第47話 ピコとの再会
「実はな、タカヒロの事は父上以外にも、貴様の事をよく知る者から人となりを聞いているのだ。」
「俺をよく知る者って、魔族の知り合いはリサ達やピコくらいだが……」
「うむ、そのピコの事だな、うん。」
「いや、ピコは無事なのか?」
「無事も何も、今では城下町で元気に暮らして居るぞ。今から寄るのは、そのピコの店なのだ。」
「ピコの店?」
「あー、正確にはピコの親の店、だな。貴様が来たら合わせると、ピコとの約束なのでな。」
「約束って、王子が市井の一人とそんな約束するんだ。」
「何を言う、王子なぞ肩書にすぎぬ。我らは全て家族のようなものなのだ。社会や政の仕組み上、肩書が必要なだけでな。」
「……魔族って、凄いな。というか、素晴らしい考えだな。」
「であろう?人間と違って、欲に取り憑かれ溺れることはない。そこが大きな違いだな。」
「へぇー。」
その話はサクラ達も大いに興味を持ったようだ。
特に、国民全員が家族のよう、というのはラディアンス国王であったサクラの父の理想でもあったようだし。
城下町に入り、大通りをしばらく進んだところで
「もうすぐピコの店だぞ」
というや否や、通りの向こうから一人の少女が声を上げて走ってきた。
「タカヒロー!本当に!タカヒロだー!」
嬉しさを満面に表して駆けてくる少女。
凄くカワイイ顔立ちで、ライトブルーの長い髪がとても綺麗な少女。
はて、俺はこんな美少女に面識はない。
ないんだが……
少女は俺に飛びつき抱き着くと涙を流し
「会いたかった!寂しかった!」
「お、お前、もしかしてピコか?」
「うん、うん、ピコだよ、タカヒロ……」
そう言って、ピコを名乗る少女は俺の手を取り、指を
「パクッ」
と噛んだ。
……どうも本当にピコらしい。
「あー、ピコ、はしたないから止めような?」
「んふ、ふぁひ!」
ピコは指から口を離すと
「んふー、久しぶりのタカヒロの味だー♪」
「その発言も誤解を招くから止めような?」
「ねね、ウチに来てくれるの?」
「あ、ああ、王城に行く前に寄らせてくれるって事だからな。」
「じゃあ、来て。こっちよ!」
元気そうで何よりだ。
あの日、出来た用事ってのはやっぱり魔王への報告なんだろうな、きっと。
それにしても、あのピコがこんなにカワイイ少女になっていたっていうのがまず驚きだ。
まぁ、ヘビの時でもカワイかったけどなぁ。
ピコの案内で、ピコの両親が営むという店に来た。
なんの店かと思ったら、薬草屋らしい。
すると、ピコの両親らしい人が出迎えた。
「初めまして、ようこそおいで下さいました、タカヒロ様。」
「あ、初めまして。」
「私はヘザー、あ、娘の本名ですが、この子の父のカートと申します。」
「私は同じく、この娘の母のゴールディです。この度は娘を助けていただき、ありがとうございました。」
「あ、いいえ、助けたなんてそんな大層な事は……」
「いえ、聞けばテラノに襲われ怪我をしたところを治療し保護していただいた、と。」
「あー、はい、そうですね、その通りでした。」
「タカヒロはねー、優しくしてくれたんだよー。」
「うふふ、無事帰ってくるなりこの調子で、タカヒロ様の事を話してくるのですよ。」
ピコ、いや、ヘザーか。その両親は凄く気さくに接してくれている。
魔族の人って、なんというか、大らかで温かくて、親切な感じがするなぁ。
あまり会話というのが得意じゃない俺なんだけど、色々と話し込んでしまったよ。
「ねえ、タカヒロはいつまでこっちに居られるの?」
「あまり長居はできないかな、一応、俺たちは秘密裡に偵察に来たっていう名目だからな。」
「偵察、ですか?」
「あ、一応秘密、という事で、すみませんが。」
「あはは、はい、わかっております。」
「では、先を急ぎますので今はこれでお暇します。時間を作って、またお伺いしたいと思いますがよろしいですか?」
「はい、もちろんです。娘も喜びますので。」
「それでは、失礼します。ピコ、またな。」
「うん!」
店を出て、待っていたエイダムに礼を言う。
「なに、礼などいらぬ、というかむしろこちらが礼を尽くすべきなんだがな。」
「いやいや、会えただけで充分だよ。」
こうしてピコとひと時の再開を喜び合い、城へと向かう。
「そういえば、ピコは蛇だったんだけどさ、本当の姿ってやっぱり蛇なの?」
「ああ、彼の者は“ラミア”という種族であるな。蛇、でもあるが、竜の眷属でもあるな。」
「龍?」
「竜、である。まぁ、その辺の区別も曖昧ではあるんだが。」
そうか、ラミアってあれだろ、半身が人型で半身が蛇の、あのラミアだよな。
へー、あのピコがねー。
しかもあんなにカワイイ少女になって。
もうちょっと大きくなったらすんっごい美人になるだろ、あの子。
「さて、着いたぞ。」
「ふあー、近くで見ると、やはり大きいな。というか壮観だな。」
「であろう?立派であろう?」
「ああ、凄いな。」
「とはいえ、な。」
「ん?」
「実はな、この城は……」
「お待ちしておりましたわ!」
「あ、お、お前!」
「え?何?誰?」
エントランスの所に、一人の女性が立っていた。
酷く冷たい目をして俺を睨み
「貴方様がタカヒロ様ですね、こちらへ。ご案内致します。」
「は、はい……」
そう言うと、スタスタと先に行ってしまった。
「あ、おい!……まったく。」
「あ、あの人は?」
「すまぬ、あれは我の妹なのだ。その、若干無礼な振舞をすると思うが、許してやってほしい。」
「ああ、いや、それは良いんだけど。」
「とにかく、魔王の元へ案内する。が、その……」
「ん?」
「先に謝罪しておこう。ごめんな。」
そういったきり、エイダムは無言になった。
そのまま謁見の間らしき部屋の前に来て、扉が開かれた……




