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第48話 世界最強の存在、魔王


 扉が開いた瞬間、玉座に居た思われる、魔王らしき人が俺に向かって突進してきた。

 その速度は俺が反応できない程だ。

 エイダムやファルクですら、見えなかっただろう。


 「よく来たなー!!待っていたぞ!!」


 そう言いながら、俺にがっしりと抱き着いてきた。


 「おお、おお!感じる、感じるぞ!やはりお前は!」

 「うわあ、あの、ちょっと、ちょーっと待ってください!」


 やばい、メチャクチャ抱きしめてくる。

 いや、痛い!骨が軋んでる!死ぬ!


 「い、痛いです、痛いです!」

 「おおお、すまん、つい。」

 

 魔王らしき人は体を離し、俺の両肩をガシっとつかみ


 「お前がタカヒロだな、会いたかったぞ!」

 「あ、はい、トモベタカヒロと言います。」

 「うむ、歓迎するぞ、さあ、こちらへ来てくれ、さあ!」

 「あ、あの!貴方は、魔王様ですか?」

 「おお!これはすまん、そうだ、オレが魔界を統べる魔王、マオだ!」


 なんというか、俺が想像していた魔王とは全く違う印象だ。

 というか、フレンドリーにもほどがある。

 魔王に促され通された部屋は、貴賓室みたいな所だ。


 俺たち一行は椅子へと促され、それぞれ着席した。

 俺は魔王の隣に座り、魔王直々に酌をされた。


 「この素晴らしき出会いに、乾杯だ!」


 と、何やら宴会の様相になっている。


 「あ、あの、魔王様、これは一体」

 「なあに、タカヒロよ、これはオレの心の現れなんだ。お前に会えるのが楽しみだったんだよ!」

 「俺に?何で?いや、マジで、何で?」

 「がはははは、そうだな、まずそれから話をしようではないか!」


 魔王は空になった盃をテーブルに置き


 「オレはな、勇者と約束をしたのだよ。」

 「勇者?勇者って……」

 「うむ、500年前に、魔族を救ってくれた勇者だ。あ奴とオレは親友だったのだ。」


 魔王はそう話し始めた。


 500年前まで、魔族はこの地を中心に今と同じように慎ましく暮らしていたんだそうだ。

 この地は地場の影響からか、魔力が他の地よりも多く発生しているから、らしい。

 当時は人間とも普通に交流があり交易も盛んに行われていて、ある程度共栄共存の関係にあったらしい。

 しかし

 一部の国家が魔族を「人間を苦しめる悪だ」と公言し始め、魔族への迫害が始まったらしい。

 その国はついにこの地へ進撃を開始したんだが、魔族としてもそれは阻止すべき事態でもあったと。


 当然、魔族は始めは話し合いで誤解を解き、事を収めようと努力を続けたが、それは決裂しついに交戦状態となった。

 もちろん、魔族と人間との力の差は大きく、人間側は攻めあぐねて膠着状態となったらしい。

 そこに現れたのが、勇者だった、と。


 人間側はここぞとばかりに勇者に魔族を滅ぼすようにと懇願し、勇者ただ一人で魔族と闘う事となった。

 そして、勇者は魔王を討ち取り、魔族の生活圏全てを結界で覆い、結果魔界は閉じ込められた。

 その後、満身創痍となった勇者はどこかへと旅立ち、人間界からは消えた。

 魔族は結界に閉じ込められ、そこから出ることは叶わなくなった。


 これが500年前の戦争の、人間側では伝わっていない事実なんだ、と。


 「うーん、聞けば聞くほど、人間側の行動の意味がわかりません。」

 「そうだな、これには実は後日談もあってな。」

 「後日談?ですか?」

 「そうだ。そもそも人間側はとある国家の一部の者が、肥沃で開拓の余地が多く残るこの地を手に入れるべく、ありもしない話をでっちあげて戦争を起こしたんだが、」

 「あ、やっぱり領地拡大がその目的なんですか。」

 「うむ、しかし、結果として勇者がこの地を結界にて封印したことで手が出せなくなり、その目的は潰えたのだ。」

