第58話 星の危機
第四章はこれで終了になります。
「ただいま、みんな。」
俺は何とか帰ってこれた。
何と、此処を発ってから30秒もたっていないそうだ。
主観時間ではまるまる2日経っているはずだが、不思議なものだ。
さらに不思議なのは、みんな何故か訝し気な目で俺を見ている事だ。
「「 タカヒロ様、これはどういう事ですか? 」」
これはサクラとアルチナだ。
ハモっている。
「タカヒロ、あんた……」
「タカは女誑し、なのか?」
ローズとシャヴィ、邪推はいけないよ。
「タカヒロ、その子は新しいお嫁さん?」
「タカヒロ、さすがだねー。」
リサ、ピコ、違うし流石ではないよ?
ま、まぁ、そうなるのかなぁとはちょっと思っていたけども。
正直に話すしかないな、これは。
「あー、この子はな……」
「ほほぅ、何じゃ、ヌシは女誑しだったのか?」
「いや、お前は余計な事は言わんでよろしい。」
「まー、こうなるよね。」
「いや、お前は納得してないで誤解を解いてくれよ。」
なんでそう他人事なんだ君たち。
というかだな、なんでサダコは俺の腕に抱きついて、人差し指を咥えながら人見知りの女の子みたいな雰囲気を醸し出してんだよ。
「あの、この子は向こうの世界でお世話になった妖怪さんのサダコだ。」
「「「「「 妖怪? 」」」」」
「うーん、こっちで言う、精霊や魔族の仲間?みたいなものだ。」
「魔族の仲間?」
「正確には違うが、まぁ、それは後で説明するけど、この子のお陰で割と早く光の玉を回収できたんだよ。いわば恩人だ。」
「そうなのですか……」
「突然押しかけてすまぬが、世話になる故、よろしくな。で、そなたらがタカヒロの妻たちか?」
「「「「「「「 はい! 」」」」」」」
いやいやいや、サクラとローズはそうだけども、他は違うでしょ!
「因みにアタシもだよー。」
「何と、カスミもだったのか?」
いや待て、余計ややこしくなることを言っちゃダメだって。
「ふむ、さすがはシャヴォンヌが気に入るほどの男よの。」
「いや、マリューさん、やめてください……」
「ははは、まぁ、良いではないか。むしろそちは誇るがよいと思うぞ、うん。」
と、そんな微妙な空気を止めるように、再び声が響いた。
『苦労をかけましたね、おかえりなさい、タカヒロ』
「いいえ、それにしても帰る方法くらいは教えて欲しかったです。」
『すみませんでした。私のミスですね。そんな事よりも。』
そんな事ってあなた、誤魔化そうとしてますね?
『約束です。あなたの元居た世界の事を話します。』
そういやそうだった。
確か、壊滅って言ってたな。どういう事なんだろう。
『あなたがこちらへ召喚された3年後の事です。直径5,000メートル程の大きさを始めとした流星群が地球表面に衝突したのです。』
「え?」
『無数の隕石は世界各地に大きなダメージを与え、世界は文字通り一変しました。人間はその殆どが衝突の衝撃で消滅しています。』
「な、な……」
『生き残ったのは数億人、それも、その後のこの星は生きるには厳しすぎる環境となり、ほぼ文明は退化、停滞することになりました。』
「……」
『それから1万2千年ほど経過したのが、この世界なのです。』
いや、ウソだろ……
そんな、じゃあ、ヤマトやミトは?
オフクロは?兄貴、弟は?その家族は?
天狗のおっちゃん達は?
俺の友人達は?
え?
え?
ウソだろ……
頭の中が真っ白だ。
思考が、回らない。
呼吸すら、していないみたいな感じだ。
体中の力が、抜けていく。
「タカヒロ様!」
「タカヒロ!」
え?何?
俺、倒れてる?
サクラ?
ローズ?
何だ?オレ、泣いてるのか?
何?地球上が壊滅?、人類が消滅?
「ヤマト……ミト……そ、そんな……」
全てを失った。
そう思った。
いや、そういう現実を突き付けられた。
「タカヒロ様、しっかりしてください!」
「タカヒロ、タカヒロ!」
二人が両脇で俺を支えてくれているのが分かる。
でも、俺、力が入らない。
何も考えられない。
絶望感しか、感じられない。
そのまま、俺の記憶はそこでぷっつりと途絶えた。
―――――
「どうじゃ、落ち着いたようか?」
「はい、今はお姉さまが付いています。」
「そうか、ショック、などと生易しいものではないであろうな。」
「ね、ねぇ、タカヒロの世界って、消えちゃったってことなの?」
「いいえ、リサ、消えたわけではありませんの。ただ、それと同じ、と言えるでしょう。」
「……タカヒロ……」
「カスミ……そうじゃな、あちらで親や兄弟を見た時のあ奴の顔、優しさの中にも寂しさが浮かんでいたのぅ。」
「そんな事が……」
「タカの気持ちはもはや推し量る事もできぬほどだが、私達はどうすべきかな、彼の為に。」
「そうですわね、どれほどの衝撃かなんて、私には想像もつきません、しかし……」
「そうじゃな、タカヒロ殿が納得するしかないのであろうが、それまでそなた達近しい者達で元気づけ支えるしかあるまいよ。で、だ、シャヴォンヌよ。」
「はい、お母さま。」
「お主はしばらく、この者達に同行せよ。かかわった以上、無下にもできぬしな。」
「しばらくなんて、ずっと付いていきますわ、お母さま。」
「そうか、すまぬ、頼んだぞ。」
「すまぬなど、言わないでくださいませ、お母さま。」
―――――
気が付いたら、ベッドに寝ていた。
「タカヒロ様!お気づきになりましたか?」
「ああ、サクラ……」
