表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/121

第64話 再び魔界へ

 旅の準備は昨夜のうちに整い、いよいよ出発の時となった。

 今回はファルクが先導で俺たちは殿だ。


 ラーク達の見送りを受け王国を出発したのは朝早くだ。

 城壁を超えてエスト王国への街道を進む。

 あれだけ荒れていたラディアンス周辺の街道も、だいぶ修復が進んでいた。

 こうしたインフラの復旧や整備が早いのは、ラークが王としての素質に充分足る、という証左だろう。

 ラーク、凄いんだな。


 揺れも少なく快適な馬車移動、うん、我ながらいい出来だな、この馬車。

 心なしか御者台からの眺めも良くなった気がする。


 俺の両隣には、サダコとシャヴィだ。


 サダコはこの世界を眺めるのが楽しいと言っていた。

 江戸時代の長閑な水戸街道や結城街道を通っているようで懐かしさも感じるんだそうだ。


 シャヴィは


 「こういう馬車の移動も、なかなかオツなものだな。飛べばあっという間だが、こうしてじっくり周辺を観察できるのは良いな。」


 なんというか、王女らしい捉え方だな。


 「しかしタカよ、私やアルチナを娶るのは良いが、人間であるお前が私達を、というのは大丈夫なのか?」

 「ん?人間と夫婦になるのはイヤだったか?」

 「ばかめ、そういう事ではないわ。むしろタカと一緒になれるのはとても嬉しいぞ。」

 「そ、そうか。」

 「つまりだな、過去はいざ知らず、今は人間と魔族や龍族との交流は断絶されているだろう?」

 「そうだな。」

 「こんな時世で我らを迎え入れるというのは、民衆や他国が納得してくれるのか?」

 「ああ、その事か、それなら、まぁ大丈夫だと思うぞ。」

 「ん?そうなのか?」


 「俺たちが今している行動ってのは、まさにそのための布石でもあるんだよ。」

 「布石?」

 「ああ、人間が魔族を敵視、というか恐れているのは誤解から発した自分たちの行動の後ろめたさがその大元、原因だからな。」

 「500年前の戦争のことか。」

 「それもあるけど、魔族や龍族に対する一方的な敵愾心の原因は、その500年前のゴタゴタを間違った話で纏められてそのままだから、だ。

 なら、原因に対して対策を打てば、少なくとも現状打開としては有効になると思うよ。」

 「つまり……どういう事だ?」

 「ラディアンス王国と魔族との会談、他の国を巻き込んでの国交樹立、その上で俺とお前やアルチナとの婚姻、ともなれば、だ。

 少なくとも誤解は解けていって正しい歴史を知ることができるし、そうなれば敵対する理由はかなり薄れるだろう。」

 「なるほど、な。」


 「でもな。だからと言ってそれが理由でお前たちに求婚したんじゃないぞ。単純に、お前たちが、シャヴィが好きだからだ。」

 「う、うむ。」

 「布石云々は、俺にしちゃどちらかというとついで、と言っても過言じゃない。何より大切なのはお前たちなんだからさ。」

 「な、何か、その、照れるな……」

 「まぁ、とはいえ、じゃ。」


 黙って聞いていたサダコが口を挟んできた。


 「ワシが言うのも何じゃが、主様は人外が好みなのか?」

 「へ?」

 「いや、サクラ殿とローズ殿以外、全て人間ならざる者であろう?」

 「そう言われればそうだな、今気づいたよ。」

 「ふむぅ、なるほどのぅ……」

 「ん、何がなるほどなんだよ?」

 「タカ、そこがタカらしい、という事だよ。な、サダコちゃん。」

 「ちゃんはちょっとこそばいな。しかしまぁ、そういう事じゃ。」

 「????」

 「ふむう、カスミが言っていたのはコレか。シャヴィも皆も苦労するの。主様、一つ言っておこう。」

 「何だ?」

 「妻の席、まだ数人分空けておくがよいぞ。これはな、予言じゃ。」

 「は?」


 心なしか、サダコの目が笑っているような気がする。

 しかも、予言だと?


