第57話 光の玉“月の欠片”
茨城弁は文字に起こすととっても読み難いです。
ごめんなさい。
おっちゃんのイントネーションは某漫才コンビ(栃木出身の方ですけど)の方の声を渋くした感じで想像してみてください。
朝、宿を引き払い、電車に乗って再び羽黒駅に戻った。
この駅からあの山まで歩いて行くわけなのだが……
「で、なんで、サダコがここに居るんだよ。」
「うむ、一度“でんしゃ”というものに乗ってみたかったのじゃ。」
「お前、山頂で待ってるって言ってたじゃないか。」
「もう行って、天狗に話はしてある。」
「まぁ、いいけどさ。」
そういう訳で、3人で山登り、と相成った。
山の登り口までは2キロ強あるけど、秋晴れで爽やかな天気だ。歩くのも苦にならない。
駅を出て山へ向かう途中、
「ねぇ、そういやアンタの実家ってどのへんなの?」
とカスミが聞いてきた。
丁度実家の近くで、遠目に見える所だった。
「ああ、あれだよ、あの赤い瓦の家。」
「へー、あそこかぁ。ねぇ、アタシ、アンタの実家に挨拶行こうかな?」
「やめとけよ。俺はこっちの俺じゃないんだし。」
とはいえ、気にはなる。
「オフクロ、元気かなぁ……」
その実家を見ると、軒先でオフクロと兄貴、弟が茶を啜りながら談笑しているのが見えた。
時期的に秋の連休なんだろう、家族連れで帰郷しているのかもしれない。
みんなで庭の手入れか何かをしていたんだろうな。
こっちでもそういう所は変わらないみたいだ。
でも、そこに俺の姿はなかった。
何故かはわからない。
でも、こういう時はたいてい俺も家族引き連れて実家にきて、一緒にやっていたと思う。
なのに、見当たらない。
何故かは、やはりわからない。
少し、寂しいというか、悲しくなった。
顔に出ていたのか、カスミがそれに気づいたようで
「タカヒロ……」
そっと、俺の手を握ってきた。
気付いたら、涙を流していた。
「あ、ああ、スマン。何でもないさ……」
カスミはその後、しばらく手を繋いでいてくれた。
ありがとうな、カスミ。
「ふむ、途中何やらあったが、ようやく着いたな。このへんじゃ。」
この子はこの子で気を使ってくれたんだろうな。道中、ほとんど話しかけてこなかった。
で、着いたところは山頂付近にある神社の前だった。
そこから少し離れた林の中まで行くと
「さて、あ奴はこの辺におるはずじゃが。」
すると、木の上に誰かが現れた。
「何でぇ、座敷が、早がったなや。」
コテコテの茨城弁で話す木の上の大男。
うん?なんか、見覚えがあるような……
「おめぇがその男が、って、あれ、おめ、あん時の小僧じゃねーのが?」
あっちも何か思い出したようだ。
「おっちゃん?天狗のおっちゃん?」
「んだ!俺だよ、おめぇタガヒロだっぺ?」
「うん!そうだよ、天狗のおっちゃん、本物の天狗だったのか?」
「あはは、なんでぇ、わがんながったのが。天狗だっつったっぺよ。」
「……おっちゃん!」
「へへ、しばらぐぶりだな、タガヒロ。」
俺は涙を流しつつ、おっちゃんに駆け寄って抱き着いた。
ほんの僅かな時間そうしていたが、俺は離れておっちゃんと握手を交わした。
するとおっちゃんは
「んで、なんでタガヒロが座敷といっしょなんで?」
するとサダコは
「まぁ、大体は夕べ話した通りじゃな。で、言っておくが、天狗もタカヒロも、お互い違う世界の者じゃからな。」
そう、俺は別の世界から来たんだ。
この世界の俺は別にいるはずだ。
おっちゃんはこの世界のおっちゃんだ。
要するに平行世界の同一人物、と言ったところか。
それに、どうもお互いの世界の出来事は全く同じみたいだ。
何か、不思議な感じがする。
「そうじゃの。それが何を意味しているのかはワシもわからぬが。今は再開?を喜び合っている暇はないのではないか?」
そうだった。
色々と懐かしがったり、疑問に拘泥している場合じゃない。
「そ、そうだ、おっちゃん、聞きたいことがあるんだよ。」
「ん?何でぇ?」
「これっくらいの大きさの、光る玉って知らない?」
「光る玉?んーそんなもん知んね……ん、あれ?そういうのどっかで……」
しばらく考えたおっちゃんは思い出したようで
「ああ、それ、オレ持ってだわ。」
「おっちゃん!!」
「ちっとまっでろや、今持ってくっかん。」
天狗のおっちゃんはフッと姿を消し、すぐにまた現れた。
手には大きな、黄色く光る珠があった。
「ほれ、これだっぺ?」
「ああ!たぶん、これだよ!」
「これが何だっつうんで?」
俺は俺が来た理由を詳しくおっちゃんに説明した。
するとおっちゃんは
「ほーがぁ、それ、たぶん、あの雪ん子が関わってっかも知んねな。」
「雪ん子?」
「んだ。タガヒロ、おめぇがこごに来なぐなった理由、覚えでっか?」
「実は、よく覚えていない、かな。」
「あのな、雪ん子がよ、おめぇの事気に入ってな、抱っこしようとしたらおめぇが怖がって逃げでったんだ。」
それって、夕べサダコが言ってた話じゃ……
え?じゃあ、その雪ん子ってのは、精霊?
