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第65話 真の姿

 シヴァ様への取り繋ぎはマリューさんが請け負ってくれるそうなので、ソッチの件は特に詰める内容はない。

 魔王との本題は、別の件だ。


 「ほう、タカヒロの国の王が、か。」

 「まぁ、ぶっちゃけた事を言えば、会談の内容は何でもいいと思うんだ。

 会談した、という実績があればいいんじゃないかと思っているんだけど、どうかな?」

 「うーむ、しかしだな、会談の内容はきちんと準備しておいた方がよいと思うぞ?」

 「アジェンダってのは大事だけどさ、正直言うと、俺はそういう外交というか国家間の話し合いとか、一切知識はないんだ。元々平民中の平民なわけだし。」

 「なるほどな、そういう所、ムサシと同じだな。」


 「それで、どうだろう?」

 「良いんじゃないか。ただな、すまんが俺はその会談に応じる時間は取れないと思うぞ。」

 「そこは父上の名代として我が会談に出席するとしよう。聞けば国王はタカヒロの弟なのであろう?」

 「まぁ、俺というかサクラの弟だな、俺の義理の弟だよ。」

 「それでも、だ。友の弟なら会わぬ理由はない。我はいつでも良いぞ。」

 「ありがとう、エイダム。」


 「で、もう一つの件は、すぐに手配しよう。ひとまず「門」の外に簡易的な迎賓館、いや外交館だな。それを準備し、そこで会合と調印式を執り行うようにな。」

 「でも、そんなの魔族側だけでやらなくても」

 「いや、実はな、人間側にもこちらと関係を深めたいという強かなものが居てな、そやつがこういう時には協力すると言ってきかない奴なんだよ。」

 「それって……」

 「たしか、マコーミックとかいう商人だったな。信用はできぬが利用するには十分な人間ではある。」


 ここでマコーミックの名を聞くとは思わなかった。

 かなり手広くやってる商人だな。もう豪商と言っても良いんじゃないか。


 「その人なら、俺も世話になったよ。でも、会ったことはないんだけどさ。」

 「なかなかに気が抜けない相手ではあったな。見た目も若く見えて顔立ちも整っておったな。いわゆる優男って感じだ。」

 「うーん、一度会ってお礼を言っておかないと、だな。」

 「まぁ、恐らくだが放っておいても向こうからお前に接触してくるだろうよ。金の匂いには敏感なようだからな。」

 「俺、そんな甲斐性はないんだけどなぁ。」

 「いや、そ奴からすればお前は“金の成る木”だと考えているかもな。」


 まぁ、利害が一致しているなら、利用されようと何だろうと別にかまわないけどさ。

 単なる金儲けの道具としてしか見ていないなら、今後の付き合いも考えなくちゃいけないだろうな。

 ともかく、話をしてからの事ではあるけども。


 と、ひとまず魔王へのお願いはこれで一応完了、かな。

 あとは、シヴァ様拝謁の段取りか。


 「ここから龍族の里を経由して、シヴァのいるフリーズランドへ向かうわけだな。」

 「そうだね、もう里への道も分かるし、何の問題もなくいけるだろうな、そこまでは。」

 「父上、シヴァ様へは突然訪問してお会いできるものなのですか?」

 「うーん、どうだろうな。オレでさえなかなか気軽に会ってくれないしな、ある意味で。」

 「聞けば、冷酷非道で一切の容赦がなく、絶対的な力をもっている、とか聞いたけど……」

 「うーむ、まぁ、間違い、ではないかな、ある意味。」

 「怖いな……」

 「うん、まぁ、なんだ、俺は応援するぞ、頑張れ。」

 「ん?、あ、ああ。」

 「ともあれ、今日はもう解散だな。ゆっくり休んでいけ。俺はちょっと出かけるが、明日の出発前には帰ってくると思う。」

 「わかった、ありがとう。」


 こうして貴賓室での話し合いを終え、前と同じ館で宿泊する事となった。

 夕食を終え、俺は自室でサクラとローズと一緒に寛いでいた。

 すると、ドアがノックされる。


 「はい。」

 「タカヒロ様、よろしいですか?」

 「アルチナ?」


 ドアを開けると、アルチナとシャヴィが立っていた。


 「どうした?」

 「ちょっと、お付き合いしていただきたいのです。できれば、サクラ様も、ローズ様も。」

 「私も、ですか?」

 「アタシはいいけど……どうしたの?」

 「お話は後で。とにかく、城の広場までお越しください。」

 「??」


 とにかく、付いていくしかなさそうだ。

 どことなく深刻な表情、深刻というか、緊張した、という感じか。

 アルチナにしては見せたことがない表情だな。


 暗闇の中に数本のかがり火がたかれた城の広場まできた。

 本来は夜間閉鎖なのだが、魔王一族は関係ないようだ。

 先導していたアルチナは立ち止まり、振り向いて俺に向き直った。


 「タカヒロ様、昨日のお話、覚えておいでですか?」

 「昨日のって、まさか、アルチナの本当の姿ってやつか?」

 「はい。あなた様に隠す必要はありませんが、本当の姿を見せて嫌われるのが怖くて、今まで見せられずにいました。」

 「俺は、昨日も言ったけど、姿がどうこうってのは」

 「わかっております。ですが、知っておいて欲しいのです。私の本当の姿を。」

 「タカ、私もだよ。あの龍の姿以外に、もう一つの姿があるんだ。」