 「そうなりますね、まったくの骨折り損というか無駄な事をしただけですね。」


 「そして、面目をつぶされたその国王は、その責任を勇者にすべて被せたんだよ。」

 「なんて、なんて身勝手な馬鹿どもなんだ……」

 「それ故、勇者は人間界から追放という事になったそうだぞ。

 もっとも、民衆の間ではそれまでの功績を讃えていてな、勇者を信じる者の方が圧倒的に多かったのだ。

 それ故民は国王のその行為を激しく非難し国家は混乱したそうだ。」

 「……」


 「で、だ、勇者は人間界から去り、事の発端となったその国は滅亡したそうだ。」

 「なんというか、どの世界、どの時代でも、そういう人間の所業は不変なんですね……」

 「悲しい事ではあるが、それが人間、なんであろうな。こればかりは変わらん。しかし、だ。」

 「?」

 「これは聞いた話ではあるが、人間も大昔に比べればだいぶ大らかにはなったと言われているな。」

 「大らか、ですか?」

 「それが適当かは判らぬが、大昔はそれこそそうした悪意がもっと強かったらしいな。」

 「へ、へぇー……」


 とにかく要するに魔族との戦争っていうのは、人間側の権力者が自己の欲に従って戦争を起こした結果、しっぺ返しをくらったが、その責任を果たさず他者へ責任を押し付けた、と。

 バカの極みだな。形はどうあれ、戦争のテンプレみたいな愚かな行為だよな。

 こんな事に付き合わされた国民はたまったもんじゃないだろうよ。

 が、しかし


 「あの、なぜ勇者様はそんな処置をしたんですか?」

 「うむ、あいつは実はそれ以前からオレと親交があってな、良き友人だった。ま、その話は置いておくが」

 「は、はあ。」

 「要するに、魔族を守ったのだよ。あの結界は、我らを閉じ込めるためではなく、人間が入ってこれないようにしたモノなのだ。」

 「あ、そういう事か、だから魔族は自由に通過できて、人間は入る事も触れることもできない。」

 「そうだな。ただ、それでは今後関係が修復した時に人間が通れない、では困るので、一か所のみ通る事ができる関所を作ったんだそうだ。」

 「それが、門、」

 「うむ、そこ以外、人間はここへ来る術を持たぬ、のだが……」


 のだが?


 「タカヒロ、お前は結界を通れたであろう?」

 「そうですね、普通に。」

 「かつてあ奴が言っておったのだ。次代の勇者、あるいはそれ以上の役割を持つ存在の者は結界の影響なく行き来できるようにした、と。」

 「次代の勇者って……」

 「我とあ奴の約束とは、その存在が現れた暁には全面的に協力しようというモノだったのだよ。で、お前は今代の勇者なのではないか?」

 「いやいやいや違います!そんな大それた存在なわけないです!多少普通じゃないだけです!」

 「とはいえ、エイダムすら軽くあしらい、オレが見てわかるほどの力と魔力を持ち、結界が無効、これで勇者でなければ、何だというのだ?」

 「そういわれましても……あ、事実として勇者の伝説の装備は身に着けていませんし。」

 「ああ、そこの小僧が身に着けている“ワールド”の事か。」


 “ワールド”?装備の名前か?


 「これはな、あやつは所持していただけで装着はしていなかったぞ?」

 「そうなんですか……」

 「実を言うとだな、その装備は、来るべき厄災に備えて、あ奴が準備したものだそうだ。」

 「来るべき、厄災、ですか?」

 「うむ、それが何かはあ奴も知らないと言っていた。が、天啓と言ったか、何かの声を聴き、作らねばならなかったと言っていたな。」

 「うーん……」

 「まぁ、あ奴も魔族だけでなく、人間も守るべき対象と言っていたしな。

 あんな仕打ちを受けてもなお人間を憎むことはなかった、と思うぞ。」

 「そうなのですか、やはり勇者様ってのは、あらゆる意味で勇気ある人なんですね。」


 「その通りですわ!」


 突然響き渡ったのは、女性の声だった。


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