第60話 急襲、ダルシア
「何事であるか!」
「魔獣です!大きな魔獣が2体、王都の西方に出現しこちらへ向かっています!」
「魔獣が2体だと?魔族はこちらに手を出さないのではなかったのか?」
いまだ魔獣は魔族の一部との認識が拭えない以上、そう思うのも無理はない。
が、しかし……
これはたぶん、魔獣じゃない。
魔族が言うモンスターか、あるいは……
「ラーク、恐らくそれは以前話した“モンスター”だと思う。」
ラークたちにはモンスターの事はきちんと話してある。
「だとしても、こちらに向かっているという事は排除する必要があるな。騎士団2個中隊で迎撃に向かえ!」
「はッ!」
いや、それがもしモンスターなら騎士団ではやられるだけだ。
あれの相手ができるのは、現状俺たちだけだろう。
「ラーク、俺が向かうよ。騎士団ではたぶん無理だ。」
「モンスターとはそれほどまでに強いのか?」
「人間では太刀打ちできないだろう。ファルク達でもやっと、っていうレベルだったぞ。」
「そうなのか……すまん、兄上、頼む。」
「ああ、任せろ。ただ、城も含めて警戒はしておいてくれ。」
「うむ。」
俺はすぐさま報告の場所へと向かった。
俺だけでも良かったのだが、ローズとアルチナとシャヴィもついてきてくれた。
城壁から1キロほど先に、報告があった2体の大きなモンスターらしきモノを確認できた。
騎士団には俺が城壁の防衛に徹するように話をしたため、まだ損害は出ていない。
モンスターらしきものはそこから動かず、ずっとその場で佇んでいるようだ。
ようなのだが……
「なんですか?あれは?」
アルチナは気付いたようだ。魔獣でもなければ、モンスターでもない。
あれは、あの時戦ったトラもどきだ。
生物ではない、破壊に特化した機械の獣、兵器。
それも2体だ、騎士団では瞬殺されてしまうだろう。
ともかく、放っておくわけにはいかないな。
「ローズ、お前はここで待機していてくれ、シャヴィ、ローズの護衛を頼むよ。」
「タカヒロ……」
「それは良いが、あれは何なのだ?」
「話はあとだ、アルチナ、すまん、援護を頼む!」
「は、はい!」
俺はあの兵器に向かって走り出した。
「アルチナ、アレの攻撃は光の収束攻撃が厄介だ。魔法じゃないから受けちゃダメだ、除けるようにしてくれ。」
「わかりましたわ。」
「あれには雷撃、もしくは水の魔法が有効だと思う、援護をよろしく。」
「はい!」
俺はセイバーを抜き、左の一体に向けて攻撃をかけた。
2体もいるのであまり時間はかけられない。
「ウェンディ、シルフィード、バジャー、頼む!」
「「「 オッケー! 」」」
前と同じように、ボディ内に電撃をぶち込んで機能停止を狙う。
一撃で倒せるように、そこにもう一つ魔力を付加する。
「ムーン!」
(はい!)
うまい具合にトラもどきは俺めがけて直進して襲ってきた。
そのトラもどきの眉間めがけて剣を突き出す。
セイバーがトラもどきの眉間から首を通り、ボディまで到達したところで、電撃を放つ。
トラもどきは爆散し、飛び散る破片はムーンの魔力で跳ね返しカウンターとした。
すぐさま、もう一体へと体を向けた。
が、もう一体はすでにアルチナに襲い掛かっていて、その速さにアルチナは驚き、一瞬隙を作ってしまう。
「アルチナ!」
「くっ!!」
すると、密度の高い光の奔流が、アルチナの横をかすめトラもどきを直撃する。
「シャヴィか?」
ドラゴンブレス、という奴だろうか。
シャヴィは姿を少し変え、翼としっぽ、そして角を生やしていた。
「なにっ!?私のアレを受けて平気なのか!?」
トラもどきは表面を焼き、やや関節部分に損傷を受けたようだがまだ動けるようだ。
「シャヴィにばかり苦労は掛けられませんわ。」
アルチナはその姿を大きく変化させた。
力が増大したようだ。
間を置かず、その手から電撃の魔法を放った。
俺のような合成での発電ではなく、純粋な雷のようだった。
轟音を響かせて雷撃がトラもどきを貫き、トラもどきはその動きを止めた。
が、まだ終わりじゃない。
俺はすかさずセイバーを突き刺し、電撃魔法を体内へ放った。
一体目同様に爆散し、トラもどきは撃退できた。
「もう、大丈夫なのですか?」
「ああ、もう動かないと思う。が、しかし……」
こいつはあの時に居たロボットだ。
そう考えると、こいつはあのダルシアとかいう奴の手によるもので間違いないだろう。
という事は……
「みんな城に戻るぞ!、早くだ!」
「え、ちょ、タカヒロ?」
「タカ?