「んでよ、雪ん子はおめぇを怖がらせっちった、泣がせっちったっつって、えっらい落ち込んでな。」
そうか、俺がこの山を何となく怖いと思っていたのは、それがトラウマになっていたんだな。
しかし、俺が泣き叫びながら逃げるって、どんな怖い顔してたんだ、その雪ん子は。
「結局、それ以来雪ん子は来なぐなっちったんだけどな。」
そうか、俺も恐怖でトラウマになったけど、雪ん子さんも傷ついたのか。
なんか、ごめん、雪ん子さん。
「での、よく考えたら、雪ん子はおヌシと同じ世界の者、じゃなかろうかと思っての。」
「そういや、この世界には精霊とかはいないんだよな?」
俺の元の世界もそうだけど。
「んだな、オレや座敷は昔っから言われでる妖怪ってやづだな。」
「幽霊や物の怪はおってもの、精霊や妖精とかは、少なくともこの日本にはおらぬの。」
「そうなんだ……」
「そういや一度、この玉を雪ん子に見せた事があったな。そん時は時に何も言ってながったげどな。」
ただ、その雪ん子さんはこの玉が何か重要なものであることを、何となく理解していた節はあったそうだ。
それが、今回の俺の探索に関わっているとすれば、雪ん子さんの正体って……
「ほれ、持ってげよタガヒロ。」
「おっちゃん、いいのか?」
「まぁ、元々拾ったもんだしな。それにな。」
「うん?」
「おめぇは本来、此処には居じゃダメなんだっぺ?」
「そうだな……」
「これは本来あっちゃいけない事なんだと思う。
んでもよ、おめぇの世界はそんな禁忌を侵さねーどダメなくらいの危機にあるっつう事なんだっぺな。」
「そう、なのかも。」
「んで、たぶん雪ん子はそれを知ってっかもしんねぇ。」
「そうかも知れない、いや、なんとなくそうだと思う。」
「まぁ、おめぇの世界でもし雪ん子を見たら、よろしく言っといでくろや。」
「ああ、うん。わかったよ。」
「んで、何時帰んで?」
あ!そうだった。
帰る方法とか、聞いてなかったんだ!
なんだろう、また三重県まで戻るのかな?
というか、戻ってどうすりゃいいんだろう?
……これは、ちょっとピーンチじゃなかろうか?
「んじゃあよ、この先に“天狗の七飛び”があったっぺ?」
「ああ、覚えてるよ、よく遊んだもんな。」
「その4つ目の岩の奥に、雪ん子が出入りしてだ空間があんだよ。たぶん、それで帰れんじゃねえが?」
「おお!!」
確信は持てないが、現状他に手掛かりはないな。
とりあえず、その場所まで行くしかないか。
その、天狗の七飛びの場所まできた。
言っていた4つ目の岩の横、人が通れるほどの隙間の奥に、何か空間の歪みみたいのが見える。
淡く明滅していて、今にも消えそうな気もする。
もしかして、あんまり時間は無いのかな?
というか、あれに飛び込んで本当に帰れるのかな?
不安しかない。
「まぁ、考えてても仕方がないか。じゃあ、いくよおっちゃん。」
「ん。」
「ちょい待ち!」
「「「 ん? 」」」
サダコが何か言い出した。
「のう、おヌシよ。ワシもおヌシの世界へ連れていけ。」
「は?何でいきなり、というか、良いのかそれで?」
「まぁ、実の所面白そうじゃ、というのもあるが、おヌシの世界の危機、というのも気になるのじゃ。」
「気になるったって、こっちの他の座敷童はどうすんの?」
「それは問題なかろう。すでに個々はもはや独立体じゃしな。あの山の神社も、別にワシが祀られているわけじゃないしの。」
「そ、そうなのか。」
「というわけで、ワシも行くぞ。あっちでせいぜいワシを待遇せい。」
「あはは、わかったよ。」
という訳で、サダコが仲間に加わった!
良いのか、マジで。
「じゃあ、おっちゃん、そろそろ行くよ。」
「ああ、もう会う事はねーがも知んねえげど、元気でな。」
「うん、会えてうれしかったよ。ありがとう。」
「ああ、じゃあな。」
そう言って、俺たちはその空間の歪みに入っていった。
目の前が暗くなるまで、おっちゃんが手を振っていたのが見えた。




