表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/121

第46話 魔族の襲撃

 「門」を通過して数時間程、大きな町に到着した。


 ここは門に一番近い町で、いわば宿場町のような場所だったらしい。

 元々、人間界との交流の場として500年以上前に設けた場所らしいのだが、今は人間はあまり住んでいないらしい。

 あまり、というのは、もはや純粋な「人間」は居らず、魔族とのハーフやその子供が殆どなんだそうだ。

 という事は、以前は人間が共存していたって事だ。


 「魔王様の城まではまだ距離がありますので、本日はこちらで旅の疲れを癒してください。」


 わりと賑わっている町で、人というか魔族の人が多い。

 人間界から人間が来た、という事で結構な騒ぎにもなっているそうだ。


 宿は小さな規模のものが数件あるだけで、宿場町というにはその機能はあまり無い様でもある。

 俺たちは一件の宿屋を貸し切りで使う事になったんだが、宿泊費は


 「不要でございます。マオ…魔王様からたんまり頂きましたので!」


 と女将さんらしき綺麗な魔族の美女がホクホク顔でおっしゃった。


 「この町は特産や名品というものは特に有りませんので、あまりおもてなしはできませんが」

 「いえいえいえ、そんな、気遣いはいりませんよ?というか、むしろごめんなさい。」

 「いえいえいえ、先日のお礼もまだですのでこれくらいは!」


 ミノスさんの好意に甘えるのも悪い気がするが、うん、ここは甘えておこう。

 風呂で旅の汚れを落とし、夕食を取ってひとまず休むことにした。

 夕食がこれまた美味しいものばかりだったのには驚いた。

 聞けば、食材は魔界で採れたものばかりだそうで、それにこちらにはなんと醤油があった。


 醤油があるという事は味噌もあるわけで、和食もできるってわけだ。

 聞けば、魔界の南東側はジパング島と繋がりがあるらしく、そういう文化が存在するそうだ。

 繋がりってところが引っかかるが、交易なのか文化交流なのかは不明だ。

 そういや前にそんな話も聞いたな。

 ともあれ、そんなこんなで休むことになった。


 夜が明けて、ミノスさん先導で魔王城へ向かう。

 昼頃には到着するそうで、馬車でまったりと進んでいる。

 若干荒れた道になり、岩が多く突き出た荒野のようなところに来たその時。


 「待つが良い!人間ども!」


 行く手に軍勢が待ち構えていた。


 「我らに仇成す人間ども!我らの地を蹂躙しに来るとは身の程知らずめ!ここで根絶やしにしてくれようぞ!!」


 身なりも立派な若い魔族が、こちらに向け叫ぶ。

 すかさずミノスさんが馬を降り


 「お、お待ちください!、この方々は!」

 「だまれ!こいつらに味方するなら、貴様も同じ目に会わせるぞ!」

 「し、しかし!」

 「総員、人間どもを囲め!」


 ミノスさんの言葉を一切聞かず、その身なりの立派な魔族は軍勢に向け叫ぶ。

 あっという間に魔族の軍勢に取り囲まれた俺たちは、ひとまず馬車から出てひと固まりとなった。

 なぜかミノスさん達も囲まれている。


 「貴様が人間どもの統率者であるな!」


 その魔族の人は、ギブソンに向かってそう叫んだ。


 「勇者様の装具を盗み、今度は魔界を蹂躙しようと企む卑劣な人間!ここで死ね!」

 「ちょちょちょちょ、ままままま待ってくださいぃぃぃ、オレはそんな……」

 「問答無用だ!行け!」


 一人の魔族の兵士が、目にもとまらぬ速さでギブソンの頬にグーパンチを入れた。

 鋭い剣を持っているのに、斬りかからずにグーパンチ?

 ギブソンは吹っ飛んで気絶した。


 「次は貴様だ!見たところ一番の手練れだな!我が直接たたっ切ってくれるわ!」

 「お、俺の事か?」

 「問答無用!」


 その魔族の人は剣を構え俺に対峙した。

 俺はそれに対して、努めて冷静を装って


 「あのー、こちらはあなた方に敵対する意思はない。落ち着いて剣を引いてくれませんか?」

 「聞く耳持たぬ、さあ、貴様も剣を抜け!一騎打ちと行こうではないか!」


 あー、軍勢を引き連れて、根絶やしにするとか言って、何で一騎打ちなんだよ。

 そんだけの軍勢で殲滅するつもりなら、声をかける必要ないんじゃないか?


 とはいえ、この魔族の人、相当な強さのようだ。

 抹殺する前に強者と剣を交えたい、とか考えてんのかな?