「タカヒロ様?」
「こいつは陽動だ、サクラやラークたちが危ない!」
そう、こっちは陽動で間違いない。
ただ、陽動にしては強大な戦力を投入したようだが、これはきっと俺を遠ざけるため、だろう。
「タカ!乗って!」
「シャヴィ!?」
シャヴィが今度は龍本来の姿になっていた。
「ちッ、すまんシャヴィ、頼む!」
「任せて、飛ばすよ!」
俺たちはシャヴィに乗り城へと戻った。
城に着くと、案の定襲撃されていた。
トラもどきがもう1体いる。
俺はシャヴィから飛び降り、トラもどきに全体重を乗せて剣を突き刺した。
今度は爆散せず、体内から火を噴き中身を焼き尽くしている。
ただ、そのせいでセイバーの刀身はボロボロになってしまった。
こいつ以外に、此処には敵はいない様だ。
という事は、玉座の間か謁見の間、か。
そう考えていると
「タ、タカヒロ様!」
ニーハさんが血だらけで慌ててこちらにかけてきた。
「二、ニーハさん?」
「サクラ様が、サクラ様が!」
「サ、サクラが!?」
恐らくはこの先なんだろう、すぐに走り出す。
「玉座の間です!」
ニーハさんはそれだけ言って、膝から崩れた。
全力で走り、玉座の間に来た。
すると……
例のダルシアは四肢を捥がれ、内臓が飛び出す程の損傷を受け息も絶え絶えのようだった。
そして、玉座の方に目を向けると……
「サ、サクラ?」
胸から血を流し、プラムに抱かれて倒れていた。
プラムとカスミの服がビリビリに破かれ、その布はサクラの胸にあてがわれて血に染まっていた。
「サクラー!!」
サクラに駆け寄ると、プラムは
「今、医官が来ます。止血はしていますが、止まる気配はありません。安静にしないと!」
「サクラ!サクラー!」
「タカヒロ様、落ち着いて!」
「こっちだ、早く!」
「ラーク様、お待ちください!」
ラークが医官を連れてきた。
「早くしてくれ、姉上が、姉上が!」
「落ち着けラーク、姉上は大丈夫だ、動かすな。」
「ふ、ふふふふ、ふはははは!」
後ろから怨念のこもったような声が聞こえた。
ダルシアだ。
「その女はもう死ぬ、その毒は消すことも治癒することもできぬ、もはや死ぬだけぞ!」
禍々しい目だけが、ぎろりと俺を睨む。
「これで、これで憎き王族に一矢報いたぞ、全員殺すことは叶わぬが、その王女だけでも殺せて良しとしようぞ!」
全員の殺気が一気に膨れ上がった。
そして、俺はもはや何も考えていなかった。
思考は止まっている、けど、体は勝手に動いた。
俺はダルシアに向け手をかざすと、ダルシアに向けて無意識にある“技”を行使していた。
無意識に放った、魔法でも魔術でもない、技。
今まで使ったことも無い、自分でも何をしているかすらわからない、技。
掌から黒い霧のようなものがダルシアめがけて飛んでいく。
それはダルシアを囲うと、徐々に収縮していった。
光さえ吸収するような漆黒の渦。
もはやダルシアの断末魔の叫びさえ吸収され、苦痛にゆがむダルシアは渦と共にコメ粒ほどに小さくなり、やがて消えた。