 「お前、予知能力も持ってんのか?」

 「くふふ、予言というのは戯言じゃ、しかしの、確信はあるぞ。」

 「タカならその可能性は充分ありそうだな。私は別にかまわないけどな。」


 そんな事言われましても。

 俺にはそんな気はないんだけどな。


 モンテニアル王国へ立ち寄ってエスト王国に来た。

 エスト王国では、ブナガ国王から直々に依頼を受けた。


 「タカヒロ殿、魔王への特使の役目、押し付けてしまい申し訳ない。」

 「いいえ、元々私が行こうと思っていたことですので、お気になさらずに。」

 「うむ、では、頼んだぞ。礼と言っては何だが、我が娘が今度食事会でも、と言っていての、そなたを招待しようと思う。」

 「そ、それは光栄ですが……」

 「ははは、では、気を付けてな。」


 エスト王国王女、と言えば絶世の美女との呼び声が高いと、サクラは教えてくれた。

 俺は見たことはないが、以前サクラが見た時は齢12にして気品と美貌と妖艶さと闊達さ、すべてを備えた美少女だったそうだ。

 殆ど表に出ることなく、文字通り箱入り娘だそうで、最近では一目見ただけで幸運が舞い降りる、とか真しやかな噂にもなっているそうだ。

 そんな美女との食事会なんて、そりゃ金銭以上の褒美なんだろうな。

 

 でもまぁ、俺には過ぎた褒美だな。

 そん時はバックれよう。


 数日後、「門」へと到着した。

 「門」には前よりも多くの魔族の兵が詰めていた。

 それも、全員が重装備で、というかこれ、礼装か?


