第52話 龍族の姫シャヴォンヌ
一夜明け、再び馬車を走らせた。
馬車の中は和気あいあいとしていると思いきや、何やら深刻な話になっているようだ。
御者台の俺の横には、ピコが座っている。
と、ピコとサクラが入れ替わる。
うん、何だか、サクラさん、何か言いたげですね。
「あの、タカヒロ様……」
「な、何かな?」
「カスミさんの様子が何か、いつもと違うのですが……」
「ギクッ!」
「ゆうべ、何かあったのですか?もしや……」
「も、もしや?」
「喧嘩したとか?」
ケンカ、ではないかな、うん。
まあ、隠しててもしょうがない。これは事実をきちんと伝えないとな。
他ならぬサクラなんだし。
「実はな……」
一通り話を聞いたサクラさん、うつむいてプルプル震えて、やっぱり、怒りましたか?
すると、ぱぁーっと明るい表情で
「ようやく、ですのね、ようやくカスミさんも私達と同じ仲間になったのですね!」
いや、元々仲間でしたけども……同じ?
「タカヒロ様、待たせすぎではなかったのですか?」
「い、いや、待たせるも何も、その……」
「もしかして、カスミさんの気持ち、わからなかった、とか?」
「あ、いや……うん。」
「もう、しょうがない方ですね、タカヒロ様は。」
「うん、なんか、すまない。」
「とはいえ、私達があれこれ言うものでもありませんし、心配はしていたのですよ?」
「……」
「でも、タカヒロ様らしいですね、そういう所。」
これは何だろう、貶されているのか褒められているのか、呆れられているのか。
カスミにも朴念仁とか言われたけど、これでも一応妻帯者ですよ、元ですけど。
もっとも、マスミと結婚できたのも、マスミから言ってくれたから、なんだけどな。
臆病なのは否定しないし、女心が理解できていないのも否定はしないさ。
だって、なぁ、そもそも俺は女性不信なんだよ……
そんなやり取りをしつつ、龍族の里近くまで来た。
もう龍族の領土であるロプロス領に入っている。
途中、関所のようなものはなく、このまま進めば龍族の里みたいだ。
とはいえ、まだ距離はありもう一泊野宿する必要がある。
野宿に適した場所に着いたのは陽も傾きオレンジ色に変わりつつある時間だ。
おおよそ16時ちょっと前、くらいか。
野宿といっても寝床は馬車の中だ。馬車の外で焚火を焚いて食事をする以外は特にすることも無い。
ただ、モンスターとかいうあの魔獣もどきは警戒しないといけないので、交代で不寝番をする必要はある。
前半は俺たち、後半はファルク達が受け持つことになった。
俺は前半ずっと起きて、サクラ達は交代となる。
で、最初はリサの番だった。ちなみに戦闘に慣れていないピコはみそっかすだ。
夕食を済ませ、片づけを終えた頃にはすっかり夜になり、不寝番を開始した。
「なんか騒いでたね、サクラ達。」
「そうなのか?」
「うん、馬車の中は凄かったよ、みんななんかカスミにおめでとうとか言ってさ。」
「そうか。」
「ね、ね、ケッコンってそんなにイイものなの?」
「うーん、そうだな、名実ともに家族になるって事だしな。というか、お前結婚って知らないの?」
「うーん、教えてもらったことはないかな。でも、家族はわかるよ。お母さまとお父様と私は家族だもんね。」
「そうか、そういや、お前のお父さんは?」
「魔界の都市部にいるよ。何か、警備隊ってのの隊長だって。」
「そうなんだ。」
「ねぇ、私もタカヒロの家族になれる?」
「そ、それは……」
答えに窮した時、リサはさっと山肌の方に視線を向けた。
俺も、同時にその気配を感じた。
「何か、来たな。」
「うん、これは、結構あぶないかも。」
その気配の主はゆっくりとこちらに歩み寄ってきている。
その姿が視認できるところまで来た時、その気配の主が言葉を発した。
「ほほう、噂通り、人間ごときにしては面白い“気”をもっているな。」
薄衣、というかワンピースみたいな服を着た女性だった。
長い髪をなびかせ、妖艶な笑みを浮かべ、その手には剣を携えている。
何というか、この人?も凄い美しい顔立ちをしている。
いや、サクラとアルチナとも同じくらいに美人だ。
「誰だ。」
落ち着いた感を崩さずに聞いた。
「貴様がタカヒロとかいう人間か?」
「そうだが、あなたは?」
「人間風情に名乗る名はない。我らに会える程の者かどうか、今ここで確かめさせてもらおう。」
「我ら?」
「無駄口をたたくつもりはない。」
そう言うと、その女性はいきなり斬りかかってきた。
俺はセイバーを抜き剣を受け止めるが、女性はすかさずバックステップで間をとった。
動きはとても迅い。
リサは女性の後方に回り臨戦態勢を取っている。
無言のまま、再び女性は攻撃してきた。速さは魔王ほどではないか、剣術に関してはかなりのものだ。
受けると引き、流し、突いてくるかと思えば薙いでくる、変幻自在の剣さばきだ。
夜ということもあり、剣筋を見て対応していては遅れる。
流れと予測、気配そして感覚、すべてを使って女性の剣に対応する。
状況が不明なため、相手にダメージを与える事は控えるべきだろう。
とはいえ、これはちょっと難儀だな。
すると
「剣の腕はいいようだな、人間、しかし。」
再び間を取ると、詠唱なしで魔法を放ってきた。
火の魔法のようだが、威力が凄い。
が、俺はそれを剣で受ける。セイバーが現象を魔力に還元して剣にまとわりつかせたのだ。
そのまま剣を振るい、魔力を再び火に変えて打ち返した。
同時に、水球を女性の足元に放つ。
(もー、せっかくウチが出張ったのに外れたよ!タカヒロのへたくそ!)
