第59話 帰還
第5章突入です。
魔界の門を抜け、エスト王国へと向かっている。
ファルク達も一緒なのだが、ファルク達には神殿での出来事は全て話してある。
ファルク達は驚き、俺は同情もされたのだが、今後の事を考えればそこに拘っている場合じゃないと協力を惜しまないと言ってくれた。
で、そのせいなのかはしらないけども。
フランさんが俺の腕に抱き着いて離れてくれません。
「タカヒロ様、フランが付いている。甘えて。」
いや、その申し出は激しく嬉しいのですが。
御者台のサクラとカスミを始め、皆さまのオーラがちょっと怖いです。
「ふむ、そのオナゴもヌシの嫁なのか?」
「ポッ……」
いや、ポッじゃなくてね。
違いますよ、というかサダコ、ここで不用意な発言はやめようね。
「ならば、ワシもヌシの嫁にならねばならぬという事か。よし、わかった。良いぞ。」
「いや、ちょっと、その話はやめとこうな、サダコ。」
後ろの馬車からも、変なオーラを感じるし。
もう、勘弁してください。
そんなこんなで、御者を交代して俺が御者台に座り手綱を取る。
隣にはローズがお供している。
移り行く景色を見ながらも、思う事は元の世界のことばかりだ。
黙って一人でいると、どうしても考えてしまう。
ヤマトやミトの事、元の世界の事、そして、流星群衝突の事。
現実味がないが、事実としてそれは起こって、今この世界があるんだろう。
でも
その瞬間って、どうなっていたんだろう。
ヤマトはその瞬間、何を思ったんだろう。
ミトはその瞬間、何をしていたんだろう。
あいつらの笑顔が、子供の頃からの色々な想い出が浮かぶ。
鼻の奥に痛みが走り、ポロっと涙が落ちるのが分かった。
落ち着いたとはいえ、やはりショックは根深いみたいだな。
情緒不安定になっているのかも知れない。
そりゃそうか。
「……タカヒロ。」
ローズはそれに気づいたのか、俺の手を握ると
「難しいとは思うけど、あまり思いつめないでね。」
「あ、ああ、大丈夫だよ。でも、考えちゃうと、こうなるかな、まだ。」
「アタシが、お姉さまが、みんなが、あなたと一緒にいるから、ね?」
「……ありがとう。ごめんな、ローズ、その、愛してるよ。」
「うふふ、わかっているわよ。」
ローズの握る手に力がこもったのが分かる。
本当に、ありがたい事だ。こんな俺を心配してくれる人が、こんなにもいる。
俺がみんなを守るって決めたんだし、しっかりしなきゃな。
こうして、エスト王国へと帰還した。
結局、魔界の事は虚実織り交ぜての内容になったが、魔族が人間に対して敵愾心をいだいていない、という事だけはなんとか納得してもらえた。
もし、魔族や龍族が人間に対して牙を剥いたときは、ラディアンス王国と救国の英雄が全力で対処する、という確約も交わした。
ちなみに、アルチナとシャヴィ、サダコもエスト王の目の前にいる。
が、何処の誰それ、という事は一切言わないようにしたんだ。
が、エスト王は何となくだけど、アルチナが魔族という事だけは理解したような感じだ。
けっこう鋭い人なんだな、エスト王って。
「しかし、魔界とは、やはり人間がおいそれと関わってはいかん世界のようだな。」
「はい、少なくともこちらが何もしない限りは、あっちも何もしないと、魔王直々に言質を取っております。」
「ふむう。」
「必要であれば、再度赴き誓約書等を受け取ってきます。」
「うむ、まぁ現状はそこまでの必要はなかろう。ところで」
「はい?」
「勇者たちはどうしたのじゃ?」
……あ。
すっかり忘れていた。
あいつらまだ魔王城の城下町で軟禁生活をエンジョイしてたんだった。
冷や汗を流しながら、たった今思いついた作り話をする。