 そうなのか。

 しかし、普通に考えればあのシャヴィをみて何とも思わないのだから、気にする事ないと思うんだが。

 まぁ、彼女たちなりのケジメの着け方、なんだろうか。


 「タカヒロ様、見ていてくださいね……」


 一つ大きく息を吸い、吐く。

 アルチナの体は赤い光を纏い、一回り大きくなったような気がした。

 背中に黒い蝙蝠のような翼としなやかな尻尾が出現し、頭には角が現れた。

 これは先日、トラもどきの時に見た姿だ。


 「これが先日お見せした、中間変化の状態です。そして……」


 今度は赤に青白い光が加わり、紫色になった光がアルチナを包む。


 「これが、私の本当の姿です……」


 若干青みがかった灰色の肌。

 肘の先は黒い皮に刃のような突起。

 手足の爪は長く鋭く尖っている。

 黒い蝙蝠のようだった羽は黒い天使の羽のように変わっていた。

 肌の所々に赤い模様というかアクセントがあり、2本だった角は4本に増えていた。

 目は切れ長で元のアルチナよりはきつい感じで、紫の瞳に縦に長い瞳孔。

 延びた牙も、鋭く光っている。

 何より、全体的に大きくなっている。

 身長は2mを超えている。


 サクラとローズは驚いて声もでない。

 俺は、というと……


 「か、かっけー!!」

 「タカヒロ様?」

 「タカ?」


 うん、カッコいい、カッコいいよ!

 すげえ、アルチナ、美人のままだしカッコいいし、どこに嫌う要素があるんだよ!?


 「いい!カッコいいし美しい!アルチナ、すげー!」


 アルチナに駆け寄り抱き着く。

 ちょっと身長差がありすぎるのが難点と言えば難点か。


 「タカヒロ様、その、怖くは無いのですか?」

 「え?何で、どこが?それよりも、美カッコいいにしか見えないけど?」

 「び、美カッコいいって……」

 「キレイでカッコいいってことだよ。ごめんアルチナ、もっと好きになった!」

 「た、タカヒロ様……」


 やばい、ヤバすぎる。

 ツボにはまりまくりの姿だよ。

 我に返ったのか、サクラが言葉を発した。


 「すごい、何か力強さを感じますし、本当にカッコいいです……」


 ローズも同じことを思ったようだが、違う事を言い出した。


 「アルチ、カッコいいけど、それよりタカヒロ、こっち方面でも何でもありなのね……」


 それはどういう意味ですか、ローズさん。

 とはいえ、これは誰もが見惚れるだろうよ。

 この姿で襲われたら怖いだろうけどさ。


 「あー、実はだな、タカ。アルチナには見る物を魅了する力があるんだよ。その作用かもしれないぞ?」

 「いや俺にそういうのは効かないと思うぞ、例えそうだとしても、美カッコいいには変わりないさ。」

 「タカヒロ様……」


 そう言うと、アルチナは元に戻った。

 俺はすかさずアルチナを抱きしめた。


 「ありがとう、アルチナ。とっても勇気がいっただろうな。」

 「タカヒロ様。」


 うっすらと涙を浮かべるアルチナ。

 こっちはこっちでまた美人なのだから、もう美のチートだろ。


 「さて、では今度は私だな。」


 そう言って、今度はシャヴィが変身した。

 こっちも龍の姿から再び人型へと変わり、大柄な体になった。

 アルチナとは違う龍の翼。

 強靭そうな立派な尻尾。

 全身が薄い鱗に覆われているが、ぱっと見は解らないくらいだ。

 金色の瞳と赤い瞳孔、目力が半端ない。


 「はえー、シャヴィも美カッコいい!すげえ!」

 「そ、そうか。」

 「抱き着いても?」

 「なぜ聞く?」

 「いや、触っちゃいけない鱗とかあるんだろう?」

 「ああ、私にはそれはないぞ?お母さまにはあるけどな、両方の意味で。」


 という事で、こっちも抱き着く。

 やっぱり身長差は如何ともしがたい。


 「タカ、その、なんかこそばゆいな……」

 「あ、ああ、すまん、つい。」


 と、元に戻るシャヴィ。

 二人は俺の前に並んで立つ。


 「タカヒロ様、こんな私達ですが、受け入れてくださって感謝します。」

 「私も、ありがとう。さすがはタカだな。肝っ玉も人間離れしているみたいだな。」

 「よせやい、俺からしたら、お前たち二人も、等しく俺の、その、家族、だよ。」


 二人にそっと抱きしめられる。

 ちょっと、苦しいけど、嬉しいね、いろんな意味で。

 サクラとローズがムーっとしているけど、今はしょうがないよな。


 「もー、タカヒロ鼻の下伸ばしすぎよ。とはいえ……」

 「そうですわね、今の私達一行は、個では届かないにしても、全なら勇者様すら凌駕する戦力なのでは?」


 そうかも知れない、が。

 たぶん、これでも勇者には遠く及ばないんじゃないかな。

 なんとなく、そんな気がする。


 「まぁ、でも、そうだとしてもだ。今は、それ程の強大な力は、この世界には必要無いと思うけどな。」

 「たしかに……そうですね。」

 「少なくとも、地上の種族間の争いは、無くなる、そんな気がするわね。」


 ローズはアルチナとシャヴィをみて、そんな事を言った。

 アルチナとシャヴィは、それに微笑みで返したのだった。


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