魔王から聞いた。


 「……面を上げい、タカヒロ。」

 「はい。」

 (きゅーん、凛々しい顔になりおってぇー、あ、いかんいかん!)


 言われて、全員が顔をあげる。

 何か、微妙に顔に赤みがさしている気がする。

 やばい、何か怒っているんだろうか?


 「そなたの事は理解している。此度そなたがここへ来たのは、この星の危機について知りたい、そうじゃな。」

 「はい。」

 「まず、その前にそなた達に手間をかけさせたことを謝罪し、お礼を申しておこう。」

 「謝罪だなんて、そんな……」

 「いや、わらわには行けぬ理由があった故、そなたに依存するしかなかったからな。すまなかった、そしてありがとう。」

 「そんな、畏れ多いです。」

 「まぁ、そんなに畏まる必要はないぞ。」

 「はい、ありがとうございます。」

 「では、本題に入ろう。それと、跪くのはやめい。立って楽にするがよい。」


 なんとなく、なんだけど。

 シヴァ様の顔、どこかで見た覚えが有る様な無い様な……

 なんかサダコもそう思ったのか、首を捻ってるな。


 いやいや、今はそんな事を考えている場合じゃないな。


 シヴァ様の話によると、例の声から聴いた話との事だそうだ。


 この星は今消滅しかけているという。

 消滅の理由は、星そのものの生命力が減少しているからなんだそうだ。

 その減少している原因というのが、どうも別の世界の影響によるもの、らしい。


 らしい、というのは、シヴァ様もそこまで話してもらっていないので不明なのだそうだ。

 その声が言うには、それを阻止、あるいは解決できる可能性を持つものは、現状俺を中心とした仲間だけ、なんだそうだ。

 消滅の遠因となっているのは、あの2026年の流星群衝突なんだそうだ。

 それがどう繋がっているのかまではシヴァ様は聞かされていないそうだが、それから11,000年程かけて、じわじわと星の力が弱ってきているのだそうだ。


 いずれにしても、このまま放置しておけば、遠からずこの星は文字通り消滅する、と。

 星の寿命とは違い、その現象はこの星のみならず、宇宙全体にもどのような影響を及ぼすのかは想像もつかないらしい。


 「つまり、おれ、いや、私達がその危機を回避する“鍵”という事ですか。」

 「“俺”でよいぞ、タカヒロ。まぁ、鍵というか、その要といってもよいだろう。」

 「なぜ、俺なのですか?」

 「うむ、それについてなんだがな……」


 一呼吸おいて


 「ここから先は、わらわとそなた、二人での話になる。ついてまいれ。」


 そう言うと、シヴァ様は立ち上がり、俺についてくるよう促すと玉座の裏へと歩き出した。

 と、その途端。


 シヴァ様は盛大にこけた。


 腰から履いていた服を、うっかり踏んでしまったようだ。

 こけたシヴァさまは、うつ伏せで下半身を露にしてしまった。

 意外な事に、白いパンティーを穿いていた。

 ピンクのハートのワンポイントの。


 「女王さま!」


 両隣に控えていた侍女らしき人たちが、あわてて起こしに走った。

 俺たち全員は、固まったまま動けない。

 魔王だけは、頭に手をあてため息をついていた。


 シヴァ様は立ち上がり、何事もなかったように


 「ついてまいれ。」


 無かったことにしたようだ。


 「は、はい。」


 なんか、いつかどこかで見たようなシーンだな、コレ。

 俺も何も見なかったことにして、シヴァ様の後についていった。

 シヴァ様の顔が真っ赤になっていたのは黙っておこう。


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