そうか、あの話を聞いて、ショックを受けたのか。
その後の事は覚えてないけど、何かみんなに迷惑か心配をかけたような気がする。
「サクラ、俺、いったい……」
そう言うや、サクラは俺に抱き着いてきた。
「タカヒロ様、タカヒロ様……」
「サクラ?」
泣きながら抱き着いているサクラ。
しばらくの間、そうしていたが、やがてサクラは俺の顔を見つめて
「タカヒロ様、わっ、私が、グスッ、私が付いています、っですから、ですから、気を、気を強く持っていて下さい……」
「ああ、大丈夫だよ、落ち着いているから、大丈夫だよ。」
「タカヒロ様……」
「何か、心配かけちゃったみたいだな……」
聞くと、俺はかなり取り乱した、というか、錯乱していたみたいだ。
もはや理性も自我もなく、神殿周辺の構造物を素手で破壊し始めたそうだ。
サクラ、ローズ、アルチナ、シャヴィ、そしてマリューさんが総出でどうにかして押さえて大人しくしたらしいが。
俺、サクラ達にも危害を加えたんじゃ……
「いいえ、タカヒロ様は私達には一切手をだしていませんでした。タカヒロ様の本当の優しさが、充分理解できましたよ?」
「そうなのか、それは良かった……そうか……」
「タカヒロ様、あの、」
「ああ、ショックではあったけど、理解はした、納得……も、うん、できると思う。もう大丈夫だよ。」
「タカヒロ様。」
「サクラ、ごめん、ありがとう。」
そう言って、サクラを抱きしめる。
となると、みんなの所にも行かなきゃな。
迷惑かけたし、謝らないと。
俺はサクラを伴って、みんなが居る部屋へと行った。
俺の顔を見るや否や、ローズ、カスミ、アルチナ、リサ、ピコが飛び出して抱き着いてきた。
シャヴィやマリューさん、サダコは心配そうに、しかし優し気に俺を見ていた。
「みんな、ゴメン、すまない。迷惑かけたみたいだな。」
みんな何も言わず、抱き着いている。
「まったく、大騒動じゃったぞ、そちが本気で暴れると、この城も簡単に崩壊するじゃろうな。」
「うむ、おヌシ、強いとは思っておったが、想像以上の力の持ち主なんじゃな。」
「どう、タカ。落ち着けた?」
「みんな……ごめんなさい……」
いやほんと、申し訳ないなぁ。
しかし、それだけ俺にとってはショックだった。
何より、自分の子供たちがそれで消滅したなんて聞いて、どうにかならない親なんていないよ、マジで。
(あー、オイラ達もお前抑えるのに苦労したんだぜ?)
(フェスタ―か。 )
(ボクたちの制御が全然利きませんでしたよ。抑えるので精一杯でした。)
(ムーン、す、すまん……)
「とはいえねー、あれじゃしようがないかもねー」
「グノーメなんて、必死にタカヒロの腕にしがみ付いてたもんね」
「あたいたち全員で押さえたのに、全然抑えられなかったんだよ?」
「タカヒロ、怖かったよ、マジで。」
(ホント、ごめん、なさい、みんな。)
(まぁ、しょうがないけどさ。でも、正気に戻ってくれて助かったよ)
こいつらにも迷惑かけたんだな。
ホント、面目ない。
そんなこんなで、再度全員でミーティングとなった。
「それで、なのじゃが。」
マリューさんは、あの後“声”にこう告げられたそうだ。
「まずは一旦この偵察任務?は終了じゃな。タカヒロ殿たちは一度国に戻るがよいと思う。」
「そうですね、ひとまずの魔界の様子の報告はしなきゃならないけど……」
「どう、報告するか、ですね。」
「ああ、どうしたもんかな。」
まぁ、なんとか取り繕うしかないんだけども、今後の事も考えると、あまりいい加減な事は報告できない。
下手をすると、人間と魔族、龍族と共同で行動、なんてこともあるかも知れないし。
一応、龍族の事は触れないようにしようとも思ったんだけど、マリューさんは別に構わん、と言ってくれた。
とはいえ、それにしたって下手な報告はできないよなぁ。
「一旦戻るとして、そこからどうするか、だな。」
「あの声が言うには、シヴァ様に拝謁すべき、だそうじゃ。この星の危機についても、シヴァ様が説明してくれるやもしれぬしの。」
「シヴァ様って、ちょくちょく話に出てきた精霊女王ですね?」
「うむ、まぁ、シヴァ様の所へはわらわか魔王の助力は必須であるがな。つまり、行く際はここに立ち寄らねばならぬ。」
「それは全然問題ありませんが、助力?」
「うむ、わらわか魔王が一緒でないと、入口すら発見できぬだろうな。」
「そうなのですか。」
という事で、ひとまず方針は決まった。
まずはエスト王国を経由してラディアンス王国へと帰る事に決定した。
すると
「私も同行するからな、タカ。」
シャヴィがそんな事を言い出した。
「へ?何で?」
「いや、何でもへちまもない。お前は私を負かしたのだぞ。龍族の女は負けた男の妻になる事が決まっているんだよ。」
「いやいやいやいや、聞いてないけど!?」
「言ってないし。」
「いや、だからってそんな」
「はははは、冗談だよ。そんな決まりはない。」
「おい!」
「まぁ、でも、付いていきたいってのもあるし、何よりタカの力になりたいとも思っている。アルチナは良くて私はダメ、なのか?」
「いや、そんな事はない。ないけど……」
「なら、決まりだ。よろしくな。」
「あ、ああ、わかったよ。苦労掛けちゃうかもしれないけど、よろしくな。」
そうして、シャヴィはサダコとともに俺たち一行に加わったのだった。
第四章終了。
さあ、どんどん行きますよ。