「ゆ、勇者様たちは魔王のその言の確信と信頼が得られるまで、魔界に留まる、と言っていました。」
「おお、そうか、ならば安心ではないか。うん、よかったよかった。」
うん、よかったよかった。
あいつらにはしばらくあっちで生活してもらおう。
あいつらも満更じゃなかったみたいだしな、うん。
その後、その足でモンテニアル王国へも報告を行った。
概ねエスト王国に報告した内容と同じだ。
ただ
「もしもの場合、ラディアンスだけで対応することはあるまい。我らも追従するぞ。」
との事だ。
流石はシムネ様だ。
本当の事が言えないのが心苦しい。
ラディアンスへ向けて出発しようとした時だった。
「そうじゃ、タカヒロ殿、サクラ、先日の事なんじゃが……」
「はい。」
「あの逆賊、ダルシアの姿を見たとの報告があっての。」
「ダルシアが!」
サクラの仇敵の一人、あの時惜しくも逃してしまったやつだ。
「まだ確認はできていないが、気を付けておくれ。」
「はい、ありがとうございます、叔父上。」
あれだけコテンパンにやられて、まだ何かしようとしているんだろうか。
ただ、あの時感じたイヤな感じは、一筋縄ではいかない野望、というより怨念のようなものがあったように思う。
まぁ、用心するに越したことはない。用心しよう。
そして、ラディアンスに到着し、そのままラークを始めとした首脳陣全員の前で報告をした。
こちらには事実を包み隠さず報告したが、もちろん、エストとモンテニアルにはまだ内緒であることは重ねて話した。
「うーむ、これは、ちょっと我らがどうこうできる問題でもなさそうではある、のか。だがしかし……」
「しかし?」
「兄上、何故か女性が増えてないか?」
「え?あ、いや、これは……」
「いや、さすがに兄上だと尊敬してしまうが、いささか誑すのが早くないか?」
「誑してないから。」
「タカヒロ様、わらわを差し置いてなぜだ。わらわの事は嫌いなのか、クスン……」
「いや、プラム、そうじゃない、そうじゃないからな、うん。」
「ふっ、まあよい。次はわらわの番だぞ。約束だぞ?」
「いや、そんな約束はしないから……」
その後、ささやかではあるがアルチナ、シャヴィ、サダコの歓迎の意味も込めて夕食会が開かれた。
「しかし、兄上、アルチナさんが魔族の姫様というのはやはり信じられない。シャヴォンヌさんも龍族の姫様だと言うし、サダコさんに至っては異世界の神だというではないか。なぜそんなに兄上は女性にもてるのだ?」
「あー、あのね、もてるわけじゃないからな。好意を向けてくれるのはやぶさかじゃないけどさ。」
「で、みんな兄上から告白とチューをしたのか?」
「してねぇよ!というか、そういう仲じゃないって。まぁ、大切な仲間ではあるけども……」
「うーむ、兄上は女性に対してもっと堂々としても良いと思うぞ?」
「……ノーコメントで。」
「むぅ、まったく。」
「ところで、なんだけどさ。」
「うん?」
「シムネ王から、あのダルシアとかいう奴を見かけたと報告があったって聞いたんだが。」
「うむ、それは我も聞き及んでいる。目下、諜報員を放って調べている所だ。しかし……」
「しかし?」
「散発的な目撃情報は得られてはいるものの、それら全ての真偽は判断できないでいる。」
「そうなのか……」
杞憂であればいいんだが、何となく、不穏な感じが拭えない。
何かやらかすとすれば、間違いなくこの国で何かするだろうし。
あの時のあの感じ、どうも気になる。
ふと、サクラ達を見る。
女性陣でなにやら話しているが、みんな笑顔だ。
あの笑顔は何があっても守らないとな。
そうしてこの日は終わった。
翌日。
警備班の騎士からの報告で、城内は騒然となった。




