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第56話 サダコ

 宿に外出する旨伝え、歩いてその場所まできた。

 小さな山の中腹にある公園だ。

 駅前の喧噪が嘘のように、しんと静まり帰っている。もちろん、人気はない。


 ここはかつて城があった場所で、この一帯はいわゆる城址公園だ。

 所々に、もう使われていない古井戸があり、これがホラー映画のモチーフに使われたとの事から、それが心霊スポットの目玉にもなっている。


 それ以前からいわく的なものはあったのだが、俺からすればそれは噂程度で実感はない。

 が、今は様相が違う。

 明らかに何かの気配を感じられる。

 でも、たとえそれが幽霊の類であったり物の怪だったとしても、光の玉につながる何かが得られればめっけもんだな。


 「ねータカヒロ。」

 「ん?何だ?」

 「幽霊してたアタシが言うのもなんだけどさ、」

 「うん?」

 「ここって、メチャクチャ怖ない?」

 「へー、お前でもそう思うんだ。」

 「何かね、こう、部分的に得体の知れない未知のパワーがとごっているような、そんな怖さ?」

 「とごってるって何だよ?」

 「あれ?アンタ知らんの?とごる。」

 「聞かないな、それ三重の方言か?」

 「いんや、名古屋でも言うよ。ていうか、何年も住んでてわからんの?」

 「あーあまり会社以外の他人と交流なかったからなぁ。」

 「ふーん、まあいいや、要するに、分離とか沈殿してるって事やに。」

 「未知の力が沈殿、か……」


 そんな話をしながら、暗闇を明かりも灯さず進んでいると


 「おーぬしら……なーにをしておるのじゃぁぁ……」


 ビックリした!

 マジビックリしたよ!