「いいんだよ、これで。」
ウェンディがちょっと呆れたように言ったが、そもそも当てるつもりはないんだよ。
「ほう、魔法も使えるのか……」
女性は驚いたように見ている。が、表情を厳しいものに戻し
「ならば、これで終わりにしよう。さあ、死ね!」
剣に魔力を乗せた突きを放ってきた。
10連突きだ、が、全部が同時に見えるほどの素早い突きだ。
残像はそのまま魔力で物理的に残っている。
面白い技だが、受ける方はたまったもんじゃないな、これ。
「そうそう簡単に死ねないな、てやッ!」
9本の残像を払いのけ、本体の剣をそのまま流して、女性の喉元にセイバーを振るう。
が、寸止めだ。
寸止めするのって、逆に難しいんだけどな。
「!!」
女性は初めて驚愕の表情を浮かべ、冷や汗を垂らした。
「もう、いいでしょう、止めませんか?」
「……ふぅ、これは、負け、たのだな?」
「うーん、そうなります、かね。」
「わかった。剣を引こう。」
意外と素直に負けを認め、剣を収めてくれた。
すると
「すまない、無礼を働いたな、謝罪する。」
「は、はぁ……」
「さすが魔王殿が友と呼ぶほどの者だ。申し遅れた、私はシャヴォンヌ、龍族の女王、マリューの次女だ。」
「龍族のお姫様!ですか!?」
「お前がタカヒロだな。人間ではあるが、その強さは認めよう。」
「……」
「本来であれば、人間ごときと話などしないが、お前は別だ。私に勝ったのだしな。」
「は、はぁ……」
もう、生返事しかでない。
よりにもよって、龍族の姫、だって?
騒動を聞きつけ、全員がこちらに集まってきていた。
と、アルチナは
「シャヴォンヌ、あなたも結構お茶目な事をしますのね。」
「アルチナ、いたのか。君も人が悪いな、黙っているなんて。」
「まぁ、いわゆるサプライズを提供しようかと思いまして、ね。」
サプライズって、なんでそんなの知ってんだよ。
というか、アルチナの知り合いだったのか。
「タカヒロ様はお強かったでしょう?」
「ああ、それは認めよう。もしかして君も?」
「はい、負けましたよ?」
「本当か……それは、凄いな。じゃあ、あれか?」
あれ?あれって?
「アルチナの夫になるのか、そのタカヒロが。」
「ふぁ?」
「うふふ、そうですわ。」
「へぇー……」
目を丸くして、まじまじと俺を見つめるシャヴォンヌさん。
いや、美人なあなたにそんなに見つめられると、その、照れますよ?
「ま、いいか。」
「何がだよ……」
「今日はもう遅いから、私もここで寝るぞ。あ、そうそう、警戒は不要だよ。何かあっても私が居るからさ。」
という事で、全員が床に就くことになった。
が、眠れたのはアルチナとシャヴォンヌさんだけだった。
翌朝。
太陽の下で、改めてシャヴォンヌさんを見た。
深く碧い美しい髪、整った顔、艶めかしい唇、豊かな胸部、引き締まった腰、キュッと持ち上がったおしり。
何処をとってもこれ以上ない程の美女だ。
もちろん、サクラもアルチナも同じレベルだが、なんというか、ワイルドさと優雅さが同居している。
この要素はサクラとアルチナにはない魅力だな、うん。
「おお、お前、よく見るといい男だな、人間にしては。」
「はい?」
「いや、人間など興味はないが、お前はなんか、興味があるな。」
「俺に興味、ですか?」
「あー、アルチナのダンナなんだろ、堅苦しい話し方はしないでくれよ。」
「は、はぁ、」
「それに、私の事がシャヴィ、でいい。」
「シャヴィ、ですか?」
「だから、そのですかを止めないか?」
「あ、ああ、わかったよ、その、シャヴィ。」
「ふふ、そう、それでいいよ、タカ。」
なんか、こんなやり取りばっかりだな、最近。