 俺たちを目視した途端、「門」の前後に道に沿って魔族の人たちは整列した。

 抜剣し、体の正面で垂直に携え、剣先を下に向け栄誉礼的な形で気を付けをした。

 そんな中を返礼しつつ進み「門」を潜り、列の先端まで来たところで


 「よーく来てくれたなタカヒロ!待っていたぞ!」

 「魔王!」

 「わははは、我が娘からの連絡でな、ここで待っていたんだよ。」

 「アルチナの?いつの間に?」

 「うむ!まぁ、アルチナにはそういう能力もあるのだよ。ところで!」

 「ところで?」


 魔王は俺をガシっとヘッドロックし、小声で言った。


 「お前、アルチナを手籠めにしたそうだな、うん?」

 「いや、手籠めって……」

 「これではオレとお前は友人ではなく、義理の親子になってしまったではないか!」

 「そ、それは……」

 「ま、それはしょうがないが、ともかく、アルチナをよろしく頼んだぞ、色男め。」

 「あ、はい。」


 という一幕はあったが、魔王同行のもと魔王城まで馬車を進める事となった。

 案内役だ!と言って、御者台には俺と魔王が並んで座っている。


 「ところでさ、アルチナが魔王に連絡したって、どうやって?」

 「ああ、アルチナはな、吸血鬼一族の血を引いていてな、」

 「吸血鬼?」

 「うむ、魔族でも希少な種族だな、我が妻の一人が吸血鬼一族の姫だったんだよ。」

 「吸血鬼って、本当にいたんだなぁ……」

 「ん?」

 「あ、いいえ、こっちの事だよ。」

 「でだ、アルチナの能力の一つに“使い魔”というのがあってな、小さな魔物を使役し、その魔物を通じて通信できるってことだ。」

 「へー、便利だな。」

 「ヘザーから聞いてお前を見ていたのも、その使い魔で、ってことなんだろう。」

 「なるほどね。」


 まぁ、魔族っていうだけあって人間にはない能力とかもいっぱいあるんだろうな。

 にしても、文明が崩壊してこういう文明や異種族が発生するって、どういう理屈なんだろう。

 進化とか、そういうレベルの話じゃないよな、それ。


 「ところで、だ、タカヒロよ。」

 「何?」

 「その、アルチナは、まぁあの龍族のムスメもなんだが……」

 「?」

 「今の姿はな、その、人間に似せ変化している姿でな、本来の姿ではないんだ。」

 「あ、そういやこの間ちょっと姿が変わってたな。」


 「で、でな、その、本当の姿を見ても、アルチナを恐れたり、その、嫌ったりしないで欲しいのだよ。」

 「へ?なんで嫌う?」

 「いや、その、魔王で父親の俺が言うのも何なんだが、けっこうおっかないぞ?」

 「あー、なるほど。魔王。それは杞憂だと思うよ。」

 「そ、そうなのか?」


 「俺は皆を、姿形で選好みなんてしてないさ。まぁ、容姿って言う要素はあるけど、俺は容姿じゃなくその人そのものに惚れているんだからさ。」

 「タカヒロ……」

 「姿で恐れる、なんて言ったらさ、魔王や狼のリサ、龍になったシャヴィに近づく事すらしてないって。」

 「お前、いい奴だなやっぱり。人間にしておくのがもったいないぞ。」

 「よしてくれ、なんか、むず痒い……」


 そんな話を、荷台にいる全員が聞き耳を立てて聞いていた。


 「アルチナの本当の姿って、この前のあれ?」

 「えーっと、あまりその事には触れて欲しくはないかなーと……」

 「ああ、アルチナの正体はな、ものすごむむむむ……」

 「シャヴィ?口は災いの元、ですわよ?」


 「とはいえじゃ、主様のああいう所、大したものじゃとは思うがの……」

 「幽霊姿のサダコ見ても怖がるどころか喜んでたもんねー。」

 「それはお主もじゃ、カスミ。」

 「タカヒロ様は、人の本質をきちんと見極められる方ですからね。」

 「そうなんじゃが、あの様子じゃ、他にも靡くオナゴは増える一方なのではないか?」

 「「「「「 !!!! 」」」」」


 一瞬、荷台の中に緊張感が張りつめた。

 その後、何やらみんなで密談を始めたようだ。


 今日はあの宿場町で一休みすることになった。

 例の宿屋にまた厄介になることになるのだが、魔王が来たという事で町中が大騒ぎになった。

 なんか、魔王は滅多にここに来ないようで、住民は数年ぶりかに拝見できる魔王を仕事をほったらかして見に来ていた。

 なので宿までの沿道には町のほぼ全員が繰り出していた。


 「俺、あまりこういうのは苦手でな。」

 「あー、わかる……」


 だそうだ。

 宿に着き、馬車を降りると例の女将さんが出迎えてくれた。


 「タカヒロ様、またご利用していただき感謝していますわ。」

 「またお世話になります。」

 「ええ、ごゆっくりしていってくださいな。お食事も贅をこらしたものをご用意しております。」

 「あ、いや、普通でよいのですが、その、あまり路銀もありませんし……」

 「うふふ、その心配はございませんわ。お代はそこのマオ、いえ、魔王様に請求いたしますので。」

 「うーむ、安くしといてくれよ。」


 なんというか、この女将さん、前も思ったけど、魔王とは結構な知り合いなのかな?

 前も一瞬、魔王をマオって名前で呼んだしな。


 「まぁ、アルチナも来ていたのね。」

 「お久しぶりです、おばさま。」

 「さらに綺麗になったわね、もう男どもが言い寄ってきて大変でしょう?」

 「いいえ、もう言い寄る者はいませんのよ。」

 「あら、じゃあ、もしかして!」

 「はい。」

 「きゃー!あなたをモノにするなんて幸福な男は、どんな方なんでしょうね!?」


 その言葉に、全員が俺を見る。


 「え?え?、まさか相手って……」

 「あ、はぁ、まぁ……」

 「まあまあまあ!!これは目出度い事ですわ!!一番上等な酒を準備しましょう!今宵は宴会ですよ!」


 なんと、女将さんは魔王の妹君だそうだ。

 つまり、アルチナにとっては叔母、という事だな。

 なるほど、疑問は解けたよ、うん。


 その夜は文字通りどんちゃん騒ぎになった。

 それはもう、町を挙げての大宴会だ。

 魔王は青ざめた顔をしているが、もしかして女将さんはすべての経費を魔王に丸投げするつもりなのだろうか。

 そんな心配はどこへやら、俺たちや英雄一行はこの町の人たちと楽しい時間を過ごした。


 そこに、人間と魔族の壁なんて無かった。

 みんな、俺たちと普通に接し、俺たちも普通に接していた。

 ああ、なんかいいな、こういうの。

 守るべき世界って、こういう身近な世界なんだろうな、きっと。


 翌日、ものすごく高い良い酒だったせいか、かなり強い酒にもかかわらず二日酔いにはなっていない。

 昨日と同じく、魔王同行で魔王城を目指す。

 まったりと進み、昼過ぎには魔王城に着いた。

 そこに


 「あ、タカヒロ様!」

 「あれ、ギブソン、ここで何やってんの?」

 「ええと、ですね……」

 「こ奴らには警備の仕事を振ってやったのだ。」

 「エイダム、久しぶりだな。」

 「うむ、よく来たな、タカヒロ。」

 「そうか、仕事もらったのか。」

 「はい、何もしないのも、どうも落ち着かなくてですね、頼み込んだら聞いていただいて。」

 「お前、けっこう義理堅いというか、真面目なんだな。」


 ちょっとギブソンを見直したよ。

 というか、マジで真面目でたくましいな。


 という一幕があって、俺たちは魔王城の例の貴賓室へと入った。


 「あ、そういやピコの所にも寄らないとな。」

 「その必要な無いよ、タカヒロ!」

 「ピコ!」

 「えへへ、王子様が連れて来てくれたんだ。」

 「そうか、ありがとう、エイダム。」

 「礼なんかするなよ、友として当然じゃないか。」

 「それでもだよ。ありがとう。」

 「よせ、もう、照れるじゃないか……」


 そして、今回の目的と、魔王とエイダムへのお願いの事を話し合う場が開かれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