 怖いのは平気だけど、ビックリするのは勘弁してくれ。

 気配がまるでなかったのに、今ははっきりと後ろに誰かが立っている。


 振り向くと、そこには……


 淡い光に包まれた、白装束で長い髪を前に垂らし顔を隠した女性が立っていた。

 足は白い足袋を履いているが、何だか少し透けている。


 「「 で! でたー!! 」」


 「ふふふ……ふ?」


 「ユーレイだ、ユーレイだよカスミ、モノホンだよ!」

 「キャー!アタシ以外のユーレイ久しぶりだよー!」

 「すげー!ユーレイすげー!マジでいたんだな!」

 「ねね、ちょっと触ってみよ?」


 「は?」


 興奮する俺たちに、ユーレイらしき人はドン引きしている。


 「お、おぬしら、ワシは幽霊じゃぞ、ほれ、ユーレイなんじゃぞ?なぜ驚かぬ?なぜ怖がらぬ?」

 「え?だってさ、ユーレイだぜ?」

 「だってねー、アタシも元幽霊だし!」

 「な、なんなんじゃこ奴ら……あ、ほれ、呪われるやもしれぬぞ、殺されるかもしれぬのだぞ?」

 「あ、そういうの平気なので。」

 「アタシはもう、一回死んでるし!」

 「うむむむ……」

 「あ、そんでね、君に聞きたいことがあるんだけど。」

 「はあ!?」

 「いや、聞きたいことが」


 俺たちの様子に、ユーレイは困惑しているようだ。


 「ちょ!ちょっと待て!! あのな!まず、じゃ!、まずは落ち着け、ぬしら!」

 「「 はいッ! 」」

 「ワシはユーレイじゃぞ!?」

 「「 そーですね! 」」

 「ヌシらに取り憑くやも知らんぞ?」

 「「 そーかもね! 」」

 「……何でそんなに嬉しそうなのじゃ……」


 そう言われても、ね。

 興奮してしまうよね。

 と、それよりも。


 「あのさ、ひとついいかな?」

 「むー、もうよい、何じゃ一体。」

 「何か、君ユーレイにしては感情豊かな気がするんだけど……」

 「なな!いや、間違いないぞ?うん、ユーレイじゃ!」

 「というか、顔をよく見せれもらえないかな?」

 「んな!」


 そう言って、ユーレイさんの前髪を左右に分けてみた。

 勝手に触るのはデリカシーがないかも知れないけど、好奇心には勝てない。

 そして、顔が露になったユーレイさんは。

 可愛い顔立ちの美少女だった。

 禍々しい顔を想像していただけに、ビックリだ。


 「ちょ、またんか!失礼じゃぞ!というか、何でワシに普通に触れるのじゃ?」

 「「 え? 」」

 「え?」

 「いや、普通に触れたけど?」

 「いやいや、ワシは精神体じゃぞ?実体はないのじゃぞ?」

 「そう言われましても……」

 「何者じゃヌシら?まさか、この世の者ではあらぬな!物の怪か?」

 「ねーユーレイがそれ言っちゃう?フツー。」

 「あー、この子は元幽霊で元精霊の、一応人間です。」

 「せ、精霊じゃと!?セーレーじゃとォ!?」

 「俺は、別の平行世界から来た普通の人間です。」


 こうして、意図せず真夜中の暗闇会議が始まった。


 「はぁー、何が何やら。まぁとにかく、実を言うとワシはユーレイではないんじゃ。」

 「あ、やっぱり?」

 「うむ、正体はいわゆる妖怪、物の怪と呼ばれる存在じゃな。」

 「妖怪、かぁ。」

 「ワシはこの山に住み着き、長い事人間界を眺めておったのじゃ。」


 聞けば、昔ここで一緒に遊んでくれた人がいて、親切にしてもらったようで、そのお返しにその人が出世するよう助力したんだそうだ。

 しかし、繁栄もつかの間、時世なのかその人の繁栄も途絶え、その一族はこの地から去っていったそうだ。

 それ以来、この物の怪さんはこの地に根付いた、という事らしい。


 「あのさ、それって、いわゆる座敷童の事じゃないの?」

 「うむ、そう呼ばれた事もあったの。他の個体は現役で座敷童を楽しんでいるようじゃが。」

 「他の個体?」

 「そうじゃな、いわゆるワシはオリジナル、という奴じゃ。ワシから精神分離した個体が独立、いわゆる分身体がいくつか発生したのじゃ。」

 「はー……」

 「そ奴らはワシとは別個性の個体なのじゃが、情報は共有しておる。いわゆるネットワーク、という奴じゃ。」

 「何か君、メチャクチャ現代人っぽくない?」

 「たわけめ、現代人なのじゃ。現役なのだぞ。それはともかく、じゃ。」


 元々そういう能力があったわけではなく、また別の遊び相手がいていろいろと世話を焼いたんだそうだ。

 その遊び相手から、お礼として授かった能力なんだそうだ。

 で、その遊び相手というのが、精霊だったそうだ。

 その精霊はちょくちょく遊びに来ていたらしいが、数十年前、突然来なくなったという。


 「その精霊の子はの、あっちの山の天狗とも仲が良くての、よく一緒に遊んだものなのじゃが。」


 天狗?

 あっちの山?


 「いつだったか、天狗が可愛がっておった地元の子供がいての、精霊はその子供を見るや、ごっつ愛おしくなったらしくての。」


 地元の子供?


 「抱きしめたくなって、我を忘れてその子供に飛びついたらしいのじゃが……」

 「が?」

 「その子供は恐怖に顔を歪め、泣き叫び、一目散に逃げだしたそうじゃ。それ以来、その子供は山に来なくなったそうじゃ。」


 ん?あれ?なんか、それって……

 ま、まあ、いいや。


 「要するに、今の君はフリーな妖怪ってことなのか?」

 「んー、まあ、そうなるな。」

 「で、それが君の本当の姿ってことか。」

 「いや、これはいわゆる、ユーレイヴァージョンという奴じゃ。」


 発音に拘っている所なんか、やっぱり俗っぽいな。

 と

 ポンッという音と共に、座敷童は可愛い少女の姿になった。


 「どうじゃ、可愛かろう?」

 「うん!マジで可愛い、可愛いじゃないか!」

 「すげー!ホントにカワイイやん!」

 「い、いや、そんなに直球で言われるとちょっと照れるが……」


 照れる座敷童って、すごく貴重なんじゃないか?

 ともかく、本題に戻る。


 「で、おぬしらは何をしておったんじゃ?」


 俺はこれまでの経緯を話した。


 「ふむぅ、光の玉、のう……」


 座敷童は何か考え込んで


 「もしかして、アレの事かの……」

 「アレ?」

 「うむ、ちょっとついてまいれ。」


 座敷童について行った先は、山頂にある社だった。その社の脇に、小さな祠がある。

 座敷童はその祠の石扉を開けると、腕を突っ込んだ。

 小さな祠は奥行きが20センチ程度だが、座敷童の腕は肩口まで突っ込まれている。

 不思議な光景だった。

 すると、座敷童は何かを掴んで腕を抜いた。

 その手には、光る小さな玉が掴まれている。


 「それは?」

 「うむ、これはの、ワシが生まれ出た時から持っているモノじゃ。」


 これが、光の玉、なんだろうか。

 しかし、俺に縁のある山ってのは、ここじゃない。

 それは間違いなく、あっちの山だ。

 それに、聞いていたよりも小さい。

 マリューさんが言っていたのはソフトボール大、これはピンポン玉程度だ。


 「なぁ、座敷童ちゃん。」

 「ちょっと待て、その座敷童ちゃん、というのは違和感があるの。」

 「でも、名前がないしな、なんて呼べばいいかな?」

 「そうよのう、何かいい呼び名はないか?」

 「ん-と、じゃあ……サダコってのはどう?」

 「サダコ、じゃと?」

 「まあ、ここに、というかなんというか、一応ゆかりのある名前だよ。」

 「サダコ、良いんじゃなかろうか。ワシはそれで構わん。」

 「じゃあ、サダコな。」


 心なしか、嬉しそうだな。


 「で、サダコ、その光の玉って、俺が貰うわけにはいかないかな?」

 「ふむ、特に問題はなかろうが、これが正しくは何なのかはワシにもわからんぞ?」

 「そうなのか、でも、これは俺が探し求めているモノに準ずるんじゃないかと思うんだよ。」

 「それは、ヌシの勘、か?」

 「そうだね。」

 「まあ、よかろう。それはヌシに預けよう。で、だ。」

 「うん?」


 「天狗の所へはワシも同行しよう。あ奴の所にも光の玉とやらがあるやも知れぬし、天狗とは知らぬ仲ではないからの。」

 「そうか、それはありがたいが、良いのか?」

 「よいよい、ワシも暇しているからの。ところで、じゃ。」

 「何?」

 「ヌシらの名をまだ聞いておらぬな。」

 「あ、そうだった、ゴメン。まだ言ってないな。俺はタカヒロ。」

 「アタシはカスミだよ。」

 「タカヒロにカスミ、じゃな。うむ、よろしくな。」

 「よろしくな、サダコ。」

 「よろしくね、サダコちゃん。」

 「では、明日あの山の頂で会おうかの。ワシは先に言ってあ奴に話を通しておくとしよう。」

 「ありがとう。」


 こうして、暗闇の会議は終わり、俺たちは宿に戻り寝たのだった。


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