 ミノスさんは青ざめて「あわわわ」と狼狽えるばかりだ。

 どうも策略ってことでもないみたいだな。


 ここで魔族に危害を加えるのは愚策、ではあるが仕方ない。

 できるかどうかはわからないけど相手しないと収まらないようだなぁ。

 まぁ、殺さなければ大丈夫だろ。

 やるしかないか。


 「タカヒロ様、ここは僕が」

 「いや、ご指名だしな。俺が出る、お前はみんなを守ってくれよ。」


 そう言って、魔族の人の前に出た。


 「ほほう、やる気になったか、貴様、名前は。」

 「うーんとですね、人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るものですよ?」

 「う、うぬ、そうであるか、では。」


 意外と素直な魔族の人だな。


 「我の名はエイダム!誇り高き魔族の戦士である!」

 「わあああああー」


 名乗った瞬間、魔族の軍勢は称えるように大声を上げた。


 「俺はタカヒロ、トモベタカヒロと言いまーす。普通の人間です。」

 「貴様、愚弄するか!普通の人間がここに来られる訳はがあるまい!」

 「んな事言われましても……」

 「構えよ、一騎打ちだ。」


 やるとなったらもうやるしかない。

 俺は剣を抜き構える。


 「む、その剣は……やはり着様、ただの人間ではないな。」


 ん?この剣がどうかしたんだろうか。


 「セイバーを扱える人間がいるとは思えぬが、確かめてやろうぞ!」


 そう言って、エイダムさんとやらは切りかかってきた。

 とはいえ、余裕で避けることができる速度で、だ。

 何だろう、わざとか?罠か?

 エイダムさんとやらの初撃を躱し、再び対峙する。


 「貴様、やるな、我の初撃を躱すとは。次はそうはいかぬぞ!」


 再び攻撃を繰り出してきた。

 今度は速い。さっきよりも倍くらい速く手数も増えた。

 が、全て受け、躱し、最後はいなす。

 反撃はしない。


 「ぐう、貴様、真面目にやれ!」

 「真面目も何も、躱すので必死ですよ。」

 「その割には余裕がありすぎるな、おのれ……」


 そう言うと、エイダムさんとやらは虚空からもう一本の剣を取り出し双剣となった。


 「ならば、こちらは本気で行かせてもらうぞ!」


 言うや否や、全身に何かオーラみたいなのを出し始めた。

 おまけに、両方の剣は淡く黄色に光りだした。


 「本気にさせた報いである。死んで後悔せよ!」


 マジで速かった。恐らくはファルクでも見えないかもしれない。

 これまでで一番速い攻撃だ。しかも、剣には魔法だろうか、そんな感じのものを纏っている。

 流石にこれ躱すとまずいかもしれない。

 攻撃の範囲が広そうだし、後ろにサクラ達がいるし。


 仕方がないので受けて反撃する。

 両外から内へ向けて挟み込むように横なぎに剣を振るエイダムさんとやら。

 俺はそれを胴で受ける。防ぐなんてことはしない。

 そのまま剣に光と水の魔力を乗せて、エイダムさんとやらの頭めがけて振り下ろした。


 「なッ!!」


 驚愕の表情で、死をも悟ったであろうエイダムさんとやら。

 そのまま振り下ろせば、おそらく真っ二つになったはずだが、それはマズイ。

 なので、寸止めである。


 「えーと、勝負ありですね。止めましょう。」

 「……」


 冷や汗を流したエイダムさんとやらは無言で剣を引き、悔しそうな表情のまま間を取る。


 「あの、もう止めにしてもらえると嬉しいのですが……」


 俺の言葉に


 「やはり、父上が言っていた通りか。悔しいが我の負けである。」


 そう言うと、軍勢に対して引くように声を上げ、エイダムさんは一つ大きく息を吐いた。

 そして


 「うむ、見事である。いや、驚かせて申し訳ない、が先だな、うん。」

 「あのー?」

 「タカヒロと言ったな、申し訳ない。これはちょっとした余興である。というか、貴様の実力がどれほどかを確かめたかったのだ。手を煩わせた事は謝罪する。」

 「そ、そうなんですか?というか、貴方は一体、誰?」

 「うむ、自己紹介をせねばならぬな。」


 と言って一つ咳払いをするエイダムさん。


 「我はエイダム、魔王が実子で王子である。以後、見知りおいてくれ。」

 「魔界の王子?ですか?」

 「うむ、本当であるぞ。実は貴様の事は父から聞いていてな。我が出迎えると言って出てきたのだ。」

 「にしては、かなり本気だったようですけど?」

 「わははは、すまぬ。それ程の実力者だと、父上から聞いていたのでな。」

 「そうですか、いや、ほんと心臓に悪いですよ。」

 「すまん、お詫びと言っては何だが、我の事はエイダムと呼んでくれ、そして、敬語も要らぬぞ。」

 「はあ。」

 「というか、だな、その、うん、友として接してくれ。」

 「は?」

 「ま、まあ、それについてはまた後でお願いするが、ひとまず王城まで我がエスコートする。」


 そう言うと、エイダムはサクラ達の所にも行き、王族への礼儀を通すように腰を折りこう告げた。


 「驚かせてすまぬ、魔界へようこそ。案内いたそう。」


 もう、サクラ達もファルク達も固まっていましたよ。

 そんなこんなでエイダムの案内で王城まで向かう事になった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