第63話 束の間の休息
長旅の準備もほぼ整い、あとは出立を待つばかりとなった。
なので、休息という訳でもないが、少しゆっくりすることになった。
俺たちが居住する予定の離れも半分程度出来上がっており、完成が楽しみだ。
ところが
「私の部屋はどこになるんですの?」
「ワシにも個室をくれるのか?」
「私は別にタカと同室でもよいぞ?というかそうしよう。」
この人達?もここに住むつもりなのだろうか?
「というかね、タカヒロ、ここいらできちんと明確にはっきりさせといた方がいいんじゃないの?」
「カスミ、どういう事だよ。」
「あのさ、サクラとローズはもうアンタのお嫁さんなわけじゃん。」
「あ、ああ、祝言とかはあげてないけど、な。」
「それもどうかと思うけど、他の人はどうすんのさ。アタシも含めて、だけど。」
「どうって……」
「一つ、忠告しとくけど、このまま放置しておくと国際問題にも発展しちゃうかもよ。」
「あー、それは……そうかも。」
「という事で、時間がある今のうちに何とかしたほうが良いと思うよ。」
「うーん……そうだな、うん。」
「あ、ちなみに、この国は重婚の人数制限はないってさ。」
いや、それもどうかと思うが。
そういや以前カスミと同じような話をしたな。
生活基盤がほぼ無い現状も、頑張ればなんとかなるとも言ってたし。
とはいえ、気が重いというか、何より男として軽薄すぎると思うのは俺だけなんだろうか。
俺自身、やたら女をとっかえひっかえしている男は一切信用しないし嫌いだし。
浮気する既婚男なんざさらに軽蔑対象だし嫌いだしな。
まぁ、俺が女性にモテないってのもあるけどさ。
……なんか、自己嫌悪に陥りそうだ……
しばらく頭の中と気持ちを整理しようと、人気のない城東の塔の屋上へと来た。
城下町を見下ろすと、先の騒動などまるで関係なく、人々は賑やかに生活している。
そりゃそうだ。城内での騒動は一切外部へは伝えていない。
せいぜい、城壁のロボット騒動だけが知られている程度だ。
それでも、龍に戻ったシャヴィの姿を見られているので大騒ぎにはなったけど。
すると、サクラが塔に上がってきた。
「ここにいらっしゃったんですね。」
「サクラ。」
「どうしました?何やら考え事をしていらっしゃるようですが。」
「ああ、うん……そうだな、ちょっと考えていた。」
「どうなさったのですか?」
「……サクラ、俺、サクラもローズも愛してる。ずっと共にありたいと思ってる。」
「タカヒロ様、私も同じですよ?」
「ああ、わかっているさ。でも、さ。」
「でも?」
「リサやカスミも、ずっと一緒にいるからかな、その……」
「それでしたら、その想いは早く伝えないといけませんよ?」
「へ?いや、伝えって……お前たちがいるのにそんな」
「え?それはどういうことですか?」
「いやいや、サクラとローズがいるのに、その、お前たちを蔑ろにするような事は」
「そうなのですか?」
「いや、そんなわけないだろ。」
「でしたら、何も問題はありませんよ。タカヒロ様は、私達を等しく愛してくれる方だと理解していますから。」
「サクラ……」
「それに、タカヒロ様が心配している事は、すでに私とローズ、二人も愛している事でなんの問題もないと証明なさっているではないですか。」
「……」
「うふふふ、そのような事で悩むのも、タカヒロ様がそれだけ責任感もあって優しい人という事の証ですよ。」
「優しくなんかはないけど、なんか、そう言われるとむず痒い……うん、そうだな。彼女たちにも真剣に向き合うべきだな。」
「そもそも、タカヒロ様はカスミさんもリサ様も、アルチナ様やシャヴォンヌ様も愛していらっしゃるのでしょう?」
「う……うん。」
「なら、その思いは皆さんにきちんと伝えなければいけませんよ。」
「ああ、わかった。ありがとうサクラ。」
「でも、一つだけお願いがあります。」
「うん?何だい?」
「一番最初の赤ちゃんは、私にくださいな。」
「……う、うん。」
この歳になって、こんな事言われて、こんな照れるなんて。
なんかちょっと、男って、気持ちはいつまでたっても少年なんだと改めて思ったよ。
こうして、俺は二日かけてカスミ、リサ、アルチナ、シャヴィの順に告白した。
二日もかかったのは、俺なりにそういうムードというかシチュエーションのタイミングを計っていたからだ。
回廊のど真ん中や、みんなが居る目の前で告白ってのは、さすがに違うと俺だって理解している。
まぁ、みんなダイスキ!、愛してる!って時点で、説得力も無いし自己嫌悪が圧し掛かってくるんだけどさ。
告白した時のリアクションはそれぞれだった。
カスミは
「遅いわよ、もう。でも、アタシはコロルと一緒だから、二人分だよ。ふふ、これからもっとよろしくね。」
リサは
「うん、私はずっと一緒だからね。これでタカヒロと本当の家族になれるんだね!」
アルチナは
「嬉しいですわ、ようやく私を妻と認めてくれたのですね、うふふ。」
シャヴィは
「うん、まさかタカのほうから言われるとはな。でも、ありがとう。嬉しいよ。」
断られることが無かったのはちょっとホッとしたけど、責任というか、重圧が増えたような気がした。
ま、頑張るしかないし、こうなったら地球の危機も必ず回避するしかない。
新たな決意と力を得た、と都合のいい方に思っておこう。
で、出発の前日。
ささやかながら、ラークとプラムは俺たちの壮行会を開いてくれた。
ダイゴやニーハさん、マリーさんなどの元山賊団メンバーも全員出席してくれている。
その席で、俺はカスミとリサ、アルチナ、シャヴィを妻として迎えることをみんなに伝えた。
批難されると思っていたが、全員の反応は違った。
祝福してくれたのだ。
一部を除いて。
「ちょっと、わらわはまだ仲間外れですの?」
「タカヒロ様……私捨てられた?」
二人をなだめるのに1時間ほどかかったよ。
それに、プラムは現役王女だし、フランは英雄一行の一員だし、ね。
ともあれ、今回の件で帰還したら祝言をあげるという事で、ラーク達は話をまとめたらしい。




